北欧文化は、ヨーロッパおよび世界の文化史において重要な位置を占めています。古代北欧には独自の宗教文化があり、有名な神話や伝説もあります。北欧神話の神々の中で最高の神であるオーディンは、より高い知恵を求めて、9日9夜、ユグドラシルの木で首を吊りました。彼が提唱する粘り強い精神はゲルマン民族精神の基幹となりました。
伝説によると、オーディンによって発見されたルーン(rune)文字にはさまざまな深い意味合いが含まれており、神聖な力を持っているといいます。ドイツで製造されたメルセデス・ベンツ車は、ルーンの文字をシンボルとして使用しています。
北欧神話が世界文明に与える影響は、人々の日常生活にも表れています。例えば、東、南、西、北の英単語は、北欧神話に出てくるドワーフ族(人間よりも少し背丈の低い伝説上の種族)の四つの力強い神の名前に由来しています。火曜日から金曜日までの英単語は北欧の4人の神の名前でもあります。軍神―テュール(火曜日)、主神―オーディン(水曜日)、愛神―フレイヤ(金曜日)、そして、木曜日の英語Thursdayは「トールの日」(Thor’s Day)で、スウェーデン語、デンマーク語、ノルウェー語では「torsdag」、フィンランド語では「torstai」と読み、すべて雷神トール(Tor)に由来しています。
今日は雷神トールの話をしたいと思います。
トールは北欧の神々の中で最強の戦神とされ、たくましい体格でふさふさした赤髭を生やし、2頭の力強い山羊がその戦車をひいています。トールが愛用する武器は、稲妻を象徴するミョルニルといわれる柄の短いハンマーです。
ある日、トールはアースガルズで目を覚ますと、ハンマーが無くなったことに気付きました。あちこち探しても見つからなかったので、友人ロキ(Loke)に助けを求めます。ロキは愛の女神フレイヤ(Freja)から鷹の羽衣を借りて、空に飛び上がりました。巨人スリュムが黄金の角を持つ牛と、真っ黒な牝牛の世話をしているのを見かけたので近寄ったところ、「何をしに来た?」とスリュムに聞かれました。
ロキは「大事件が起きた。トールのハンマーがなくなったのだ!もしかして、お前、トールのハンマーを盗んだのか?」と聞きました。
すると、巨人スリュムは、「そうだ!俺はトールのハンマーを誰も見つからない場所に隠した。返してほしければ、愛の女神フレイヤと交換だ!フレイヤを花嫁として迎えた日に、ハンマーを返そう」と要求しました。
アースガルズに戻ったロキがこのことをトールに伝えると、トールはフレイヤをスリュムに嫁がせるよう要求しました。しかし、怒ったフレイヤは、「あんな醜い巨人なんて、ごめんだわ!」と言い捨て、そこを去りました。
トールのハンマーはアースガルズの最も重要な武器です。このハンマーがないと、アースガルズの安全が脅かされます。トールは神々の意見を求めましたが、解決案は出てきませんでした。ヘイムダルという名前の見張役の神がいて、「他人に頼むより、自分で何とかするほうが早い。フレイヤが嫁ぎたくないなら、トールが花嫁の格好をして、スリュムのところに行けば良いのではないか」と提案しました。
これを聞いた途端、トールは不機嫌になりました。「この俺に花嫁の格好をしろというのか?笑いものになるだけだ」
しかし、これ以外の解決策がないため、神々はトールの抵抗を無視して、花嫁の格好をさせました。何とかトールの赤髭と筋肉質の体を隠し、アクセサリーもつけました。それから、ロキを侍女に扮して、同行させたのです。
スリュムは花嫁を見て大喜びし、盛大な宴会を開きました。しかし、花嫁が8匹の鮭、1頭の牛をたいらげ、さらに1樽のお酒を飲み干したのを見て、驚愕せざるを得ません。ロキは「フレイヤは愛するあなたに会うため、恋焦がれて、8日間も食事をとらなかったので、お腹が非常に空いたのです」と言い訳しました。スリュムは花嫁の顔を見た瞬間、「なぜフレイヤの目がこんなにもギラギラしているのだ?」と驚いて、思わずあとずさりしました。ロキは「あなたに会えて、とても興奮しているからだ」と言ってごまかしました。
スリュムは花嫁の乱暴な行動に驚きましたが、ロキのごまかしに納得し、部下にトールのハンマーを持ってこさせました。お祝いの証としてハンマーを花嫁の膝に置いた瞬間、トールは女装を脱いでハンマーを手に取り、スリュムとその部下を殺し、アースガルズに戻りました。
(翻訳編集 季千里)
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