リチウム電池は、ナトリウム電池やカリウム電池とほぼ同時期に開発されました。ナトリウム電池とカリウム電池は、エネルギー密度が低いため、その開発はあまり期待されていませんでした。 今回、日本の研究者たちが、負極材としてハードカーボン(HC)と酸化亜鉛を使用し、電池のエネルギー密度の面で優れた性能を実現しました。
リチウムイオン電池に使われるリチウムは、希少金属で、採掘につれ埋蔵量がますます減っています。また、リチウムの採掘、精製、電池に加工する過程は、環境汚染を引き起こし、大量の淡水とエネルギーを消費します。これに対し、ナトリウムやカリウムは、リチウムよりも備蓄量が多く、入手しやすいため、次世代電池の主流として有望視されています。
東京理科大学の駒場慎一教授らの研究グループは、ナノ構造のハードカーボン合成に成功し、ナトリウム電池(NIB)およびカリウム(KIB)電池の性能を大幅に向上させました。この新しい発明は、11月9日に「Advanced Energy Materials」誌に発表されました。
ハードカーボンはナトリウムイオン(Na+)を貯蔵できることから、ナトリウムイオン電池の負極材料として有望視されています。グラフェンやダイヤモンドのような形態の炭素とは異なり、ハードカーボンは明確な結晶構造を持たず、無定形炭素ですが、強度と耐久性に優れています。高温で作られたハードカーボンは多くの大きな細孔があり、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属を電気化学的に貯蔵することができます。
この特性があるため、駒場教授らは2021年初頭からハードカーボンの研究に取り組んでいます。合成時の条件を改善し、ナトリウム貯蔵構造をさらに最適化することで、ナトリウム電池の容量を向上させました。
研究グループは、酸化マグネシウム(MgO)を鋳型とするハードカーボンを使って、内部の最終的なナノ構造を変化させました。 この変更プロセスにより、MgOが除去され、カーボン電極内部にナノ細孔が形成されます。これにより、電極はナトリウムイオンを貯蔵する能力が大幅に向上し、大きな可逆容量を実現しました。
研究グループはこの研究を発展させ、SiO2、ZnO、CaCO3をハードカーボンのナノ鋳型として使用することで、最終的にナノ構造を変化させ、ハードカーボン電極内に新たなナノ細孔を形成できないかを研究しました。
研究者たちは、これらの化合物を600℃で予熱します。材料が熱分解され、ナノサイズの細孔の主要な鋳型となる炭素と無機粒子の複合体に変換させます。酸浸出段階では、塩酸に入れて炭素表面の余分な無機粒子を除去すると、より多くの細孔が残りました。
最終的には、材料を不活性ガスの中に置き、1400℃まで加熱して炭素をハードカーボンに変換させ、ナノ細孔を形成させました。一方、高温によって他の酸化金属は蒸発し、ナノサイズの空孔を多く持つハードカーボンが得られました。 最後に、炭素の熱還元反応によって、金属ナトリウムが閉じたナノ細孔に吸蔵されたのです。
研究によると、グルコン酸亜鉛と酢酸亜鉛を3:1でブレンドした混合物を出発原料として、ZnOのハードカーボンテンプレートを作ると、亜鉛を含まないだけでなく、ナトリウム電池の可逆容量を464mAh/gまで高めることができたのです。
これは炭化ナトリウム(NaC)の可逆容量に相当し、91.7%の高い初期放電効率と0.18Vの低い平均電位を持っています。200回の充放電後も初期容量の93%を維持できます。
研究グループは合成したハードカーボンを使用して、ナトリウムイオン電池を作製したところ、312Wh/kgという高いエネルギー密度を示しました。実に驚異的な優れた性能といえます。
さらに、カリウムイオン電池も、381mAh/gという非常に高い値を示しました。これは、ZnOで作られたハードカーボンがカリウム電池にも適用可能であることを証明したのです。
サイクル寿命とニッケルフリーの高容量正極材料という課題にもかかわらず、ZnOで作られたハードカーボン材料は、電池の容量増加と初期放電効率の改善に成功しています。ナトリウム電池にリチウム電池に匹敵するエネルギー密度を実現するだけでなく、グラファイトの代替にもなっています。
研究者たちは、無機ナノ粒子によってハードカーボン電極の細孔構造をコントロールするのは良い方法だと考えています。ナトリウム電池は、EV、PC、スマホなどの電子製品、さらに、将来的には、風力発電や太陽光発電の電力を蓄えるのにも使えます。
駒場教授によると、作製したナトリウム電池は、「現在商業化されているLiFePO4とグラファイトを用いたリチウム電池のエネルギー密度に相当します。2011年に当研究室が研究した最初のナトリウム電池のエネルギー密度の1.6倍以上です」
「私たちの発見は、ハードカーボンがグラファイトを代替する負極の有望な候補であることを証明しています」
と駒場教授は結論付けています。
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