ブレインフォグとは新型コロナウイルスの後遺症の1つで、まるで頭の中に霧がかかったように「ぼんやりして、物事が思い出せない状態」を指す言葉です。
ブレインフォグを引き起こす要因は複数あって、脳の疲労やストレス、不安感、不規則な生活、更年期障害、生理などが考えられます。最近では、とくに新型コロナウイルス感染症が回復した後の後遺症として、この言葉が知られるようになりました。
脳内の「シグナル伝達」が乱れる
新型コロナウイルス感染症から回復した人は、一般にブレインフォグとして知られる記憶喪失や学習困難を経験するケースがよく見られます。最近の新研究では、ウイルス感染がどのようにブレインフォグを引き起こすのか、さらには、まだ知られていない潜在的な治療法について探求しています。
今年2月、米イリノイ大学シカゴ校の研究チームは、SARS-CoV-2(新型コロナウイルス感染症を誘引するウイルス)に感染したマウスが神経障害を発症するメカニズムを発見するとともに、初歩的な治療方法も考案しました。この研究は、医学誌『Brain(脳)』に掲載されています。
新型コロナウイルスに感染すると、患者の脳血管内皮細胞に炎症が起こるため、血液脳関門が損傷するとともに、血液中の高分子や白血球が制御不能のまま脳組織に流れるようになります。こうした血液脳関門の破壊は、多発性硬化症などの神経疾患だけでなく、神経炎症や認知障害を引き起こす可能性があります。
研究者が新型コロナウイルスに感染したマウスの脳血管を調べたところ、マウスの血液脳関門に漏れがみられ、それが記憶力や学習能力に影響を及ぼしていることを発見しました。
また、新型コロナウイルスがWnt/β(カテニンシグナル伝達経路)に調節不全を引き起こしていることも判明しました。このシグナル伝達経路は、血液脳関門機能の維持に重要な役割を果たします。いわゆる「シグナル伝達経路」とは、細胞がWntタンパク質などの細胞外シグナル分子を受け取ると、細胞内で一連の化学反応が引き起こされることを指します。
そこで研究者らは、遺伝子治療を利用して脳血管内のカテニンシグナル伝達経路を強化し、血液脳関門を保護する方法をとりました。その結果、治療を受けたマウスの脳に蓄積する白血球が大幅に減少し、血液中の白血球が無制御に脳へ流れなくなったことで、マウスの学習能力と記憶能力が改善したことが示されたのです。
この研究の主要メンバーであるサラ・E・ルッツ氏は、そのプレスリリースのなかで「この治療法が人間に適用されるのはまだ先のことですが、この研究は、病気を引き起こす分子メカニズムを解明する上で重要な一歩を踏み出したものです」と述べました。病気を引き起こす分子メカニズムが確定されれば、生命現象や病気の原因を知ることができるからです。
同じ研究の共著者で、米イリノイ大学シカゴ分校の生化学・分子遺伝学部長であるジャリーズ・レーマン博士は「新型コロナウイルス感染症によるパンデミックは、軽度の感染症でも体内の器官、例えば脳などに損傷を与える可能性があることを教えてくれた」と述べました。
レーマン氏はまた、脳に影響を与える呼吸器感染症についてはさらなる研究が必要であるとした上で、感染後に活性化される分子シグナルや炎症反応を解明することが、新たな治療法の発見に役立つ可能性がある、と考えています。
高齢者の感染は、脳へのリスクが高い
さらに今年、権威ある科学誌『ネイチャー』の神経科学関係の分冊「Nature Neuroscience」に掲載されたある研究によると、新型コロナウイルスの急性感染期の患者、および感染後にブレインフォグの後遺症が残る患者の両方で、血液脳関門が著しく損傷していることも判明しています。
研究者らは、新型コロナウイルスに感染した76人の入院患者の血清および血液サンプルを分析し、流行以前に採取された25のサンプルと比較したところ、軽症、中度症、重症のいずれにおいても、患者の血清と血液は、その対照群との間に大きな差異があることが判明しました。
ブレインフォグを患っている新型コロナウイルス感染症患者の血清サンプルで、タンパク質S100βは特に高いことが判明しています。このタンパク質が血清中に大量に入っている場合、それは通常、血液脳関門が損傷した兆候となります。
特に、高齢患者の血清中のS100βタンパク質が比較的高くなっています。このことは、高齢者が新型コロナウイルスに感染した後、血液脳関門が損傷される可能性が高いことを示しています。
医師が提唱する「4つの留意点」
香港の精神科医であるマック・カイロック博士は、大紀元のインタビューに対して、次のように述べました。
「ほとんどのブレインフォグは食事と運動によって徐々に改善します。ただし、高齢者がウイルス感染後に重度の記憶力低下が現れた場合は、注意が必要です。脳の変性が懸念されますので、できるだけ早く医師の治療を受けることをお勧めします」
カイロック氏はさらに、ブレインフォグに悩む人々に以下のアドバイスをしています。
第一に「十分に休息を取る」こと。そして「適度な運動」を続けることで、血液が脳に酸素を運ぶようにする。「新鮮な野菜や果物」を、よく食べる。それらに含まれる抗酸化物質が脳から老廃物を取り除きます。最後に、脳の健康に有効であることが医学的に証明されているサプリメントを適量摂取することです。
漢方医:ツボ押しと食事療法で症状を改善
台湾の漢方クリニック「施丞修中醫診所」で院長を務める施丞修氏は、新唐人テレビの番組「談古論今話中醫」のなかで、新型コロナウイルス感染後にブレインフォグの症状が出た患者には、適切なツボ押しと食事療法が、体力を回復し、症状を改善するのに役立つと述べました。
施丞修氏によると、ブレインフォグの症状が出た患者は、往々にして睡眠の状態が悪いといいます。そのため、眠っても十分に休むことができず、体力がますます低下するのです。
ブレインフォグのある患者は、よく頸部に圧迫感や血行不良を感じます。このような場合は、首の後にある「風池(ふうち)」のツボを押すと、緊張していた部分が徐々に緩むのを感じます。
さらにブレインフォグのある患者は、頭皮が硬くなる傾向があります。そこで頻繁に頭皮をマッサージしたり、刮痧(かっさ)をして頭皮をこすることをお勧めします。痛みはありますが、痛みが消えた後は非常に爽快で元気になります。
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