「共産党ヒーロー揶揄は違法」中国人気イラスト、全面削除

2018/05/21
更新: 2018/05/21

ネットサーフを好む人は、まるで小学生が書いたような落書き調の漫画を目にしたことがあるかもしれない。単調な絵だが、日常の不満やうっ憤が小気味よく示され、英語圏および中華圏のネットユーザに愛されてきた。「レイジコミック」と呼ばれるこのイラストは、最近、中国共産党当局の取り締まりにより、中国国内ネットからは一手に削除されてしまった。

レイジコミックは約15年前、英語圏のネットユーザーたちが流行させた落書き調4コマ漫画。中国では「暴走漫画」と呼ばれ、同様に滑稽な日常を描く表現手法としてネットで人気を集めた。2012年には、王尼マ(王へんに馬)を名乗る人物が、中国国内で商標登録し、商業化を本格化させた。以後、ネットのほか、役者を使ったテレビ番組やイラストで商業利用されるようになった。

「暴走漫画」は中国最大SNS微博(Weibo)公式アカウント、1000万以上のフォロワーを持つ。中国国内では検閲され見ることができない動画共有サイトYouTubeでさえ、公式サイトの登録者数は247万を数える。

金正恩氏について語る「暴走漫画」によるネット番組(スクリーンショット)

当局の「暴走漫画」一掃措置は、戦時中の活動で歴史に名を遺した共産党員について揶揄した動画コンテンツが原因だという。共産党は彼らを「英雄烈士」と呼ぶ。中国共産党政府は5月1日に「英雄烈士保護法」を施行した。烈士に対する「歪曲、誹謗中傷や名誉毀損、否定するような文章、画像、映像」を違法とする法律だ。

中国官製・中国青年網は5月16日、「暴走漫画」を名指しして「侮辱的な内容がみられる」と批判した。翌17日、北京市公安部およびインターネットサイトを管理する事務局などが、インターネット情報サービスを提供する企業に対して「英雄烈士保護法」に違反するコンテンツやアカウントを徹底的に除去するよう命じた。

その後、矢継ぎ早に「暴走漫画」はインターネットから取り下げられていった。大手のQ&A型サイト「知乎」、SNS新浪微博、動画共有サービス優酷(YouKu)や愛奇芸(Iqiyi)は一様に、「暴走漫画」に関するコンテンツを削除した。なお、海外のサイトであるYouTubeの公式コンテンツでも、動画はすべて削除されている。

「暴走漫画」の王尼マ氏はSNS微博で、このたびの違法行為について謝罪声明を発表。2014年および2015年の作成コンテンツに、英雄烈士を揶揄する内容があったと認めた。今後は社員教育を徹底し、復帰を目指すという。

「暴走漫画」による初めてのアニメ映画「暴走吧!失憶超人」は5月初旬、米大手映画ネット配信サービス・ネットフリックス(Netflix)と3000万ドルの配信契約を結んだばかりだった。

中国メディア・毎日経済新聞によると、「暴走漫画」は将来性を見込まれ、2017年に複数の金融企業から30~40億元の融資を受けたと推測されている。

中国共産党によるインターネットコンテンツへの検閲はますます厳しくなり、この数年で「今日頭條」「鳳凰網」「快手」「火山小視頻」「内涵段子」といったサービスが永久停止された。海外コンテンツでも、皮肉な表現を含む児童向け英アニメ「ペッパーピッグ(Peppa Pig)」を禁止した。

一部のネットユーザーは、政府は法律を2018年5月1日に施行したが、2014年の「暴走漫画」の動画を違法としたことに異議を呈した。また政治や社会風刺のある西洋由来のレイジコミックには、かねてより取り締まり対象として目をつけていたのではないか、と勘ぐるユーザーもいる。

評論家・呉斌氏はラジオフリーアジア(RFA)の取材に対して、中国共産党は「より傲慢に、より狂った」制度を展開していると批判した。

(編集・佐渡道世)