米中貿易戦争 上岡龍次コラム

発展途上国の地位に固守する中国共産党は朝貢貿易と面子を捨てた

2019/08/04
更新: 2019/08/04

トランプ米大統領が7月26日、世界貿易機関(WTO)で中国が発展途上国として優遇措置を受けてはならないとし制度の見直しを求めた。これに対して、中国外務省の華春瑩報道局長は29日、米国は「わがままで高慢だ」と批判し、制度変更に反対の考えを示した。そこには中国共産党が面子を捨てて金銭欲を優先している姿があった。

なぜなら、面子を重んじる中国共産党にとって、発展途上国扱いは屈辱のはずだ。

米中貿易戦争の再開

米中貿易戦争は激化したが2019年6月のG20大阪サミットで休戦、貿易協議が再開した。トランプ大統領は中国が譲歩すると期待したが、予想に反して中国は譲歩しなかった。トランプ氏は中国が2020年米大統領選挙までの時間稼ぎをしていると判断。

不満を覚えたトランプ大統領は、一般的には知られていない発展途上国の優遇措置で中国共産党に対抗した。7月26日、中国を発展途上国から除外する様に世界貿易機関(WTO)に制度改革を求めた。さらにWTOに制度改革が90日以内に進展しない場合は、アメリカ独自に対応すると公表した。続いてトランプ大統領は8月1日、中国からの輸入品に対して10%の追加関税を課すと発表した。これで米中貿易戦争が再開したことになる。

発展途上国の優遇措置

一般的に世界貿易機関(WTO)の名前は知られていても、具体的な機能に関しては知られていない。大ざっぱには国家間の自由貿易を促進することが目的だと認識される程度。だがWTOには、発展途上国を先進国から護る優遇措置があった。先進国と発展途上国では国力に差があり、貿易を行う時に発展途上国が不利になることがある。WTOは発展途上国が不利にならないように、優遇措置で対等になるようにしていた。

優遇措置1:先進国からの関税免除

優遇措置2:貿易自由化の義務免除

WTOは発展途上国に優遇措置を与えることで、先進国から発展途上国の市場を護る盾とした。中国共産党は発展途上国の優遇措置を盾として使い、これまで貿易で利益を得ていたのだ。

古代中国とは真逆の立場

古代中国の皇帝は主君であり、周辺諸国は家臣。古代中国は武力が強大なだけではなく、進んだ技術・文明を持っていた。周辺諸国よりも進んだ文明が徳となり、周辺諸国は徳を慕い朝貢を行った。

周辺諸国は自国の産物を中国皇帝に供物として捧げ、中国皇帝は家臣に供物よりも価値の高い宝物を下賜する。これが朝貢貿易。現代で言えば、先進国が発展途上国を貿易で支援することになる。

古代中国皇帝は朝貢貿易で家臣の国を保護した。朝貢貿易で家臣の国から暴利を貪るのではなく、徳を持つ国として発展途上国の国を支援した。これが先進国の姿だが、今の中国共産党は真逆のことをしている。

今の中国は発展途上国に区分され、優遇措置を盾として先進国と貿易をしている。つまり今の中国は、家臣の国であり先進国(皇帝)に供物を捧げる立場。先進国(皇帝)は家臣の国である中国を朝貢貿易で支援している。

中国共産党は古代中国の偉大さを捨てている。徳とは強者が弱者を護る思想。だが中国共産党は、弱点を護る盾を悪用して先進国から利益を得る金銭欲を選んだ。中国共産党は徳を捨て面子を捨てた組織であり、中国を偉大な国にはできない徳無き組織と言える。

徳を捨てたから金持ちになった

中国は過去30年間で急速に経済発展した。WTOは1995年に設立されたが、2001年に中国の加盟が批准されると、中国経済は飛躍的な発展を遂げた。これは中国共産党が発展途上国の優遇措置を悪用したと言える。

2000年代に入ると中国は世界の工場と呼ばれるようになった。この時から中国共産党は、徳を捨て朝貢貿易を逆の立場で利益を得ていた。外交では中国を強国とし、経済では発展途上国として二つの顔を使い分けた。

外交では先進国(皇帝)の様に振る舞い、経済では発展途上国の優遇措置を盾に世界から暴利を貪った。今の中国が経済発展したのは事実だが、中国共産党は徳を捨てたことで金持ちになっただけ。

面子を捨てた中国共産党

トランプ大統領は中国を発展途上国から除外する発言をしたが、中国共産党が徳を持つなら歓迎する。もしくは中国共産党が率先して発展途上国から除外するように申請するはずだ。

現段階では中国共産党はトランプ大統領の発言に反発している。理由は簡単だ。発展途上国の優遇措置が排除された場合は、中国は先進国の仲間入り。同時に発展途上国の優遇措置が消滅するので、今度は先進国として発展途上国を貿易で支援する立場になる。そうなれば、これまで中国が貿易で得ていた利益が減る。

この段階で中国共産党は面子を捨てていることを示した。徳無き中国共産党では中国を偉大な国にはできない。古代の中国皇帝たちは、中国共産党を見て泣いているだろうか?それとも怒っているだろうか?


執筆者:上岡 龍次(Ryuji Ueoka)

プロフィール:戦争学研究家、1971年3月19日生まれ。愛媛県出身。九州東海大学大学院卒(情報工学専攻修士)。軍事評論家である元陸将補の松村劭(つとむ)氏に師事。これ以後、日本では珍しい戦争学の研究家となる。

 

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