中国当局が近年、景気刺激策として信用拡大や融資拡大を進めてきた結果、企業や地方政府の債務が急増した。さらに家計、特に20代~30代の若者の債務規模も拡大している。中国は、日本などと比べてより簡単に銀行から自動車ローンや住宅ローンを組むことができる。家計債務の増加で、中国全体の債務が拡大しているため、将来的には2008年のサブプライムローンよりも深刻な金融崩壊が発生する可能性が高まっている。
当局の信用拡大 若者が借金で車や住宅を購入
AFP通信は5月、中国の若年層がローンを容易に組めることについての問題を報じた。記事によると、30代の夫婦が自家用車をマツダからベンツに乗り換えようとした際、銀行から20万元(約360万円)のローンを受けるのに、わずか数分で審査を通ったという。
「いとも簡単にローンを組めるため、多くの若者が借金して車や住宅を買っている。本来なら、高級車や住宅は若者にとって高価すぎて購入できないものだ」「ローンの利息が低いことも、若者が銀行から簡単にお金を借りる理由だ。これは中国の消費者、特にミレニアル世代(1980年代前半から2000年初頭まで生まれた人)の間で流行っている」。
上述の30代夫婦は北京市で3LDKの物件をすでに購入し、現在100万元(約1600万円)の住宅ローンを返済中だという。
住宅価格の上昇で、借金が増える一方
現在、中国の家計債務のうち、住宅ローンが大部分を占めている。背景には、銀行の定期預金金利が低く、国内株式市場の混乱し、当局が個人に対して海外市場への投資を厳しく制限するなどのことから、中国国民は好んで住宅を購入している。
しかし、近年住宅市場の過熱化で、価格が数年内で倍以上に値上がりしている。特に大都市での住宅バブルが懸念されている。
中国当局はバブルの沈静化を図り、住宅ローンの頭金比率を引き上げるなどの抑制措置を打ち出している。それにもかかわらず、住宅価格はいっこうにも下がらない。このため、住宅を購入した若者の借金が膨らむいっぽうだ。
中国では、男性はマイホームがないと結婚できないという伝統的観念が強い。北京に住む28歳のワンさん(男性)もまた、結婚を機に昨年、銀行から300万元(約4800万円)の住宅ローンを受けて、同市で販売価格475万元(約7600万円)のマンション物件を購入した。
頭金はワンさんの両親や友人に出してもらったという。「2012年なら、150万元(約2400万円)で同じ家を買えたのに」「(ローン返済できるかどうか)非常に心配だ」とAFPに明かした。
中国債務全体が拡大 サブプライムより深刻な金融崩壊の懸念
債務が急増する中で、世界第2経済体である中国の経済成長も鈍化しているため、多くの専門家が、将来、中国で世界金融危機を引き起こした米国サブプライムローンよりも深刻な金融崩壊が起き、新たな世界金融危機に発展するのではと警戒する。
米格付け大手のムーディーズは、一部の先進国も中国と同様に、債務規模が対GDP比で高い水準になっているが、しかし中国と比べて、それらの先進国の一人当たりの収入水準より高く、またより完全な金融市場と法的制度を持っていると指摘した。
ムーディーズは中国の債務規模の急増に懸念し、5月下旬に中国国債の格付けを30年ぶりに「Aa3」から「A1」に引き下げた。
市場調査会社「龍洲経訊」(GaveKal Dragonomics)エコノミストの陳龍氏は、家計債務は2011年以降、毎年平均で19%増のペースで拡大しており、その増加は中国債務拡大の主要な原因となったとの見解を示した。
「そのペースで増えていくと、20年に家計債務の規模は、現在の倍となる約66兆元(約1056兆円)まで達し、GDPの70%を占める。13年にはGDPの30%だった。他の国ではこの高水準になるまで数十年かかったのに」とした。
中国当局は、債務規模が一段と増えるのを防ぎ、リスクのある融資を停止し、不良債権の処理も進めているが、これまで絶えず信用拡大に依存し経済成長を優先してきた中国当局の債務縮小への決意には、疑問視する専門家もいる。
オランダ金融会社のラボバンクのチーフストラテジスト、マイケル・エブリイ氏は「中国当局のすべての経済政策が『目の前の経済成長だけに集中し、問題解決を後回しにする』との落とし穴にはまっているからだ」と指摘した。
(翻訳編集・張哲)