タバコを吸うと脳が萎縮し、タバコを止めてもその損傷は元に戻らないという研究結果が、学術誌「Biological Psychiatry」に発表された。この研究は、喫煙者が加齢に伴う認知機能の低下やアルツハイマー病を発症するリスクが高い理由を説明する一助となる。
セントルイス・ワシントン大学医学部の研究チームは、毎日喫煙している欧州系の被験者3万2094人のデータを分析した。このデータは、英国バイオバンク(UK Biobank)から得られたもので、約50万人の遺伝子、健康、行動情報が含まれている。
その結果、一日の喫煙量が多いほど脳容量が小さくなることがわかった。また禁煙によって縮小が止まることは判明したものの、その損傷は元に戻らないことも明らかになった。
研究チームは、アルツハイマー病の影響を受ける海馬領域が、日常的な喫煙によって特に影響を受けるとも指摘。「喫煙がアルツハイマー病のリスク要因であり、アルツハイマー病の進行を加速させる可能性がある」とする2020年の研究とも一致していると記した。実際、研究チームは、世界中のアルツハイマー病の14%が喫煙に起因する可能性があると示唆している。
アルコールも脳の体積を減少させる
喫煙に加えて、飲酒も脳に悪影響を及ぼすことがわかった。喫煙と同様、アルコールの多量摂取は脳の大きさ、特に海馬、扁桃体など大脳皮質下領域構造の容積を減少させるという。大脳皮質下領域構造は感情、記憶、ホルモン分泌の監督に関与しているほか、人が姿勢や歩行などの動作を維持するのにも役立っている。
またアルコールの多量摂取においても研究者らは、脳の損傷は永久的なものであるため、アルツハイマー病や認知症を発症するリスクは、喫煙や飲酒をやめた後でも発生すると述べた。
また、研究チームは、喫煙につながる遺伝的素因を持つ人がいるとも指摘した。つまり、一部の人は生まれつきタバコを吸うリスクが高いのである。このような人々は、脳の容積が減少し、認知症やアルツハイマー病を発症するリスクが高い。
世界保健機関(WHO)によると、2020年には世界人口の22.3%が喫煙していた。喫煙により毎年800万人以上が死亡しており、その中には受動喫煙にさらされている非喫煙者130万人が含まれている。
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