断食で健康アップ! 注意すべき人も?

断食(だんじき/ファスティング)には、さまざまな健康促進効果があると言われています。確かに、断食することで体重を減らし、空腹時血糖値を効果的に下げるとともに、認知機能を改善し、脳や心臓を保護できます。

ただし、健康状態のすぐれない人の中には、断食が適していない人もいます。また、糖尿病の人も断食することによって危険にさらされる可能性があるため注意が必要、と専門家は警告しています。
 

体重減少は「3日間の断食後から現れる」

2024年3月に、医学誌「Nature Metabolism」に掲載されたある研究は「12人の志願者が、水だけを飲み、食物を一切とらずに7日間の断食をする」というものでした。

研究者が被験者の健康状態を追跡したところ、7日間の絶食後、体重が平均5.7㎏減少しました。この研究では、長時間にわたる絶食中に、体の複数の臓器に顕著な系統的変化が起こり、千種以上のタンパク質が明らかな反応を示しました。

また研究者は、プロテオミクス手法を使用して、212種類のタンパク質の変化がもたらす有益な影響、およびマイナスの影響を推定しました。これは将来において、目的を絞った治療法を整備する上での基礎を提供します。

この研究の一員であるクラウディア・ランゲンベルク氏は、メディアへのコメントとして「これらの研究は、断食による健康上の利点は体重減少だけではありません。これらの利点は、3日間の完全なカロリー摂取制限がおこなわれた後に現れます。この減量結果の現れは、当初に想像していた時期よりも遅いものでした」と言いました。

この論文の第一著者であるマーク・ピッツナー(氏は、「断食が特定の病気の治療に有益である可能性は否定できない。しかし、体調不良の患者には適さない場合が多い」と述べました。また同氏は、これらの発見が将来、患者にとって実行可能な治療法の開発に役立つことを期待していると述べています。 

断食は減量だけでなく、他の健康上の利点も提供します(Fast&Slow / PIXTA)

 

断食の「5つの治療効果」

ますます多くの研究が、様々な疾病の治療において「断食には利点がある」ということを実証しています。

1、てんかんの治療

てんかんの治療において、断食は少なくとも2500年にわたり使用されてきた歴史をもちます。ハーバード大学医学部では、20世紀初頭の1920年代に、てんかん治療における絶食の効果を研究し始めています。それによると、断食治療によって、てんかん発作は通常2~3日後に改善することが分かりました。さらに研究者は、体内の食物や炭水化物が不足すると体が脂肪を燃焼させ、体の代謝の変化がてんかんを制御できることを発見しました。

2、認知障害の改善

断食は脳の健康を促進できます。雑誌「ニュートリエント」は2020年、軽度の認知障害のある高齢者99人について、3年間追跡した研究を発表しました。そのなかで、定期的に断食した患者は認知機能にプラスの変化がありました。研究者は、断食はケトン体生成を通じて認知機能を改善するのに役立つとともに、ケトン体には神経保護特性があるため、低酸素や虚血など病的な状態下での神経細胞の生存率を高めると述べています。

また別の研究によると、30日間連続して夜明けから日没まで断食した健康な被験者のアミロイドベータ前駆体(APP)レベルは、断食前に比べて大幅に低下したことが分かりました。アミロイドベータは、アルツハイマー病患者の脳内のアミロイド斑の主成分であり、アルツハイマー病の主な原因の1つと考えられています。

3、がん治療への補助的療法

2020年に医学誌「Nature Communications」に掲載された研究では、早期乳がんの患者に対する断食の影響をシミュレーションしました。研究者は、131人の患者をランダムに2つのグループに分け、化学療法(抗がん剤治療)を実施する前、および化学療法実施中の3日間に、疑似断食と通常の食事療法を行いました。

その結果、擬似断食グループの患者は、腫瘍細胞の90~100%が減少する高い効果が示されました。さらに疑似断食は、化学療法によって引き起こされるTリンパ球への DNA 損傷を大幅に軽減できます。

他の研究では、化学療法の前に2~4日間断食をすると、マウスおよびヒトの正常細胞が、抗がん剤の有害な副作用から保護できます。さらに、断食と化学療法を組み合わせると、乳がんや神経膠腫を含む多くの種類の腫瘍の進行を遅らせます。

4、糖尿病を改善する

断食はインスリン感受性を改善します。一部の研究では、断食が1型糖尿病患者の低血糖のリスクを最小限に抑え、血糖値の変動幅を減らし、1型糖尿病および 2型糖尿病患者の脂肪代謝を改善すると述べています。

米国の医学誌「JAMA Network Open」に掲載された2018年の研究では、2型糖尿病の成人患者が、週2日の断食を12か月間続けました。その結果、週2日という軽い絶食により、糖尿病患者の平均空腹時血糖値、総コレステロール、低密度リポタンパク質コレステロール、中性脂肪、高密度リポタンパク質コレステロールのレベルが、いずれも大幅に低下しました。

別の症例報告では、インスリンを注射していた3名の2型糖尿病患者が、断食治療を受けてから1か月以内にインスリンの使用を完全に中止できました。

5、心臓病リスクを減らす

とくに肥満の人にとって、断食は心臓病リスクを軽減する効果的な食事戦略となります。研究によると、肥満体の被験者が隔日断食を8週間続けた後、体重、脂肪量、低比重リポタンパク質コレステロール、中性脂肪などが大幅に減少しました。これは、肥満の人に対して、隔日断食が心臓を保護する効果があることを示しています。

 

断食してはいけない人

断食は、体にさまざまな健康上の利点をもたらしますが、全ての人に適しているわけではありません。

ハーバード大学公共衛生学院の栄養学部長フランク・フー氏は、同校のウェブサイトに掲載された記事のなかで、「糖尿病などの特定の疾患を持つ人にとって、食事を抜くことやカロリーを大幅に制限することは危険を招くことがある」と警告しました。

さらに、血圧や心臓病の治療薬を服用している人も、断食により電解質異常が起こりやすくなります。

また、台湾の栄養士である李婉萍氏も、自身のウェブサイトに記事を掲載し、「発育期にある子供や10代の若者、十分なカロリーを必要とする女性や運動選手、低体重の人、摂食障害の病歴がある人たちは、断食は適していません」と警告しています。

健康や病気治療のための断食を検討している場合は、必ず医師に相談してください。

Ellen Wan
2007年から大紀元日本版に勤務しており、時事から健康分野まで幅広く携わっている。現在、記者として、新型コロナウイルスやコロナワクチン、コロナ後遺症、栄養学、慢性疾患、生活習慣病などを執筆。