米海軍が海兵隊と40年ぶりに共同演習、17のタイムゾーンにまたがる過去最大規模
米海軍は海兵隊と共同で冷戦以来最大規模となる演習「LSE2021(Large-Scale Ecercise 2021)」を実施している。演習は17のタイムゾーンにまたがり、米海軍の5つの艦隊と、海兵隊の3つの海兵遠征軍が参加する。最新の戦術とテクノロジーを検証し、グローバルな脅威に対応する能力を強化する狙いだ。南シナ海に基地を建設し、台湾への武力侵攻をも辞さない中国共産党への強いメッセージとなる。演習は16日まで。
米海軍と水陸両用部隊の共同演習は、冷戦時期の1981年に行われた「Ocean Venture NATO」以来で、実に40年ぶりとなる。この期間に兵器や戦術が大きく発展しただけではなく、米国にとっての最大の脅威も、旧ソ連から中国共産党に変わった。なお、米軍の公式発表では仮想敵国について言及はない。
LSE2021演習は「未来への道」を指し示す=米海軍作戦部長
米海軍のマイケル・M・ギルディ作戦部長は8月2日、メリーランド州で行われた討論会に出席し、今回の大規模演習は「未来への道」を指し示していると語った。
「(LSE2021は)私たちがこれまでに行った最大の演習」であり、海軍は今後の数年間、そこで学んだことから恩恵を受けるだろうとギルディ氏。「兵士と指揮官が演習を通じて戦闘の概念を習得し、教訓を得ることができるだろう」。
今回の演習では実働部隊による訓練のほか、バーチャル空間でのシミュレーションも取り入れられる。そして訓練に参加する人員は部隊の垣根を越えて、共同して任務を遂行することになる。
「この建設的な演習は、私たちに未来への道を指し示しているのだと思う」とギルディ氏は述べた。「船員と少佐、航空部隊と潜水艦、水上艦艇とサイバー戦闘部隊が、それぞれ連携しあい統合的に演習を行うことができる。これは誰もが待ち望んだことだ。そこから学び、得た教訓を戦術に落とし込むことができる」。
米軍の新戦術・新兵器
演習では、紛争中の環境における沿岸作戦(LOCE、Littoral Operations in a Contested Environment)や、遠征前方基地作戦(EABO、Expeditionary Advanced Base Operations)、紛争中の環境における指揮および統制(Command and Control in a Contested Environment)などの新しい戦術や構想が検証・評価される。
遠征前方基地作戦とは、紛争海域にある島を占拠して部隊を配備し、周辺海域における制海権を確保することをいう。具体的には、まず離島を海兵隊が襲撃して占拠し、自軍の陣地とする。そこに各種ミサイルシステムや通信システムを配備し、飛行場を整備することで拠点化する。そして、このような拠点に依託して軍事行動を展開し、最終的に制海権を掌握する。
海兵隊はEABOを「海上阻止の形勢を逆転させる(turn the sea denial table)」ものであると形容している。
USS Carl Vinson and ships assigned to VINCSG arrived in the Hawaii Island Operating Area as part of Large-Scale Exercise 2021, Aug 8. VINCSG surface units participating in LSE include flagship Vinson, USS Lake Champlain (CG 57) and USS Chafee (DDG 90) and USS Stockdale (106). pic.twitter.com/Vg4MdsbPsY
— USS Carl Vinson (@CVN70) August 9, 2021
今回の演習では、米軍の空母打撃群がF35CライトニングII戦闘機とCMV-22Bオスプレイ輸送機を運用する。なかでも、空母カール・ヴィンソンは初めて第四世代と第五世代の戦闘機を混合運用する空母となる。
さらに、実在する部隊に加え、シミュレーターを用いることで架空の部隊や戦況を作り出す試みもなされている。米艦隊総軍司令部のタビサ・クリンゲンスミス少佐は米軍事サイトMillitary.comの取材に対し、「LSEでは、ゲームの中に登場するような技術が使われる」と語っている。
冷戦後最大規模の演習
LSE2021演習には、空母から潜水艦に至る36隻の艦艇と50を超える仮想部隊、シミュレーター上の建設チーム、そしてその他の文民ユニットを担当する訓練スタッフが参加し、総兵員数は2万5000人に及ぶ。
米海兵隊に所属する3つの海兵遠征軍も、それぞれ配下の部隊を演習に派遣する。また、大西洋地域を担当する第2艦隊、東太平洋を担当する第3艦隊、東大西洋および地中海を担当する第6艦隊、西太平洋およびインド洋を担当する第7艦隊、サイバー戦を担当する第10艦隊は、それぞれの配下にある部隊を演習に送り出す。
Beach Days during #LargeScaleExercise21 are a bit different #USSKearsarge (LHD 3) and Assault Craft Unit Four conduct a mission rehearsal during #LargeScaleExercise2021 with II Marine Expeditionary at Camp Lejeune, North Carolina.#BlueGreenTeam pic.twitter.com/sAkNbIbhcZ
— U.S. Navy (@USNavy) August 10, 2021
8月10日、米海軍長官のカルロス・デル・トロ氏はギルディ作戦部長らとともにバージニア州ノーフォークにある米艦隊総軍海上作戦センターを訪問した。
「この演習は、私が海軍にいた26年間に見たこともないものだ」とデル・トロ氏。「LSE2021は、私たちがこれまでに行った中で最大の演習であり、世界中の敵を抑止するための今後の取り組みを後押しするものになるだろう」。
米軍が冷戦以来最大規模の軍事演習を行う狙いについて、専門家は海洋進出を続ける中国共産党を念頭に置いているのではないかと分析している。
Millitary.comによると、米国海軍大学(The U.S. Naval War College)のホームズ教授は、「LSE2021演習」を通して米軍は対戦相手に制海権を渡さないことを示すことができると述べた。「このことは西太平洋で特に重要だ。米国は中国の台湾占領を阻止することができると期待している」。
また、日本の国際政治学者の小谷哲男氏は自身のツイッター上で、米軍は「空母打撃群中心の戦術から海兵隊も含む艦隊規模の戦術への切り替え」を行っていると指摘した。また、演習は中ロを念頭に置いたものであると分析している。
米海軍と海兵隊は第2, 3, 4, 6 ,7艦隊による大規模演習を実施中。ハワイ沖では初めてF-35Cを搭載したカール・ビンソンが参加。空母打撃群中心の戦術から海兵隊も含む艦隊規模の戦術への切り替えがみられる。中ロを念頭に置き、中東の第5艦隊がいないのは象徴的。3年毎に実施で今後同盟国も加わる見込み
— Tetsuo Kotani/小谷哲男 (@tetsuo_kotani) August 10, 2021
(王文亮)