中国当局の規制強化で市場混乱、専門家「見えない第3の手がより破壊的」

2021/08/19
更新: 2021/08/19

今年に入ってから、中国当局は民間企業への抑圧を強めてきた。8月、官製メディアが当局の規制強化に加わり、次々と企業をやり玉に挙げて大々的に批判を展開した。これによって、国内外の株式市場で様々な分野の企業の株価が急落した。専門家は、規制強化と比べて、官製メディアの批判運動は中国経済への破壊力がより強く、制御不能の可能性があると警告した。

非難轟々

8月以降、中国の官製メディアはほぼ毎日、1つの業界を狙って集中砲火を浴びせた。

中国系カナダ人俳優で元アイドルの呉亦凡容疑者が7月31日、未成年者を含む複数の女性への強姦罪の疑いで拘束されたことをきっかけに、中国国営中央テレビ(CCTV)は今月2日、ファンダムを批判した。報道は、「共産党中央サイバーセキュリティおよび情報化委員会弁公室(中央網信弁)は、良くないファンダムの取締りにおいて、段階的な成果をあげた」とした。株式市場では、関係者はこれが当局によるエンターテインメント業界や動画投稿サイト企業への締めつけ強化のシグナルであると見なし、エンターテインメント企業などの関連株への売り注文が急増した。

6日、共産党機関紙・人民日報は『良くないファンダムを治理整頓せよ、インターネット上のプラットフォームへの管理を強化すべきだ』と題をした評論記事を発表した。市場関係者の間で不安がさらに広がった。同日、香港株式市場では、ショート動画アプリ大手「快手科技」の株価は一時12%近く下落し、時価総額数十億ドルが消えたという。

3日、国営新華社傘下の新聞、経済参考報は、テンセント(騰訊控股)などをやり玉に挙げて、テンセントなどのオンラインゲームは「精神的アヘンだ」と批判した。この記事が公開された直後、香港株式市場では、テンセントのほかに、オンラインゲームを手掛けるポータルサイトの網易、動画投稿サイト大手のビリビリ(bilibili)の株価は一時10%以上下落した。モバイルゲーム大手の中手游(CMGE)の株価は一時20%急落した。

5日、人民日報もオンラインゲーム業界への批判に加わった。その傘下にある証券時報は、政府はゲーム産業に対して税制優遇を与える必要はないと主張した。このため、株式市場ではゲーム関連の株価の低迷が続いた。

4日、中国科学技術部(省)はウェブサイトで、ガンの罹患と飲酒の関連性を示す記事を掲載し、中国酒「白酒」を飲むとガンになるリスクが高まると指摘した。同日、白酒メーカーの株価が急落した。10日、共産党中央規律検査委員会は、宴会の席で相手に酒を薦める習慣を非難したことで、各メーカーの株価がさらに下落した。

4日、国営新華社通信は評論記事で、未成年者の電子タバコの使用について警告し、規制強化を示唆した。これを受けて、同日、米国ニューヨーク株式市場では、中国電子タバコメーカーの霧芯科技(RLX)の売り注文が広まった。翌日の香港株式市場でも、同業の思摩爾(SMOORE、スモーア)の株の下げ幅は一時10%超えた。

5日、経済日報はネット動画共有サイトを批判し、国営新華社は赤ちゃん向けの粉ミルクによって母乳育児が妨げられたと指摘した。

中国当局の国策で産業強化の対象となった半導体産業も、官製メディアの標的になった。

7日、CCTV財経チャンネルは、規制当局は半導体不足を背景に広がっている半導体の価格つり上げやため込みを含む違法行為を調査すべきだと呼びかけた。9日の中国株式市場では、半導体メーカーの国科微電子股份有限公司などの株価は10%以上下落した。杭州立昴微電子股份有限公司の株価はストップ安となった。

中国官製メディアによる次から次への吊し上げに対して、中国企業や国内外の投資家の間で不安が広がっている。一部のネットユーザーは「官製メディアが手を出せば、市場が恐怖で震え上がる」と皮肉った。しかも、中国共産党政権内でも、「官製メディアは市場に干渉すべきか」をめぐって、対立が起きた。

5日夜、広東省深セン市党委員会が所管する新聞紙、「深セン商報」は、『メディアによる株式市場への妨害を防げ』との社説を公表した。記事は、中央政府の官製メディアが上場企業に対して批判を展開したことで、ゲーム産業や白酒産業、電子タバコ産業は深刻な打撃を受けたとの見方を示した。

しかし、この社説はまもなく削除された。いっぽうで、人民日報やCCTVなどの官製メディアはその後、さらに企業への批判を続けている。

さらなる規制強化

実際に、中国企業が恐れているのは官製メディアによる非難の嵐だけではない。当局がその前に行う規制強化にも戦々恐々となっている。

昨年、中国当局は、IT大手アリババ集団とその創業者である馬雲(ジャック・マー)氏への取り締まりを始め、アリババ集団傘下の金融会社、アントグループの香港市場などで新規株式公開(IPO)を中止した。これをきっかけに、中国企業や国内外の市場関係者は、中国共産党政権の民間企業に対する強権的な姿勢を懸念し始めた。

今年7月上旬、共産党政権は米市場に上場したばかりの配車アプリ、滴滴出行を締め付けたことで、企業経営者や投資家の不安がさらに広がった。当局は、国家安全保障のためだとして、滴滴出行に対してサイバーセキュリティ関連の調査を行い、他の中国企業の米市場上場を厳しく精査し始めた。

