【医学古今】人生訓

適材適所

人にはそれぞれ、得手不得手があります。得意とする分野で自分の能力を発揮することができれば、より効率的に仕事を成し遂げるのです。ゆえに、「適材適所」という言葉が生まれました。

医療従事者の適材適所に関しては、二千年前に書かれた中国医学の古典『黄帝内経・霊枢・官能』に以下の記録があります。

「目がよく効く人に色診をさせれば良い。耳がよく効く人に聞診をさせれば良い。しゃべることが得意な人であれば伝授の仕事に携わさせれば良い。言葉が穏やかで、性格が静かで、手先が器用で、心が細かい人に鍼灸治療に携わさせれば良い。体が柔らかく、心が調和する人に按摩や運動療法をやらせたら良い。言葉がきつくて人を軽蔑する人に呪術治療をさせれば良い。指力が強くて不意に人を傷つけることがある人に指圧治療をさせれば良い」

すべての仕事が、このように適材適所で行われればとても素晴らしいことですが、なかなか難しいのが現実です。古代の人は自分の技術を受け継ぐに値する人材に出会えなければ、無理をしてその技術を後世に残すことはせず、棺桶まで持って行きました。そのため、多くの秘伝技術が途絶えてしまったと言われています。

現代社会では、名誉や利益を追求する意識が強くなり、自分の才能を生かす、という視点から職業を選ぶことが少なくなっているように感じます。また、「運命」という大きな制約もありますので、思うようにいかない場合もあるでしょう。そう考えると、自分の好きな仕事、自分の能力を生かせる仕事に就いている人は、とても幸運な人だと言えるかもしれません。

(医学博士・甄立学)