夏麻(なつそ)引く海上潟(うなかみがた)の沖つ洲(す)に船はとどめむさ夜(よ)ふけにけり(万葉集)
歌意「海岸から離れた沖合の洲に、今日は船を停泊させよう。もう夜も更けてしまった」。
『万葉集』の「東歌(あずまうた)」の一首。今の千葉県にあたる、上総(かずさ)の国の歌です。その上総には、太平洋に面した外洋である九十九里浜と、東京湾に囲まれた内海という二つの海がありますが、さて表題の一首で、この船はどちらの海に停泊したのでしょうか。
これは東京湾のほうですね。おそらくは満天の星の下で、名も知れぬ海人が、今宵の船をとどめて一夜を過ごす。そんな沖の洲は、波静かな内海でなければなりません。
その光景を想像しただけで、たまらない東歌の魅力を感じます。
(聡)
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