ストレス・がん・微生物叢の悪化 診断から始まる悪循環

がんとストレス: 医師と患者が共に管理すべき致命的な組み合わせ(上)

ダナ・フォークトさんはそれまで健康そのものでした。

イタリア旅行で数千段の階段を踏破した時は、素晴らしい気分を味わったそうです。旅先から帰った後、定期的なマンモグラフィー検査で彼女の浸潤性小葉がんが判明しました。これは母乳を作る組織の集まりである乳腺小葉から発生する、発見するのが難しいがんです。

彼女は突如として情報の渦に放り込まれました。新しいことを一つ一つ理解するための時間を欲したフォークトさんにとって何より不幸だったのは、治療チームが彼女に早急な決断を迫ったことでした。セカンドオピニオンを得る余裕はなかったそうです。

がん診断や治療法の決定において患者がよく経験する感情の暴走は、転帰を損なう主な要因となります。がん診療所や医師、その他の医療従事者が患者のストレス軽減を怠るためにそういった悲劇が起こります。研究でもそのことは示されています。

フォークトさんも、乳がんに対する強い不安によって平常心を失ったそうです。

「今まで会った患者仲間は皆、例外なく同じようなことを経験しました。がんと診断されると、経験したことのない事態、何を聞いて誰を信じればいいのかさえわからない事態を前に意思決定を迫られます。それで精神的に参ってしまい、困惑してしまうと、医師や治療チームの言うことに従うしかないのです」

「私は途方に暮れました。どこに進めばいいのか、どう考えればいいのか見当もつかず、パニック状態でした」

微生物の観点からみる

がんと診断された患者にとって、強い不安感は特に厄介です。なぜなら、ストレスは腸内微生物叢(腸内に生息する約100兆の細菌のかたまり)を損傷するからです。

腸内微生物叢はマイクロバイオームとも呼ばれ、免疫系と密接に関係しており、がん治療の効果を左右します。どちらの要素も予後に関係します。

腸と脳は絶えず連絡しあい、無数の化合物や微生物がこの複雑な相互依存関係に影響を与えている。 (Illustration by The Epoch Times, Shutterstock)

新たに乳がんと診断された患者の腸内微生物叢とストレスの関係性を調べた新たな研究で、このジレンマが確認されています。

結論としては、ストレスを感じていると報告した患者の微生物群には顕著な変化がありました。それらは種々のがんや炎症性腸疾患、治療反応の不良、あるいは治療に限らず生活の質にも影響を与えうるその他のマイナス特性と関連しています。

2023年10月20日にオープンアクセスの学際的電子ジャーナル『Scientific Reports』に掲載されたこの研究で、ストレスの原因として一番言及されたのが「治療法の決定」でした。意思決定には不確実性、不安、後悔といったストレスが伴います。

つまり、がんと診断されることで生じるストレスが、そのままがん自体の一因となりうるということです。

では、医師やがん診療所は、いかに患者のストレスを軽減し、がんの転帰を改善できるのでしょうか。

2021年にカウンセリング分野を扱う『Patient Education and Counseling』誌に掲載された臨床医向けの記事では、乳がんには特殊なストレスが伴うため、患者が治療法を決定するタイミングに医師は留意する必要があると強調しています。

今回の新たな研究の著者らは、乳がんは肺がんを上回り最も多く診断されているがんであること、そして生存率の上昇が見られることから、生活の質の改善をテーマに研究を行うべきだと論じています。

そして、ストレスと微生物叢との関係について新たな理解を得ることができれば、患者はライフスタイルを変革し、微生物群の状態を向上させ、予後を改善できます。

 

乳がんにおける微生物叢の役割

新しい研究は、腸内微生物叢と乳がんを関連づけた先行研究に基づいています。微生物群は代謝系、神経系、内分泌系を活発にします。また、主に病原性細菌の集団を抑制することで、人間の免疫系の門番としても機能します。

細菌の構成と相互作用がいかに免疫システムを活性化するかを模索しているがん研究者は、微生物叢に強い関心を寄せています。免疫系が改善されれば、体が直接がん細胞を処理できるようになる可能性があるからです。

微生物叢と乳がんに関連して、これまでに以下のような発見がなされています。

  • 特定の微生物と微生物群の多様性は、患者の化学療法への反応や予後と関連している。たとえば、化学療法に対する反応の悪さを示す微生物もいれば、有益な反応を示す微生物もいる。微生物叢は、化学療法に関連する毒性を予測できる。
  • 腸内細菌叢のバランスが崩れると、乳がんの発症につながる可能性がある。
  • プレバイオティクス(有益な腸内細菌の餌になる食品成分)やプロバイオティクス(腸内環境を改善する微生物)などによって共生細菌をうまく操作することで、がんを克服できることが一部の患者において証明されている。

2011年に乳がんと診断されたクリスティーン・ホルコムさんは、病気と戦う微生物の増殖を促すために、化学療法をやめ、代わりにローフード、サプリメント、デトックスで免疫力を高める選択をとったそうです。それまで彼女には、自分で自分の微生物叢を育てるといった考えはありませんでしたが、今ではその考え方がしっくりきているといいます。

「微生物叢の変化が乳がんの発症につながった可能性があります。しかし、慢性的なストレスから抜け出せば、微生物叢が元に戻り、免疫系がどんな敵とでも戦えるようになります」

ホルコムさんは両乳房切除術を受け、乳がんは治癒しました。それ以降、講演家として、いかにがんを克服し再発を防ぐかについて人々に語っています。

イリノイ大学スプリングフィールド校で広報報道の修士号を取得。調査報道と健康報道でいくつかの賞を受賞。現在は大紀元の記者として主にマイクロバイオーム、新しい治療法、統合的な健康についてレポート。