≪医山夜話≫ (9)

患者自身が悟った本当の病因

ある日、パーキンソン病を患っているレイという女性が、私の診療所を訪れました。レイは3年前から発病し、両手がぶるぶる震え、食事をする時にはご飯が口もとに届く前に、床に落ちることがたびたびありました。パーキンソン病は漢方医学で「震顫麻痺」と呼ばれています。

 漢方医学の方法でしばらく治療しても改善が見られなかったため、病因を再検討するために、私は彼女に最近の生活状況について聞いてみました。すると、レイは3年来ずっと悩んでいることを打ち明けてくれました。彼女は話しているうちに興奮気味になり、しまいには怒り出してしまいました。最後には、とても悲しそうな表情を見せました。これを見た私は、これこそ、彼女の本当の病因ではないかと思いました。

 表情を激しく変化させながら、レイは次のようなことを話してくれました。「私は夫と一緒にコンテナの運送会社を経営しています。私たち夫婦はある島に別荘を買って、隣人と1本の私有道路を共用していました。島の住人は私たち夫婦と隣人の2世帯だけでした。共用道路が老朽化していたので、費用を半分ずつ出し合って一緒に道路を修理することを隣人に相談しましたが、隣人はそれに同意しません。仕方なく私たち夫婦が費用を全額負担し、道路の修理を始めました。不注意にも雇った作業員が石材を道路の真ん中に置いてしまい、隣人の出入りに不便をかけてしまいました。私たち夫婦が故意にそうしたと思った隣人は、彼らが所有している私有地にあるゲートを閉じてしまいました。このゲートは私たちの家へ通じる一番便利な道路の上にあるので、ここを通らなければ、私たちは数キロ遠まわりして家路につかなければなりません。夫は非常に腹を立て、私たちの家に設置していた隣人が使っている水道の栓を締めてしまいました」

 「水道はもともと我が家が敷設したもので、隣人が引っ越してきた時、お金を節約するために我が家から水道を引いたのです。夫が水道の栓を締めたので、当然、隣人の水源は断ち切られました。隣人はたいへん怒って、路上にセメントの塊と石を置いて、私たちが帰宅する道を完全に封鎖しました。それにより、2千ドルの道路修繕費をめぐって、我が家と隣人は犬猿の仲になりました。さらに、双方とも弁護士に依頼して訴訟を起こし、3年間で弁護士にかかった費用は200万ドルにも達しました。ここ3年の間、私たちは別荘に帰れないのですが、隣人も島に住めなくなっています。今、隣人との間は一触即発の状況になっています。訴訟中のため別荘を売ることはできないし、またそこには住めません。建物は今、修繕が必要です・・・」。話をしながら、レイの手は激しく震えだし、顔が赤くなり、感情の起伏が激しくなりました。

 漢方医学の理論から見ると、怒りを多く抱える人は肝と胆を傷めやすく、気が逆上しやすいので、身体の健康をひどく損ないます。健康のことを考えれば、相手と意地を張ることはそれほど重要なのでしょうか? 自分の一念を変えれば、このような厄介なトラブルはきっと解決するでしょう。今まで、お互いに譲ること、忍ぶことができなかったために、小さなトラブルが訴訟にまでなり、大金を費やしても悩みは解消されません。

 私は、レイの病気は薬で治せるものではなく、病因から治療しないと改善できないと分かりました。「一歩引けば、天地が広くなる。少し忍耐すれば、眼の前に新たな世界が開ける」という道理を語りました。レイは、「もし3年前にこの話を聞いていれば、私たちは絶対にあんなことをしなかった」と言いました。私は「真・善・忍」という法輪大法の法理、輪廻因果応報なども話して聞かせました。レイは、「ああ神様、私は真・善・忍から遠ざかったためにこんな不幸に陥ったのでしょうか? 前世に悪いことをしたから、現世にこのような報いを受けているのでしょうか?」と嘆きました。「すべての出来事は、『思いやりのある良い人間になる』という事を、神様が教えるために起こったのですね」と語ってくれました。

 それから、レイの手の震えは止まりました。彼女は、「先生のおかげで、3年間も抱えていた怒りと恨みが晴れました」と言ってくれました。

 彼女を見送りながら、私は感無量となりました。

(翻訳編集・陳櫻華)