≪医山夜話≫ (53)

定時発作の病症

飛行機事故で3人の子供と夫を失ったアンナは、ある有名な心理学の医師から私の診療所を紹介されました。「毎日、飛行機事故が起こった時間帯になると、アンナは必ず病症の発作を起こします。感情面からは理解できますが、病理学的には解釈できず、治療方法も見つかりません」と、心理学の医師が同情しつつ語りました。彼は全力を尽くしましたが、まったく効果がありません。

 想像すれば分かりますが、事故が起きた時、飛行機は空中で激しく揺れました。飛行機が墜落している間、3歳から8歳までのアンナの3人の子供にとって、どれほど恐ろしい経験でしょう。はじめて3人そろって母親を離れた子供たちは、恐怖の中で「ママ! ママ!」と泣き叫んだでしょう。毎日、事故発生の時間帯になると、その泣き叫ぶ声がアンナの耳元に響き、アンナは息が苦しくなるほど大泣きしました。悲しい泣き声に、周囲の医者と看護婦も心を痛めていますが、数か月経っても適切な治療法は見つかりませんでした。最後に、漢方医学の治療を試みてはどうかと、彼女は私の診療所を紹介されたのです。

 彼女が診療の予約を入れる時、私は「病症の発作が起きる時間帯に来てください」と、言いました。彼女が来院したその日、問診の途中で、彼女は激しく泣き始めました。泣き止んだ後、アンナはめまいを起こし、坐っても立ってもいられず、心身ともに疲れきったようでした。10数分経ち、やっと正常に戻りました。毎日この時間帯に必ず発病し、悲しい表情で顔色も悪く、舌の色は淡赤、苔は白膩、脈は弦滑でした。

 それまで彼女を診察した医師は、事故発生の時間が病状の発作の誘因であると判断していました。しかし、私は漢方医学の経絡流注理論(気血は時刻に合わせて臓腑間を順次に循環する)から分析して、発作の時間は気血が心臓を経過する時間と一致していることが分かりました。午の刻(11時から13時まで)は、血気が心経に流れ、注ぐ時間帯です。この時間帯になると、精神的なショックによって生じた心の鬱熱がさらに強くなり、この熱はに移って(五行理論では心の火は肺の金を剋する)、肺が熱に焼かれて悲しくなり、泣きたくなります。漢方医学の古典『黄帝内経』には次のように記載されています。「肺という臓は、その声は泣き、その情緒は悲しみである」「邪気が肺に注げば悲しくなる」

 更に、肉親を失った悲しみのほか、彼女はこの病気がなかなか治らないことよる大きな精神的プレッシャーを抱えていることが分かりました。

 以上の分析を踏まえて、私はまず「百会」「膻中」「気海」の三つのツボに鍼を刺して、乱れた気を整えました。「百会」で頭皮に沿って後方に鍼を刺し、「膻中」で瀉法を施し、「気海」で補法を施します。鍼を刺してから間もなく気分が改善され、さらに「心俞」「肺俞」「神門」「内関」などのツボに鍼を刺し、そのまま30分ほど置鍼しました。鍼を刺した後、アンナは間もなく寝付きました。それから漢方薬の「温胆湯」を処方して、しばらく服薬した後、すべての病状が消えました。

 

(翻訳編集・陳櫻華)