ここ数年来、新型コロナウイルス感染症に対するイベルメクチンの使用をめぐり、様々な議論がなされてきました。
最近では、これまで否定的な勧告を出してきたアメリカ食品医薬品局(FDA)がついに折れ、使用をやめるよう呼びかけるソーシャルメディア上の投稿を削除することに同意しました。
1987年以来、イベルメクチンは人間の病気治療に使われています。この薬をがん治療に試験的に使用する医師もいます。これは、「イベルメクチンは動物用の薬である」というFDAの主張と矛盾します。
しかし、こういったイベルメクチンに関する議論は、より大きな問題を示唆する氷山の一角に過ぎません。
自然由来の「奇跡の薬」は人類への贈り物
多くの低コスト治療法と同様に、イベルメクチンは素晴らしい歴史を持つ自然からの贈り物です。
1975年、北里大学の大村智教授が日本の土壌からイベルメクチンを発見しました。彼は土壌から分離された放線菌(Streptomyces avermectinius)が生産する新たな化合物、エバーメクチン(イベルメクチンの前駆物質)を発見しました。その後、エバーメクチンを改良し、より安全で効果的な薬としてイベルメクチンを開発しました。
この薬は、熱帯地域で長年問題となっていた河川盲目症やリンパ系フィラリア症(象皮病)という2つの寄生虫病に苦しむ世界中の数百万もの人々を救いました。また、消化器に寄生する回虫、ダニ、マダニ、疥癬など、他の多くの寄生虫感染症を治療する効果があることが証明されています。
30年以上にわたり人間に使用されてきたこの薬は、耐性が生じず、安全性が高いとされています。
多くの医師によって「奇跡の薬」と称されるイベルメクチンですが、2017年には学術雑誌 Journal of Antibiotics (Nature Publishing Group)で「イベルメクチン:謎多き多面的な『奇跡』の薬が期待を超えて驚きを提供し続ける」というタイトルの記事が紹介されました。
イベルメクチンは、エイズ、デング熱、ウエストナイル病、ジカ熱、インフルエンザ、黄熱病、日本脳炎など、様々なRNAウイルスに対して広範囲にわたる抗ウイルス活性を持つことが証明されています。
ウイルスが人間の細胞に侵入すると、それは輸送体を介して細胞内で複製され、体内に広がります。イベルメクチンはこの輸送体の機能をブロックすることができるので、ウイルスの複製と拡散を防げるのです。
新型コロナの発生初期に、その安全性と多機能性は世界中から注目を集めました。
見事な汎用性
現代医療では、一つの病気・症状に対してそれに適した薬物が開発・処方されます。一方、自然から抽出された薬物であるイベルメクチンは、人体内での使用において見事な汎用性を示しています。
他の自然由来の化合物と同様に、イベルメクチンは複数の標的に同時に作用する能力を持ちます。このような天然化合物は、いわばアーミーナイフのようなものであり、一つの目的だけでなく、まだ発見されていない多くの潜在的な用途を持ちます。
最初に発見されたのは、イベルメクチンが特定の標的に作用し、虫の特定の筋肉を麻痺させるが哺乳類にはほとんど影響を与えないということでした。
イベルメクチンの複数の効果が明らかになると、科学者たちはイベルメクチンが人体内でどのような具体的な作用機序を持つのかを探求し始めました。この薬が私たちの免疫システムの効果を高めることでより良い防御機能を発揮しているというのが、一般的な仮説です。
新型コロナ治療への応用
新たなウイルスが発生した場合、短期間で新薬を開発することが難しいため、科学者は通常、既存の薬の有効性をテストします。その一例がSARS-CoV-2(新型コロナのウイルス名)です。
科学者らがイベルメクチンの使用を解決策として検討したところ、その有効性は次々と証明されていきました。
2020年半ば、オーストラリアの科学者らはイベルメクチンがSARS-CoV-2に対して効果的であることを発見しました。イベルメクチンを細胞モデルに加えてから2日後、ウイルスRNAは0.001%に低下し、5000倍の減少となりました。
2020年9月、アメリカの研究所は、イベルメクチンがSARS-CoV-2のスパイクタンパク質の受容体結合ドメインに結合することで、ウイルスが人間の細胞に付着するのを防ぎ、感染を止めるというモデル研究を発表しました。バングラデシュの研究所も同様の効果を発見しました。
2021年6月、インドの研究レビューがAIと分子動力学シミュレーションを用いた研究を行い、イベルメクチンが新型コロナを治療できる可能性があると結論付けました。
また、人間を対象とした研究でも効果が確認されています。
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