「8:16ダイエット」は心臓に良くない? 医師が明かす減量法の注意点

「8:16ダイエット」とは、断続的なファスティング(断食)のことであり、一定の時間を設けてその時間帯は食事をとらないようにする方法です。

8:16という数字の意味は、1日24時間のなかで「16時間は食事なし。8時間が食事可能な時間」ということ。例えば「午後8時から翌日正午まで、水分補給する以外、一切の食事をしない」というように設定します。

もちろんこれは、減量を主とする健康増進を目的としています。そのため、この断食を行うことで、かえって心臓病などのリスクを高めてしまっては元も子もないことになります。
 

人気の減量法に「落とし穴」あり

この「8:16ダイエット」は最近人気の減量方法です。ところが、約2万人の米国人を対象とした研究では、1日の食事可能時間が8時間未満の人は、心不全などの心血管疾患による死亡リスクが91%増加することがわかりました。この研究の暫定報告書は今年3月18日に米国心臓協会(AHA)が主催する会議で発表されましたが、査読済みの学術雑誌にはまだ掲載されていません。

同研究に関して米国心臓協会が発行したプレスリリースによると、研究者らは2003年から2018年までの国民健康栄養調査(NHANES)の参加者から得たデータをもとに、このテーマについて検討しました。対象者は平均年齢49歳、フォロー数にして2万人以上の参加者が含まれています。調査期間は8年で、追跡調査の最長の例は17年でした。

この期間の調査から死亡データを分析すると、対象者のなかで「8:16ダイエットをした人」は心血管関係の疾患による死亡リスクが、なんと91%増加することが判明したのです。同様に、すでに心臓病やがんを患っている人が「8:16ダイエット」をした場合は、心血管疾患で死亡するリスクも高くなりました。

これに対して、1日あたりの食事可能時間が16時間を超えていたがん患者は、がんによる死亡リスクの低下との間に相関関係がみられました。つまり、これを見る限り、食事可能時間の長いがん患者のほうが、がん死リスクは低かったのです。

さらに心血管疾患のある人のなかで、1日の食事可能時間が8〜10時間の人は、心臓病や脳卒中による死亡リスクが66%増加しています。

同調査の研究者の1人でもある、中国の上海交通大学の教授・鍾文澤氏は、「一般的な1日あたりの食事可能時間は12~16時間です。これと比較した場合、食事する時間幅を小さくしても、寿命が延びるわけではない」と述べました。

特に心臓病やがん患者の場合、食事可能時間を8時間以内にすることと死亡リスクとの関連性を理解する必要性が高まっています。しかし、鍾文澤氏は「この研究は、断続的な断食(8:16ダイエット)が心血管疾患による死亡を引き起こすことを意味するものではない」とも強調しました。

米スタンフォード大学のクリストファー・D・ガードナー教授は、次のように指摘します。

「(8:16ダイエットをすることによって)食事可能な時間は短くなりますが、そのことが関係して心血管疾患で死亡するリスクが高くなる要因はまだ明らかではありません。可能性としての原因は、食事可能な時間の長短ではなく、栄養を十分に摂取していないことが挙げられるでしょう」

 

「断食」は心臓血管に影響する?

いずれにしても、この研究は世間の注目を集めました。米ニューヨークの北方医学センター(NORTHERN MEDICAL CENTER)の最高経営責任者(CEO)楊景端博士は、自身が解説する健康番組のなかで、次のように述べています。

「過去の多くの研究から判明していますが、断続的な絶食は、インスリン感受性を高めて2型糖尿病のリスクを抑制できます。また、体の炎症反応なども軽減できます。これらは全て、心臓血管の健康にとって有益なものです。しかし、この最新研究から得られた結論は、断続的な断食(8:16ダイエット)は健康に良いという従来の考えを完全に覆すものであったため、国民を少なからず困惑させることになりました」

その上で楊景端氏は「この研究はまだ学術誌で正式に発表されておらず、結論として扱うことはできない」と強調しました。いっぽう、一部の医師のなかには「断食は、体重を減らすのには役立つが、必ずしも心臓に良いわけではない」という考えもあります。

台湾の心臓専門医で宇平クリニック院長の劉中平博士は、新唐人テレビの番組「健康1+1」で、次のように述べています。

「この研究は、個人の詳細なライフスタイルを掘り下げたものではありませんが、多数の人を対象としたものであるので、注目に値する報告だと考えられます。学術誌に正式に発表された他の過去の研究でも、断続的な断食(8:16ダイエット)が心血管疾患の危険因子の改善について、限定的な効果しかないことが判明しています」

 

断食は「筋肉の減少」に要注意

近年、医学界は断食に関する多数の臨床実験を行っていますが、実験方法は異なり、得られた結果も異なります。そのため、断食が心血管疾患に及ぼす影響について、一貫した結論は得られていません。

医学誌『Cell Metabolism』に掲載された2018年の研究では、毎日の夕食は午後3時までにすませ、それ以降は絶食することで、糖尿病初期患者のインスリン分泌が改善されるとともに、インスリンに対する細胞の感受性が高まるため、2型糖尿病の進行を防ぐことができることがわかりました。

