James Oliphant
[フェニックス(アリゾナ州) 15日 ロイター] – アリゾナ州の民主党上院議員候補カイルステン・シネマ氏が今年の大半を費やして展開してきた選挙活動は、米国で最も優れたものだという評価を得ている。だが、米中間選挙まで残り1カ月を切る中で、同候補が先頭でゴールできるか疑問が生じている。
期日前投票が同州で始まり一部の投票が進む中で、ライバル共和党のマーサ・マクサリー候補が急追しているとみられている。わずか数週間前には、上院の過半数奪還に必要な2議席以上を得る可能性を信じていた民主党にとって、これは歓迎できないニュースだ。
ブレット・カバノー氏の最高裁判事指名が6日承認されたことを巡る激しい議論を経て、国内情勢は変化してきたようだ。共和党はテネシー、テキサスなどの州で優位に立ち、フロリダやインディアナでも依然として踏みとどまっている。
そうなると、民主党の議席奪還チャンスが最も大きいのは、アリゾナ州と隣接するネバダ州ということになる。
民主党としては、23議席を積み増して下院の過半数を得る方が見込みは大きい。上下両院のどちらかでも民主党が過半数を奪回できれば、トランプ大統領の政策目標の多くが脅かされ、政権はこれまで以上に厳しく監視されることになろう。
引退する共和党のジェフ・フレーク上院議員の後釜を狙うシネマ下院議員にとって、これまでは形勢不利な情勢だった。アリゾナ州では長らく右派が優勢であり、ある意味では、トランプ大統領の分断的な政策が具体化された州となっている。
ここは、いわゆる「壁を作る」州だ。反移民を掲げる元保安官ジョー・アーパイオ氏の地元であり、現職のフレーク上院議員も、基本的にはトランプ氏に対する批判がたたって引退に追い込まれた。民主党は過去30年間、この州で上院の議席を獲得していない。
だがシネマ候補は選挙戦の序盤で優勢に立ち、選挙ウォッチャーを驚かせた。民主党内ではほぼ無競争で指名を受け、マクサリー共和党候補に対して着実に差をつけた。現在は下院議員で元空軍パイロットのマクサリー候補は、党予備選でアーパイオ氏を含む2人の挑戦者を下し、シネマ候補と女性同士の決戦に臨む。
<中道路線は功奏するか>
シネマ候補は無党派の声を代弁すると自称し、勝利に必要な穏健派の票を集めようとしているが、左派進歩主義支持者からは慎重すぎるとの批判も聞こえてくる。
カバノー氏指名を巡る議論については、ぎりぎり最後になって指名承認に反対を表明しただけで、シネマ候補はほぼ沈黙を守った。米移民関税執行局については、民主党内でその廃止を求める声が上がる中で、その取組みを支持している。
今回の中間選挙において多くの民主党候補が支持している包括的医療政策「メディケイド・フォー・オール」について先週質問を受けた同候補は、「もっと現実的なソリューションを求めている」と答えた。
もっとも、こうしたどっちつかずのアプローチが引き寄せた支持もある。先週、フェニックス中心部で開催されたシネマ候補を応援するイベントに参加したスティーブ・ジェンセンさん(63)もその1人だ。
障害を抱える退役軍人で、長年共和党を支持してきたジェンセンさんだが、共和党の「恐怖政治」に反感を抱くようになり、マクサリー候補がますますトランプ大統領にすり寄るのが気に入らない、と語る。
「マクサリー候補への票は、ほとんどトランプ支持と同じように思える」とジェンセンさんは言う。
シネマ氏の立候補は、保守的なテキサス州における民主党ベト・オルーク下院議員の例と好対照をなす。共和党の現職テッド・クルーズ上院議員に挑戦するオルーク氏は、公然と左派進歩主義の立場をとっている。
<「それでもなおリベラル」>
選挙の勝敗という意味では、現状、オルーク氏よりシネマ氏のほうが勝利に近いように思われる。とはいえ、全国的な注目という点ではオルーク氏にはとうてい及ばない。
「長年アリゾナ州の選挙を見てきた中で、シネマ氏は民主党候補として最も巧みに戦っている」と、フェニックスで活動する民主党の戦略担当者チャド・キャンベル氏は賞賛する。
そのため資金力の豊富な保守派支持団体はシネマ氏を最大の標的と定め、同氏の躍進を阻み、マクサリー氏を応援するため、テレビ・ラジオ広告を大量に投下している。こうした宣伝が「シネマ氏のリードを削っている」と、キャンベル氏も認めている。
宣伝の多くには共通するテーマがある。シネマ候補は本性を隠しており、穏健派を装っているが一皮むけばリベラルだ、という批判だ。シネマ氏は「緑の党」のメンバーとして同州での政治キャリアをスタートしたが、2012年に下院議員に当選した際に、民主党の穏健派グループに参加した。
「シネマ候補は、右へ右へとシフトしようとしている」とアリゾナ州のジャン・ブルワー元州知事(共和党)は、先週フェニックスのラジオ局に語った。「それでもなお、彼女はリベラルだ」
空軍で軍用機パイロットの経験もあるマクサリー候補は、シネマ候補がピンクのチュチュを着て、イラク戦争に反対の声を上げている宣伝動画を複数アップロードしている。保守派団体「アリゾナを守ろう」が先週送付したダイレクトメール広告では、フェニックス上空にキノコ雲が描かれていた。
「マクサリー候補が追い詰められて、見苦しい行動に出ていることは明らかだ」。シネマ候補は先週、選挙イベントの後でそう語った。
共和党では、シネマ氏のイメージダウンを図る攻撃は効果があるとみており、これは選挙が終るまで続けられるだろう、と党関係者は予想する。
マクサリー陣営は強力な選挙応援者の影響力を頼みにするようになっている。かつて共和党候補として大統領選に出馬し、現在ユタ州から上院議員に立候補しているミット・ロムニー氏は12日、同陣営を応援するためアリゾナ州ギルバートの集会に姿を現した。トランプ大統領も19日、フェニックス郊外のメサで、応援イベントを開催する。
「われわれは上院の議席、そして上院での過半数を巡って、文字通りデッドヒートを繰り広げている」。マクサリー候補は聴衆に向かってそう語りかけ、シネマ氏は愛国心に欠けていると批判した。
この州会に参加していたアリゾナ州ファウンテンヒルズのティム・ブッシュネルさん(60)は、シネマ候補には投票できない、と断言する。「彼女の来歴はかなりラディカルな左派だ」
シネマ陣営では、この攻撃に耐えられると信じている。シネマ氏は共和党がまだ予備選を戦っていた序盤の段階で、選挙広告に資金を投じ、有権者に明確な印象を与えているためだ。シネマ候補は依然、選挙資金を募っており、第3・四半期には700万ドルを集めた。
シネマ氏が勝利を収めれば、彼女のような穏健派路線こそ、民主党が2020年の大統領選においてトランプ氏に勝利する最善の戦略だと主張することができるだろう。同候補が負ければ、彼女自身とともに、民主党が上院で過半数を奪回する希望も消えることになる。
(翻訳:エァクレーレン)
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