もう誰も作れない? ほぞ継ぎの名作 ロレット礼拝堂の螺旋階段

修道女たちの献身がイエスの養父を感動させ、奇跡を起こした。ロレット礼拝堂(Loretto Chapel)の螺旋階段は、その特異な建築構造から奇跡と呼ばれている。

礼拝堂の建設には約6年かかったロレット礼拝堂。その有名な螺旋階段には一つのエピソードがある。

1878年、教会の完成が近づいた頃、職人たちは突然、聖歌隊席へ上がるための階段がないことに気付いた。修道女たちは、地元の大工たちを呼んで一緒に解決方法を議論したが、大工たちは全員、教会内の狭い空間に階段があるとレイアウトが崩れてしまうと考え、梯子を使って登れば十分ではないかと提案した。 しかし、聖壇の高さは6.1メートル、つまり2階建ての高さで、ローブを着た聖歌隊員がどうやって登るというのだろうか。

そこで、敬虔な修道女たちは、9日間の格式高い敬礼式を行い、イエス様の養父である聖ヨハネ(St. Joseph)に助けを求めた。なぜなら、ヨハネはかつて大工だったからだ。 すると、最終日の9日目、遠い国から小さな道具箱を持って、ロバに乗った大工がやってきた。

それから、3か月後、地上から2周した33段の美しい螺旋階段が出来上がった。(イエスの33歳の誕生日を暗示)この大工は、角材、のこぎり、少量のお湯といった基本的な道具しか使わず、手伝ってもらうこともなく一人でこの階段を作り上げたという。

ロレット礼拝堂の螺旋階段が「奇跡の階段」と呼ばれているのには理由がある。それは階段全体に釘など全く使われていないということだ。その上、非常に頑丈な作りになっていて、12人の聖歌隊員が階段の上に立っても微動だにしないという。

この奇跡の階段は、伝統的な木工技術における木材結合方法の一つ「ほぞ継ぎ」の構造で建てられている。

ほぞ継ぎの特徴は、宮殿でも九重の塔でも、川に架ける橋でも、部品と部品の接合部は釘を一本も使わず、すべてほぞ穴とほぞで結合させる。上から下、内側から外側まで、全ては純粋な木造なのに、構造は非常に頑丈だ。

ほぞ継ぎは、かなり古くから使われていた技術で、中国では、今から2600年前の公輸盤(こうしゅ はん)が生きていた春秋戦国時代には、現在のような巧みなほぞ継ぎがほぼ定まり、広く使われるようになった。

中国古代の建物はほとんどが木の骨組みで、そのほぞ継ぎ技術は優れており、儒教の繊細で内向的なスタイルになっている。一方、西洋の建築は石材が中心で、大工は屋根と家具部分だけを担当するため、ほぞ継ぎは比較的簡単だが、彫刻や曲木細工に特徴がある。

この不思議なロレット礼拝堂の螺旋階段を作った大工は、見事な曲木細工の技術を使って、階段をバネ状にして、そのバネの特性を利用して螺旋階段の頑丈さを保っていた。

中国には、このような素晴らしい技術を使用した建築物が残っている。中国北京の故宮は、600年以上前に建設されて以来、200回以上の地震を経験してきたにもかかわらず、未だ無事に建っている。

フランスのエッフェル塔、イタリアのピサの斜塔と並んで、「世界三大奇塔」の一つである山西応県(おうけん)木塔は地震はもちろん、1926年には砲撃も受けたが、木塔は一度も倒れていない。

ほぞを技術を使用した世界最古の木造建築物としては日本の法隆寺の五重塔があげられる。法隆寺の五重塔は、地震の多い日本においても倒壊することなく、1300年にわたって奈良に建っている。これは本当に不思議なことだ。

古代の職人は0.01cm以内の精度でコントロールできるほどの技術を持っており、その結果、完璧なフィット感と「天衣無縫」な美しさを実現してきた。これらの建築物は後代に受け継がれるほどの丈夫さと耐久性を持っている。

しかし、残念なことに、このほぞ継ぎの技術は北米では継承されず、この巧みな木工作品だけが後世に残されている。

(編集 天野 秀)