そろばんがスーパー計算力養成ツールに進化 All Japan Soroban Chanpionship 2024で記者が見たもの

そろばんがスーパー計算力養成ツールだということをご存知だろうか、小学校に上がるか上がらないかという児童が、何桁もある数字の計算をそろばんや暗算で信じられないスピードでこなしていく。

普通、九九を覚えるのは2年生だが、小学校にもあがらないようなおさない子供が複数桁のかけ算をそろばんで暗算で次々と解いていくのだ。

エポックタイムズは全国45のそろばん塾が一同に集い、そろばんの腕を競い合う第10回記念珠算競技大会/All Japan Soroban Chanpionship 2024(3月29日開催)を取材した。

参加者は未就学の幼児から高校生、一般まで各年齢層6部門にわたり、536人のそろばん名人が腕を競った。

競技開始直前、会場はシーンと静まりかえり、会場は緊張感が漂っていた。一般の大人はもちろんのこと、子供たちも真剣な面持ちで競技に臨んでいる。4、5歳の子供といえば、普通、じっと座るどころか、泣いたり、喚いたり、走り回ったりしても全くおかしくない年頃だ。

筆者はこうした集中力こそが、子供たちが尋常ではない計算力を発揮できる秘密なのではないかと感じた。

競技開始直前、会場はシーンと静まりかえり、会場は緊張感が漂っていた。一般の大人はもちろんのこと、子供たちも真剣な面持ちで競技に臨んでいる(大紀元/大道)

静けさの中、「始め!」という掛け声とともに、皆、一斉に問題用紙をめくる。

頭の中は計算をめぐらせ、手は解答用紙に答えを次々と書いていく。時間と正答率で順位が決まるため、トップを狙うには計算するスピードだけではなく、いかに早く答えを書けるかというのも重要になるそうだ。

今回の大会「All Japan Soroban Chanpionship」の菊地正芳会長は「計算して、答えまで書いて、一問7.5秒しかない。この大会の参加者にとってはそこを攻略できるという楽しみがある」と語る。

ネットで公開されている2023年の問題を見てみると、4、5歳のそろばんのかけ算の問題は407✕89といった3桁かける2桁が20題、854×627のような3桁×3桁が20題のかけ算だ。4、5歳で複数桁のかけ算をするというのも驚きだが、それを1問7.5秒という時間で次々と答えを答案用紙に書いていかなければならない。

ネットで公開されている2023年の問題を見てみると、4、5歳のそろばんのかけ算の問題は407✕89、852✕63といった3桁かけ2桁のかけ算だ(大紀元/大道)

年齢が上がっていくにつれ問題の桁数はどんどん増えていく。小学校1、2年生だと1895✕984といった4桁✕3桁、小学校3、4年生だと4桁✕4桁、高校生、一般になると5桁✕5桁と桁はどんどん増えていく。限られた時間で正確な計算が求められる中、桁が一つ増えるだけで難易度は増す。

会場を見渡すと右手と左手でそろばんを使う参加者もいる。ある程度、上達しないと難しいようだが、一部の子供は両手でそろばんをはじいている。

会場を見渡すと右手と左手でそろばんを使う参加者もいる。ある程度、上達しないと難しいようだが、一部の子供は両手でそろばんをはじいている(大紀元/大道)

菊地会長に両手でそろばんをはじいている人の頭の中はどうなっているのか尋ねてみたところ、驚くべき答えが返ってきた。

例えば掛け算なら、左手は上の方の桁、右手は下の方の桁をそれぞれ半分ずつ計算して答えを出し、答えを答案用紙に書きながら、もう一方の手は次の問題の半分の桁の計算を始めて、計算から答えを書くまでのトータル時間を絞っているという。

そんな事が出来るなら、小学校の算数など朝飯前だろう。社会に出てからも、こうしたマルチタスク的な能力は、かなり役に立つのではないか。

菊地会長は4、5歳という幼児の頃からそろばんを習うと、幼児の頭はそれぞれの数字を表すそろばんの珠のイメージをどんどん吸収し、頭の中で画像処理をし、ほとんどの子供が長い桁の計算でも瞬時にできるようになると語った。そろばんはそうしたイメージを作り出すツールというわけだ。

一番、記憶力が優れている幼児の時代にそうしたイメージを覚えた子供は将来、計算で困ることはない。その一方で学校の算数で計算を学んでしまうと、上達するのは難しくなると菊地会長はいう。

例えば67+24というような足し算でも、そろばんでは6+2と10の桁から計算するが、学校の算数で教えられる計算では、まず7+4と1の桁から計算する。

菊地会長は「そろばん式は頭の中のイメージで瞬時に計算ができるが、小学校で習う筆算式は途中経過を重要視しており、学校のテストでは途中経過を書かないと丸をもらえない。本来は正しい答えを瞬時に出せた方がいいが、今の日本の教育はそうではない」と語る。

筆算式に染まってしまうと中々そろばんの上達は難しいようだ。

そろばんは「読み、書き、そろばん」として江戸時代の寺子屋の手習いの科目のひとつとしても知られ、電卓があらわれるまでは計算ツールとして家計簿をつけるなどの生活上の計算から、経理計算や取引など商売上での計算といった場面でも大いに活躍してきた。

そろばんは電卓やパソコンの普及によってすっかり見かけない道具になったが、そろばんは電気もいらず、電卓やパソコンのようにスイッチを入れなくても使用できる。日本にはそんな素晴らしい道具があるのだ。

菊地会長は「パソコンはいかに脳を使わないようにするかというツールになっている。だから、どんどん使えば使うほど脳を使わなくなる。そろばんは全く逆だ。高い能力の子、有望な社会人を我々は育てなくてはいけない」と語った。

ここ数十年で科学技術も随分と進んだ、特に人工知能(AI)の発展は著しく、人間は何も考えたり、判断しなくてもよいような世界にますます近づいている。

「AIに人間が従う時代」を危惧している人々も少なくない。そろばんは人間が中心となる世界に戻るためのキーツールのひとつかもしれない。

大道修
社会からライフ記事まで幅広く扱っています。