妊娠中に新型コロナウイルスにさらされた乳児は、発達遅滞になる可能性が10倍高い:研究

妊娠中に重症または重篤な新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患した母親から生まれた乳児は、生後3年間に神経発達遅滞を発症する可能性が10倍高いことが新たな研究で明らかになりました。

この研究は最近Nature誌に発表されたもので、胎内でSARS-CoV-2(COVID-19を引き起こすウイルス)にさらされた乳児は、コミュニケーション、粗大運動、微細運動、問題解決、個人的・社会的領域でスコアが低く、言語発達が最も影響を受けました。

COVID-19のパンデミック期間中、研究者たちは、妊娠中にSARS-CoV-2に感染した母親から生まれた子供たちを評価し、ロサンゼルスとブラジルのリオ・デ・ジャネイロでパンデミック前にSARS-CoV-2にさらされずに生まれた子供たちと神経発達の結果を比較しました。

2020年4月から2022年12月の間にCOVID-19にさらされた5~30ヵ月の子ども172人と、さらされなかった対照群の6~38ヵ月の子ども128人の2群300人を対象に神経発達検査を実施しました。

胎内でCOVID-19にさらされた172人の子どものうち、128人がベイリー乳幼児発達検査(BISD-III)を、44人がASQ-3乳幼児発達検査を、36人が両方の評価を完了しました。

BISD-IIIでは、認知、言語、社会的情緒、運動、適応行動といった5つの主要な発達領域が検査されます。ASQは、保護者から提供された調査情報に基づいて、医師や教育者が出生から6歳までの子どもの発達の遅れ(DD)を特定し、進歩するのを助けるために使用されるスクリーニングツールです。(SARS-CoV-2に)さらされた172人のうち、ロサンゼルスの子供は97人、ブラジルの子供は75人でした。

研究によると、COVID-19にさらされた群では128人中12人(9.4%)に発達遅滞がみられたのに対し、同じ環境のパンデミック前の対照群では128人中2人(1.6%)にしかみられず、統計的に有意な発見となりました。COVID-19にさらされ、2種類の検査を終えた44人の子供のうち、8人に発達の遅れが見られました。

さらに、ブラジルの子供たちはアメリカの子供たちよりも発達に遅れがある可能性が高かったです。研究によると、生後6〜8カ月の子どもの12%に発達遅滞がみられたのに対し、対照群では2.6%でした。アメリカ人グループでは、(SARS-CoV-2に)さらされた5.7%に発達遅滞がみられましたが、対照群ではみられませんでした。

「両方の評価ツール(BISD-IIIとASQ-3)を考慮すると、両コホート(LAとリオ)の(SARS-CoV-2に)さらされた乳児172人のうち12%がDDでした」と論文著者らは書いています。健康な対照群では、この程度の発達遅滞は「かなり珍しい」と著者らは付け加えています。

要因

アメリカとブラジルの参加者には大きな違いがありました。アメリカの母親は年齢が高く、併存疾患の頻度が高く、多様な人種・民族的背景を持つ傾向がありました。

ブラジルの母親は、ほとんどが黒人か人種・民族的背景が混在しており、参加者全員が政府出資の医療を受けていました。

特に、アメリカの母親の30.4%が感染前にCOVID-19ワクチンを接種していたのに対し、ブラジルの母親は感染前にワクチンを接種していませんでした。さらに、重度のCOVID-19に罹患したことのあるアメリカの母親が8.8%だったのに対し、ブラジルの母親では34.6%でした。

人口統計上の違いに加えて、著者らは早産が発達遅滞の危険因子になっていると指摘しています。しかし、早産と低出生体重児は、COVID-19に感染して発症した母親から生まれた乳児に多く見られます。

最後に、言語発達はCOVID-19にさらされた乳児の中で最も影響を受けた領域であることが示されましたが、これが胎内でのCOVID-19にさらされたことによるものなのか、あるいはロックダウン、両親との交流不足、親のうつ病、マスクなどのパンデミック対策によるものなのかについては、かなりの議論がありました。

著者らは、評価での平均以下の成績はパンデミックで説明できる可能性が高いが、いくつかのスコアは、さらなる調査が必要な重度の発達遅滞と相関していると述べています。

他の要因を示唆する研究

妊娠中にSARS-CoV-2に感染した女性から生まれた子供に対する長期的な神経発達への影響はまだよく分かっていません。しかし、母体感染の重症度や妊娠第1期〜第3期のどのタイミングで感染したかによって、乳児が発達遅滞を起こしやすいかどうかが決まる可能性を、データが示唆しています。

例えば、2023年4月にJAMA Network Open誌に掲載された407人の小児を対象とした研究では、母親のSARS-CoV-2感染への出生前曝露と、生後5~11ヵ月の乳児の神経発達との間に関連性は見つかりませんでした。著者らは、妊娠中の軽症または無症候性のSARS-CoV-2感染は、乳児の認知、言語、運動発達には影響しないと結論づけました。

2022年5月にBMC Pediatrics誌に発表された前向きコホート研究では、研究者らはASQ-3を用いて、妊娠中にSARS-CoV-2に感染した女性から生まれた乳児298人の10~12ヵ月時の神経発達状態を調べました。

その結果、SARS-CoV-2感染症の母親から生まれた乳児の神経発達の転帰は全体的に良好でしたが、妊娠第1期と第2期に感染した母親から生まれた乳児の方が発達遅滞のリスクが高いことがわかりました。発達遅滞を示した乳児は、母親のSARS-CoV-2感染時期の影響を強く受け、母親の年齢、教育レベル、COVID-19の重症度には影響されませんでした。

JAMA Pediatrics誌に発表された2022年1月の研究では、子宮内でSARS-CoV-2にさらされた乳児とそうでない乳児の間で、感染の時期や重症度にかかわらず、生後6ヵ月時点での神経発達の結果に有意差は見つかりませでした。

その代わりに、2020年3月から12月の間に生まれたすべての乳児は、COVID-19が発症する前に生まれた乳児に比べて、粗大運動、微細運動、個人的・社会的スコアが「著しく低い」ことがわかりました。

「これらの調査結果は、母親のSARS-CoV-2感染ではなく、COVID-19パンデミック期間中に生まれることが、生後6ヵ月時の神経発達の違いと関連していることを示唆している」と論文著者らは結論づけました。

政治学の背景を持つ弁護士兼調査ジャーナリスト。栄養学と運動科学の追加認定を取得した伝統的な自然療法医でもある。