「水はいつ飲むのがよいか。早朝か、午後か、夜間の就寝前か」。昔から中国伝統医学にはその答えがあるのですが、日本の皆さんは、あまりお聞きになったことがないかもしれません。「いつでも喉が乾いたら飲む」もいいのですが、もっと体に優しく健康効果も高い、漢方に基づく水分補給の方法をご紹介します。
人は水を飲んで、体に必要な水分を補給します。それが血液となって体内に栄養を巡らせ、新陳代謝を調整するとともに、体内の毒素を排出することで疾病に対する抵抗力を高めます。人体に不可欠な水ですので、それを飲む時間にも、理にかなった決まりがあるはずです。
喉が渇いてなくても、水を飲むことは必要
人体の70%以上は水でできていますので、水を正しく飲むことは健康維持の第一歩です。
成人では1日に約2.5リットルの水分が呼吸と排泄で失われるため、こまめに水分を補給する必要があります。
体内の深刻な水不足は、病気を招くことがあります。確かに、体内の総水分量の約5%が失われると、体が疲労し、体調不良を感じるのです。ところが、逆に水を飲みすぎると、それが原因で体調を崩す、いわゆる「水中毒」にもなります。したがって、水分補給は「早めに、適量を」が基本です。
朝に飲むなら「ぬるま湯」がいい
「朝、起床してすぐにコップ1杯の水を飲む」という人は多いと思います。朝、起床してすぐに飲む場合、20~25度くらいの温水を飲むと、前日の胃の残渣が流され、就寝中に失われた水分がスムーズに補給されます。
朝に冷水は飲まないでください。漢方医学によると、朝起きた時は、人体の陽気が上昇している時に当たります。その時に冷水を飲むことで陽気の上昇が妨げられると、人体機能が失調を起こして病気の原因にもなるのです。
朝起きたら、空腹のまま200~300ccの温水を少しずつ飲みます。夏の夜などで、汗をたくさんかいた場合は、翌朝に飲む水の量を増やします。
午後の水分補給は、解毒作用を効果的にする
午後は、体内の毒素を効果的に排出できる時間です。特に夕方の5時から7時は体内の代謝が旺盛で、全身の毒素が、腎臓から膀胱を経てどんどん排出されます。この時間に合わせて水を十分に飲むことは、血液の循環と毒素の排出を促進させることになるのです。
この時間は、ちょうど夕食の時間でもあるでしょう。食事前に、一杯の温水を飲むことで、その分、食事の量を減らすことができます。夕食時に食べ過ぎると肥満にもなりますので、一杯の温水が、ダイエット効果と胃腸の消化吸収の両方を助けるのです。
就寝前にも「少しだけ飲む」
寝る前には、血液の粘度と血糖値を適正にするため、少しだけ水分補給しましょう。就寝の1時間前に100~150ccの温水を飲み、それ以上は飲まないようにします。
ただし、糖尿病患者の場合は、夜間に十分な水分を摂取することで血糖コントロールに役立つとされています。同じく、心血管系に不安のある方や、一部の高齢者は、夜間に少量の水分を補給するのがよい場合もあります。
一晩中水を飲まないと血液の粘度が高くなる、あるいは血栓ができやすくなって、心血管や脳血管の病気を引き起こしますので、該当される方は必ず主治医の指導に従ってください。
便秘の解消にも、水分補給は不可欠
水を飲むことで便秘が解消される場合も多いですが、どのように飲めばより効果的でしょうか。
800~1500ccの温水に0.3~0.5gの塩を加えたものを、起床後、空腹状態のまま1回で飲みます。飲んだ後、おへそを中心に両手でお腹を300回、時針回りと反時計回りに揉んで排便を促します。この方法は、便秘がひどくない人に適しています。
高齢者が便秘ならば、ハチミツ10~20gを先述の温水に加えて飲んだ後、同じく両手でお腹の中心を揉みます。便秘解消効果も高いですが、体内に痰がからむ高齢者はこのハチミツ水を飲んではいけません。
また、普段から下痢しやすい人は、決して白湯を大量に飲むことはしないでください。頻繁に下痢をすると、水分だけでなく、体に必要な電解質であるナトリウムやカリウムなども失われてしまいます。この時に白湯を大量に飲むと、血液が希釈され、体内の電解質の乱れが更に深刻になり、けいれんや不整脈、あるいは昏倒などの深刻な問題を引き起こす可能性があります。下痢の緩和には、白湯の代わりに、適量の生理食塩水(0.9%の食塩水)か砂糖食塩水(白湯500 cc、白砂糖10 g、塩1.75 g)を飲むとよいでしょう。
運動後は、水分とともに電解質の補給も
運動の程度にもよりますが、一般的には運動30分前に300~500 ccの水分補給が可能とされています。運動中は20分ごとに100~200 ccの水分補給を行い、運動後30分は十分に水分を補給します。
激しい運動をして大量に汗をかいたときは、スポーツドリンクを飲みましょう。ナトリウム、カリウム、マグネシウムなど様々な電解質が失われていますので、水だけを飲むと血中の電解質バランスが崩れやすいためです。運動が終わっていない時点で喉が渇いたら、まず水を一口飲んで、喉の不快感を緩和することをお勧めします。運動が一段落したら、心拍数が落ち着いた後に、電解質を含むドリンクで水分補給を行います。
水は生命の源であり、私たちの生存と健康を維持する基本的、かつ不可欠な物質です。しかし、ご注意いただきたいのは、水を飲みすぎたり、運動後に大量に飲んだりすると、水中毒になることです。
繰り返しますが、水分補給の要諦は「早めに、適量を」です。
(文 譚娓(漢方医師) 翻訳編集・鳥飼聡)
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