しかし、食事の時間を夕方に設定した別の研究では、断食が血糖代謝に及ぼす利点は見出されなかったばかりか、断食することが筋肉の減少を引き起こす可能性があります。これはサルコペニア(筋肉減少)患者にとって特に危険であることも判明しています。この研究は2020年に内科の医学誌『JAMA Internal Medicine』に掲載されました。

この実験に参加したのは肥満体の人たちで、ランダムに2つのグループに分けました。片方のグループは「8:16ダイエット」で午後8時から翌日の正午まで16時間の断食、つまり朝食はとりません。もう片方のグループは、通常通り1日3食の食事をとるようにします。

こうして12週間の後。8:16ダイエットを行った人は確かに体重が減りましたが、減った体重のほとんどは筋肉で、脂肪減少はあまりありませんでした。

筋肉量が減ると体力が低下するだけでなく、かえって太りやすくなります。血糖、インスリン、血中脂質などの数値に関しては、1日3食グループと比べて、断食グループは大きな改善は見られませんでした。

この研究結果は、8:16ダイエットをしても、食事の内容を改善しない限り、筋肉の減少防止と心臓血管の保護には効果がないことを示しています。

劉忠平氏は「断食で体重をコントロールする場合、その方法が適切でなければ筋肉が減少しやすい」と述べます。そのような場合、空腹時には筋肉が分解されるため筋肉量が落ちます。食べれば、ただ脂肪が増えるだけなのです。そこで十分な運動を組み合わせないと、たとえ体重は落ちても、筋肉が減ることになります。
 

最も懸念される「朝食抜きの断食」

なお、この実験では、食事可能な時間が昼12時から午後8時までに限定されていますが、体内時計の観点からすれば、これが最良の選択とは言えません。実験に当たった研究者は、夕食を抜くより、朝食を抜くほうが継続しやすいためだと説明しています。

しかし朝食を抜くと、代謝障害を引き起こし、心臓血管の健康を損なう可能性があります。

ある研究では、毎日朝食を食べる人に比べて、朝食を抜く人はあらゆる原因による死亡リスクが75%増加し、とくに心血管関係の疾病による死亡リスクは158%増加することがわかりました。同様に、心臓病による死亡のリスクは 134% 増加し、脳卒中による死亡のリスクは 253% 増加します。
 

減量するなら「良質の食物」をとる

劉忠平氏はまた「自身の経験からも、8:16ダイエットが全ての人に適しているわけではないことを発見した」といいます。実は、劉氏は数年前に8:16ダイエットに挑戦してみました。それによると、16時間なにも食べずに耐えるのは本当に難しく、14時間しか断食できませんでした。2か月で劉氏の体重は 2 キロ減りましたが、心血管疾患の重要な指標であるコレステロール値は低下しませんでした。

劉氏は、断食の時間には非常にお腹が空いたため、結局、食事可能な時間中に糖分や脂肪の多い食べ物、肉類を多く食べるようになってしまったのです。

劉忠平氏は、米国医師会の雑誌『JAMA Network Open』に昨年掲載されたランダム化比較臨床試験を引用し、「断続的な絶食(8:16ダイエット)は2型糖尿病患者の体重と血糖値のコントロールには補助的に役立つものの、血中脂質、コレステロール、血圧などの指標には明らかな変化は見られなかった」としています。

劉忠平氏は「8:16ダイエットは、空腹の時間を長くすることに焦点を当てています。これは確かに減量には役立ちますが、心臓血管の健康に大きな影響を与えるので、健康的な食物をいかにとるかにかかっています」と注意を促します。とくに、断食の後に食べ過ぎると、まさに心臓への負担が大きくなるのです。

医師である劉忠平氏は現在、体重を減らす必要がある患者さんに対して、以下のようにアドバイスしています。

「体重を減らすために空腹であってはなりません。空腹になりすぎると、減量が成功しないからです。体重を減らすときは、より栄養価が高く、満腹感のある食物をとる必要があります。野菜、魚、皮を除去した鶏肉などのタンパク質と、オリーブオイルやナッツ類などの良質な脂肪を食べてください。糖尿病でない場合は、果物を多く食べても構いません。減らす必要がある食品としては、精製されたデンプン、揚げ物、飽和脂肪酸の食品、赤肉(牛・豚・羊などの獣肉)などがあります。これらの食品の過剰摂取は、心血管の健康に悪影響を及ぼします」

劉忠平氏は、こうした健康的な食物をとることに加えて、体重をコントロールするために断食を取り入れる人々に対して、以下のような3つの注意点を提示しました。

1、血中脂質、血糖値、血圧には留意し、体重減少が心血管疾患に及ぼす影響に注意を払いましょう。

2、朝の断食よりも、夜に断食したほうが健康的です。

3、適度な運動を心がけ、多くのタンパク質摂取を組み合わせることで、筋肉を増強し、脂肪を減らすことができます。

Ellen Wan
2007年から大紀元日本版に勤務しており、時事から健康分野まで幅広く携わっている。現在、記者として、新型コロナウイルスやコロナワクチン、コロナ後遺症、栄養学、慢性疾患、生活習慣病などを執筆。