今、世界の多くの地域ではしか(麻疹)が流行しており、世界中の保健当局がワクチン接種を呼び掛けています。人類史を通して私たちを脅かしてきたこの伝染病に、再び注目が集まっています。
疾病との戦いにおいて、ワクチンはしばしば英雄的な扱いを受けます。しかし、前世紀に麻疹が世界を席巻した際に数百万人の命を救ったのは、実はワクチンではありませんでした。
長い歴史を持つ重い病気
20世紀前半には、ほぼすべての子供たちが麻疹に感染しました。
1960年代以前は、世界中で毎年3千万人が麻疹に感染し、260万人が死亡していたと推定されています。
1906年に米国で報告された死亡例の85%が5歳未満の子供であったことからわかるように、最も被害を受けてきたのは幼い子供たちです。1912~22年、米国では毎年平均6千人の麻疹関連死が報告されていました。
米国では2000年に麻疹の根絶宣言が出されましたが、ここ数十年で新たな症例が発生しています。 米国疾病管理予防センター(CDC)は、2019年に31州で1274件の感染者を記録し、過去10年間の感染者数でピークに達しました。
現在、世界的に大規模なワクチン接種を実施しているにもかかわらず、2015年だけでも、世界保健機関(WHO)は約13万4200人の麻疹による死亡者数を報告しています。
新型コロナとの類似
9世紀に活躍したペルシャの医学者 アル・ラーズィーは、麻疹について記録を残しています。
1757年、スコットランドの医師フランシス・ホームが「麻疹は感染性病原体によって引き起こされる」と断定したことで、この病気に対する理解が大きく前進しました。
ヒトからしか発見されていない麻疹ウイルスは、SARS-CoV-2(新型コロナウイルスのウイルス名)と同様のマイナス鎖RNAウイルスで、どちらも感染力の強いウイルスです。
麻疹ウイルスは、感染しやすい集団で14〜18人の二次感染者を引き起こす可能性があり、空気中の飛沫や個人間の直接接触を通して広がります。発疹が出る4日前と4日後が最も感染力が高まるため、人々が気づかないうちにウイルスが急速に拡散する可能性があります。
麻疹は独特の発疹を特徴とし、発疹は通常顔から始まり、首、胴、腕、脚、足を覆うように下方へと広がります。発疹が進行し赤い斑点が繋がっていくと同時に、高熱が発生することが多くあります。
麻疹は肺や神経系の感染症など、重篤な合併症を引き起こす可能性があり、患者の5人に1人が入院します。脳にダメージを負う人もいます。
麻疹の自然感染から正常に回復すると、ほとんどの人は生涯にわたる免疫を獲得します。
麻疹の減少はワクチンのおかげではない
1967年の世界的なワクチン接種キャンペーンで麻疹は根絶されるはずでしたが、実現しませんでした。1978年に米国は、1982年までに麻疹を撲滅するという目標を設定しましたが、やはりうまくいきませんでした。
保健当局は、ワクチン抗体の出現に基づく「血清転換率」による測定で、麻疹ワクチンの有効性が年齢に関係なく100%に近いと主張することがよくあります。
はたして、ワクチンでこの病気を根絶することができるのでしょうか。懐疑的な見方も存在します。
まず、「ほぼ100%の有効性」という主張は、ワクチンによって産生される抗体にのみ依拠しており、臨床的防御の割合を正確に反映していないと言えるかもしれません。絶対的な感染率を正確に計算するには、ランダム化プラセボ対照研究が必要です。
さらに、歴史を振り返って記録を見直すと、麻疹の発生率と死亡率は、ワクチンが広く使用される前にすでに減少していたことが分かります。
次のグラフは、1900~87年の米国における麻疹による死亡率を示しています。1963年に麻疹ワクチンが導入されるまでに、死亡率はピークから98.7%も大幅に低下していました。
次のグラフは、英国での麻疹による死亡率を示しています。
英国は米国よりもはるかに早い1838年から死亡率の統計をとり始めました。麻疹による死亡者数は1800年代後半に激減し、1950年代までにはほぼゼロに達しました。英国では米国より5年遅れて1968年に麻疹の予防接種が始まりました。その時点までに、死亡率はピーク時から99.8%も大幅に減少していました。
ワクチンがまだなかった1960年までにイングランドとウェールズで報告された小児麻疹の症例数はわずか2.4%で、死亡率は0.03%まで低下しました。
アフリカのジンバブエでは、ワクチンの接種率が88%に達したにもかかわらず、麻疹の発生は依然として続きました。1967~89年の流行期間において、麻疹ワクチン接種率の増加は、致死率を低下できなかっただけでなく、麻疹の高い発生率との関連性が見られました。
それでは、ワクチン接種が導入される前に麻疹が劇的に減少したのは、何が主な要因となっていたのでしょうか?
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