楽聖ベートーヴェンの「交響曲第9番」

「交響曲第9番」の最終楽章である「歓喜の歌」は、それを聞くすべての人を感動させるほどの深みを持っており、ベートーヴェンの生涯の音楽創作における最高峰の作品であり、全ての経験の総括でもあります。1792年、ベートーヴェンがまだ22歳の時に、シラーの詩作品「自由賛歌」に曲譜を加える考えを持っていました。1795年、ベートーヴェンはこの交響曲の最終楽章のテーマを決め、長年の探索により、破天荒にも交響曲に人の歌声を入れることに決めたのです。それが「歓喜の歌」です。

ベートーヴェンは、英雄と美徳、そして、神の普く慈悲と理知をほめたたえて歌うシラーの「自由賛歌」を以って、自分の生涯の宿願を果たそうと決めたのです。この交響曲の深い含意と広大なスケールが、本来の交響曲の規模と範囲を拡大し、当時の規範を遥かに超えました。更には、合唱、独唱、混声合唱、四重唱などの人の歌声をオーケストラと組み合わせることによって、壮大で、厳粛かつ神聖さを醸し出しています。創作し始めてから何度も繰りかえして修正し、ベートーヴェンはこの交響曲に十年以上もの時間を費やしました。前後合わせて30年近くかけて、ようやく1824年の春に完成し、そして、同年の5月7日にウィーンで初めて公演されました。

初公演は見事に成功をおさめ、大合唱が終わった瞬間、全ての観客の気持ちが高まり、無我夢中に拍手し続け、会場は一気に最高潮に達しました。当時、指揮を担当していたベートーヴェンはすでに聴覚を失っており、背後の観客たちの熱烈な拍手に全く気付きませんでした。あるメゾソプラノが彼の体の向きを変えた時、ベートーヴェンはようやくこの感激的な場面に気づいたのです。カーテンコールが5回も繰り返されましたが、まるで永遠に続くかと思われた観客たちの熱烈な拍手は、人々の感激と興奮を表しています。ドイツ文学巨匠のシラーの「自由賛歌」は、ベートーヴェンの「交響曲第9番」のおかげで多くの人々に知れ渡ったのです。

ベートーヴェンの「交響曲第9番」は神の教えに違背しない下で古典主義時代の交響曲の構成と特徴を突破しました。この交響曲は歴史上の偉大な壮挙です。「交響曲第9番」は、たとえ厳しい運命にあっても、困難に負けず、最終的には高尚な思想の境界にたどり着いたことを物語っており、人類の種族や民族を超えた愛を伝えており、そして、ベートーヴェンの思いやりのある温かい心を十分に表現しています。
ベートーヴェンは様々な苦難を経験しながらも、なお人を思いやる気持ちを忘れていないことが、彼を「楽聖」と称する理由の一つでもあります。ベートーヴェンはかつて、「たとえ君主に直面しても、決して真理を裏切らない」と言いました。

ベートーヴェンの数多くの作品の中で、この曲は高尚さと勇気を感じることができます。人々は彼の作品を通じて平和な心と、明るさを感じとり、崇高で神聖な気持ちになれます。また、言葉を使わなくても「神からの慰め」を感じることができ、挫折の中で再び立ち上がれる勇気をもらえるのです。

(翻訳編集・天野秀)