続き
血糖値以外の健康効果
神経変性疾患は、ニューロン(生物の脳を構成する神経細胞)の機能が徐々に低下または喪失する病気で、特にパーキンソン病やハンチントン病が一般的です。これらの病気は、ケアや治療において大きな課題を呈します。最近の研究では、トレハロースがこれらの衰弱性疾患に対する治療的効果を提供することが示唆されています。
トレハロースは、主にオートファジー(自食作用)を介して保護効果を発揮すると考えられています。オートファジーとは、神経変性疾患において有害なタンパク質または不要な物質を除去する重要な細胞の浄化プロセスです。トレハロースがオートファジーを促進することで、これらの疾患の進行を遅らせるか、止める可能性があります。
トレハロースは、がんの細胞増殖や炎症など、さまざまな細胞機能に影響を与えます。研究では、トレハロースが「新しい抗がん剤として利用される可能性がある」としています。老化、心代謝性疾患、新型コロナウイルスを含む感染症における役割も調査されています。
チェン氏は「トレハロースは、酸化ストレスやタンパク質の誤折りたたみから細胞を保護することで、老化や加齢関連疾患に関連する細胞の健康を促進する可能性があります。運動のパフォーマンスや持久力を高める可能性についても検討されています」と述べました。
ただし、彼女はこれらの発見が有望である一方で、「その有効性と安全性を確認するには、さらなる研究が必要です」と警告しています。
トレハロースと腸の健康
トレハロースが腸の健康に及ぼす潜在的な影響に注目されています。これは、私たちの腸内フローラの複雑なエコシステムに大きな変化をもたらす可能性があるからです。トレハロースは、小腸でトレハラーゼという酵素によって効率的に分解され、グルコース(体の主要なエネルギー源)に変換されます。腸内の細菌も独自のトレハラーゼを持ち、トレハロースをエネルギーとして利用できます。
チェン氏は、このプロセスについて「腸内の細菌の種類や数に変化をもたらし、それが腸の健康や機能にさまざまな影響を与える可能性があります」と述べています。
しかし、トレハロースと腸内細菌の関係は一筋縄ではいきません。チェン氏は、複数の研究で「トレハロースの過剰摂取が有益な細菌と有害な細菌のバランスを変える可能性がある」と指摘しています。このバランスの崩れは、消化、免疫機能、全体的な健康に影響を及ぼす可能性があり、トレハロースを摂取する際には節度が必要であることを示しています。
また、トレハロースは、クロストリジオイデス・ディフィシル(抗菌薬の使用後に発生する腸炎の一つ⦅C. diff⦆)とも関連付けられています。この細菌は重度の下痢を引き起こし、特に高齢者や免疫力が低下した人々にとってリスクとなります。2018年の研究では、C. diffの攻撃的な株がトレハロースをエネルギー源として利用するよう進化し、より重篤な感染症を引き起こすことが明らかになり、食品製品での広範な使用に関する安全性への懸念が提起されています。
トレハロースは腸の健康に潜在的な利益をもたらす可能性がありますが、チェン氏は「トレハロースが腸内フローラに与える影響とその人間の健康に対する意味を完全に理解するには、さらなる研究が必要です」と語りました。
食事面での考慮事項
トレハロースについては、天然の供給源から得られる栄養素と工業的に製造されたものでは、必ずしも同じ効果ではないことの認識が重要です。トレハロースは、食品医薬品局(FDA)から「一般に安全と認められる(GRAS)」とされ、その広範な使用が認められていますが、人体が合成版のトレハロースにどのように反応するかについての研究は進行中です。
どのくらい摂取するべきかは、依然として未解決の問題です。
チェン氏は「最適な摂取量については、現在のところ健康効果のために特定の推奨量はありません」と述べています。
FDAによると、トレハロースは体内でよく耐えられ、1日あたり最大100グラムの許容摂取量を示します。メーカーは通常、5グラム(ティースプーン1杯程度)を適度な摂取量として推奨しています。これはコーヒー、焼き菓子、その他の食品や飲料の風味を高めるための甘味料として適しています。
チェン氏は「しかし、トレハロースの健康効果を期待して食事に取り入れたい方は、主に天然の食品源から節度を持って摂取するのが望ましいです」と語りました。
このアドバイスは特に重要です。なぜなら、トレハロースは砂糖に比べて甘さが約45%低く、同じ甘さを得るためには多くの量を必要とするからです。
一部の人々は、トレハロースを分解するために必要な酵素トレハラーゼを欠いていることがあります。これにより、トレハロースを含む食品を摂取すると、嘔吐、腹痛、下痢などの潜在的な副作用が生じる可能性があります。
「トレハロースを食事補助食品として、または強化食品に使用することを考える場合は、推奨される摂取量を守り、特に糖尿病や代謝障害などの基礎疾患を持つ人は、医療専門家に相談することが重要です」とチェン氏はアドバイスしています。
さらなる研究により、新たな摂取量の推奨が出される可能性があります。
完
(翻訳編集:清川茜)
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。