7月24日、中国の学習塾経営者にとってショックなニュースが入り込んだ。中国当局は、いわゆる「双減」政策の下で、学校主要教科の営利目的の個別学習指導を禁止する方針を打ち出した。この影響で、香港と米国の株式市場では中国の教育関連銘柄が急落した。「双減」政策は、小中高校の生徒の宿題負担と校外学習の負担を減らす政策である。

中国共産党によるインターネットサービス産業や民間教育分野に対する規制強化は、中国や世界の経済に大きな打撃を与えた。米国で上場する中国企業98社で構成するナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数は7月27日までの3営業日で、約20%急落した。約5000億ドルの時価総額が消失したという。一部の米メディアは、中国当局による中国企業への規制強化はウォール街にとって大きな代価を伴う教訓となったと指摘した。

米証券取引委員会はこの事態を受けて、7月30日、中国企業について中国当局が事業に介入するリスクを開示するまで、米株式市場へのIPO手続きを停止すると表明した。

しかし、中国経済に大きなダメージを与えているにもかかわらず、中国当局は依然として規制強化を進めている。

8月11日、中国国務院(内閣に相当)は『法治政府建設実施綱要(2021—2025年)』を公布した。この政策綱要は、「国家安全保障、科学技術のイノベーション、公衆衛生、文化教育、民族・宗教、バイオセーフティー、独占禁止、外国関連の法治」などの重要分野において、立法を推進していくとした。また、「食品・医薬品、公共衛生、自然資源、生態環境、金融サービス、教育指導、都市管理、労働保障、交通運輸」の重点分野では、法の執行や監督管理をさらに強化すると示した。

当局が食品・医薬品、公共衛生などの業界に対する規制強化を推進していくことが明らかになったため、ますます多くの中国企業は、新たな取り締まりの対象になるのではないかと不安を抱え始めた。綱要が発表された翌日の12日、香港市場では、中国保険大手の衆安保険は前営業日比13.82%急落した。中国保険業のバロメーターとされている平安保険の株価も2.8%下落。

経済介入の「第3の手」

台湾淡江大学経済学部の蔡明芳副教授は、「中国当局の市場介入という状況がますます深刻になった。中国における最大のリスクは政策リスクだ」と大紀元に語った。

蔡副教授は、中国当局が中国企業に対して規制を強化したことによって、中国は改革開放前の状態に逆戻りしたと指摘し、「中国経済の最も良い時期はもう過ぎ去った」と話した。

時事評論家の唐敖氏は、国際社会に対して、中国当局の規制強化に注意すると同時に、中国官製メディアによる企業への吊し上げにも注目すべきだと示した。「官製メディアによる中国企業に対する相次ぐ批判は、中国経済に同様の大きな打撃を与えている」

2014年5月26日、習近平氏は党中央政治局の会議において、市場の役割と政府の役割という問題に関して、「見えざる手と見える手の両方をより良く使うよう」と指示し、「政府の役割をより良く発揮せよ」と高官らに要求した。

見えざる手は一般的に、「神の見えざる手」で知られる。英国古典派経済学の創始者、アダム・スミスが著書『国富論』で使った言葉だ。国富論は、私有制の下で、神の見えざる手が働くことによって、政府の介入を必要とせず、人々が自由に競争できるため、社会全体に最も良い経済効果をもたらすと唱えた。

いっぽう、見える手は政府の市場介入を意味する。英国経済学者ジョン・メイナード・ケインズが1930年代、景気回復や拡大のために政府は、財政政策、特に財政支出政策を実施すべきだと提唱したこと、いわゆる「ケインズ経済学」に由来する。この主張は、欧米各国政府の大恐慌への臨時的な対応措置だった。しかし、現在は各国政府が経済情勢をコントロールする政策ツールとなった。

唐氏は、中国官製メディアによる企業への痛烈な批判は「実際に見えない第三の手だ」との見解を示した。

「中国共産党の規制強化の不確実性は、市場秩序を破壊し、人為的なリスクを作り出した。しかし、規制強化と比べて、官製メディアの批判の嵐はより予測不能であり、コントロールできないものだ」と同氏は警告した。

「見える手」である規制強化がもたらす最悪な結果は、中国が再び毛沢東時代のような計画経済になることだ。

「少なくとも、規制強化でどんな結果になるか、損失がどのぐらいになるか、ある程度まで予想できる。しかし、規制強化に伴うメディアの世論戦によって、今後どのような影響を受けるか、批判はいつまで続くかは予測できない」

唐氏によると、中国国内には1000社以上の共産党・中央政府系メディアや地方政府系メディアがある。「これらのメディアは、党や中央政府の様々な部門、地方政府、権貴集団の家族などのそれぞれの代弁者だ。各社の報道記事はどんな分野にどれほどの影響を及ぼすかを推測できず、管理・監視もできない」

深セン市政府の政府系メディアが中央政府系メディアの市場介入を糾弾し、対立したことは1つの事例だ。これは「習近平氏と中央政府でさえ、すべての官製メディアを管理しきれないことの表れだ」と唐氏は述べた。

「習氏の官製メディアの利用はパンドラの箱を開けたのと同じことだ。これは、規制強化よりも、中国経済にはるかに大きなダメージを持続的に与える可能性があるからだ」

(翻訳編集・張哲)