寒の入り前。暖かな陽の差す午後、近所の図書館へ出かけました。
もう一度読みたい絵本があったのです。
大きな樹が幼い男の子を老いていくまで見守る話。
涙で文字が読めなくなるほど心を動かされたのに、どうしても、そのタイトルを思い出せません。
図書館の児童書コーナーの受付にたずねました。
「絵本を探しています。子供と大きな樹がでてきて…」
記憶があいまいで説明は大雑把。
若い受付の方はその本を知らず、ベテラン司書に助けを求めました。
「ああ、古い本ね。きっと『大きな木』のことでしょう、こちらです」
壮年の女性司書は、わずかなヒントで探しあてました。
どうしてそんなにすぐ見つけられたのでしょうか。
彼女に尋ねると、その絵本にまつわる思い出を話してくれました。
「元カレからもらったのよ、よく覚えている…」
「10代のころ、クリスマスに当時の彼氏からプレゼントされた本で…」
すでに初版から50年経つ、シェル・シルヴァスタイン著『大きな木(原題:Giving Tree)』は、相手に無条件の愛情を示すことについて説く絵本。
彼女にとって、絵本の魅力を伝える司書を志すきっかけを与えたそうです。
いまや地域の子供たちに慕われる「ベテラン司書」のスタートは、この本からでした。
壮年の女性の胸に残る、若かりし恋の想い出の本。
絵本を手に取った彼女の顔は、まるで、当時プレゼントされたときの嬉しさが甦ったように見えました。
(文・木上理子)
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