[ウェリントン 12日 ロイター] – ニュージーランド(NZ)で先月実施された総選挙では与野党いずれも過半数に届かず、連立に向けた各勢力の協議が続いている。こうした中で中道左派の連立政権が成立すれば、中央銀行として世界に先駆けて物価目標を導入したニュージーランド準備銀行(RBNZ)の役割が大きく変わる可能性がある。
野党で左派の労働党は緑の党と協力関係を結んでおり、今週の協議でポピュリスト政党のニュージーランド・ファースト党と合意できれば、政権を取る道が開かれる。
RBNZは28年間にわたり物価上昇率を目標範囲内に収めることだけに専念してきた。だが労働党は中銀の使命に雇用の最大化を加える意向であり、NZファースト党は雇用の最大化とNZドル相場の管理強化を求める方針だ。
RBNZで1990年代序盤にチーフエコノミストなどを歴任したアーサー・グライムス氏は「大きな変化だ。この25年間、他に類を見ないほど成功してきたわれわれの金融政策を、世界各国が模倣してきた」と指摘。慎重な検討と分析を経ずに手が加えられれば「異常事態」になると付け加えた。
ニュージーランドは1980年代に年間の物価上昇率が18%に高騰。これに対処するため中銀は1989年に公式物価目標を導入した。物価目標は当初0─2%に設定されたが、1996年に範囲が拡大され、2002年に現在の1─3%に引き上げられた。
労働党は物価目標は全面的に支持しつつも、オーストラリアや米国と同様に雇用の最大化を中銀の目標に加える意向だ。
だがグライムス氏は、金融政策が雇用に持続的な影響を及ぼすことができないと歴史的に証明されていると反論する。労働党が提案した中銀の使命変更が実現すれば、RBNZが物価上昇を抑える必要性と雇用拡大の折り合いをつけなければならなくなるため、利上げの障壁が高くなりかねない、とアナリストも話している。
物価目標の導入時にRBNZの総裁を務めたドナルド・ブラッシュ氏は「かつてアラン・グリーンスパン元米連邦準備理事会(FRB)議長と会話した際、われわれが単一の使命しか課されていないことをうらやましがっていた。ある時点で2つの使命が両立しなくなった場合にどちらを優先するかの選択を迫られてしまう事情を、グリーンスパン氏は良く分かっている」と語った。
一方、NZファースト党は外国為替市場への介入を強めたい考えだ。同党のウィンストン・ピーターズ党首は、中銀が政策金利の代わりに為替相場の目標を設定して変動を管理するために介入するシンガポール型の制度導入にも言及している。
キャピタル・エコノミクス(シドニー)のチーフエコノミスト、ポール・デイルズ氏は、そうした制度が導入されれば金融政策の「完全な刷新」になり、実現する公算は小さいと話した。
労働党はむしろ、中銀の政策目標に物価安定や雇用最大化と並べて、外国為替レートに関する記述を加えることで合意する可能性がある。
かつてRBNZ幹部だったマイケル・レッデル氏は「そのような記述が加えられれば、宣伝効果の点でピーターズ氏には得点となるが、必ずしも金融政策の本質部分が大きく変わるわけではない」と述べた。
(Ana Nicolaci da Costa、Charlotte Greenfield記者)
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