「時間のとらえ方」が治癒のペースに影響することが明らかに(下)

(続き)

以下はランガー氏のインタビューです
 

大紀元記者:これらの研究で観察されたことをどのように説明されますか?

エレン・ランガー氏:この質問で思い出すのは、数年前、ある人が大手雑誌に私についての記事を書いたときのことです。私が「身一如」の概念全体を説明した後、その人はやはり後日、「でも、どうしてこんなことが起こるのでしょうか」という質問を持って私のところに戻ってきました。だから、こうした研究はとても重要だと思いました。

私たちはこれまでの人生で、心と体という二元論的な見方に従って物事を考えてきました。すべての思考は、身体のあらゆる部分で同時に起こる変化を伴います。

大紀元記者:ですから、実際に実験をしてみると、私たちの期待が変わると、身体もそれに伴って変化することがわかります。

ランガー氏:ええ、すべては期待の問題です。ある意味で、私たちは日常のやり取りの中で無意識に期待に支配されています。何かを見たいと期待すると、それが見えてきます。しかし、期待しなければ、そのものを見落としてしまうことが多いのです。

若者たちがバスケットボールをパスし合う人気の動画があります。そこにはゴリラの格好をした少女が、ゆっくりと彼らの間を歩いていました。視聴者は、白い服を着た選手が何回ボールをパスしたかを数えるよう求められました。ゴリラの出現を予想していなかった視聴者は、パスの回数を数えることに集中するあまり、ゴリラに気づかなかったのです。

大紀元記者:言い換えると、健康状態が良くなると予想していれば、その改善に気づきやすくなり、逆に悪くなると予想していれば、その悪化にばかり注意が向くということでしょうか?

ランガー氏:はい、それは自己成就予言になる可能性が高いです。

大紀元記者:しかし、この例えは、私たちの健康が実際にどのように改善するのかは説明していません。単に私たちが気づくことに関して語っているだけです。私たちが気づくことが、どのようにして私たちの体を変えるのでしょうか?

ランガー氏:重要なのは、期待が身体的変化と同時に生じることです。私たちはまだ、そのような変化を詳細に捉えるための十分な精密技術を持ち合わせていないため、どうしてそのような変化が起こるのかを正確に説明するのは難しい状況です。

例えば、手を挙げた瞬間、脳と身体に同時に変化が起こります。医師から処方された薬を習慣的に飲むということは、その薬が効くと信じているからです。通常、病気になって薬を飲めば症状は改善します。しかし、その薬が実は砂糖の錠剤、つまりプラセボだったとしたら、何があなたの病状を改善させるのでしょうか?  答えは、あなた自身です。

どうしてなのか? それは、思考を通じて健康増進につながる体内の変化を引き起こすからです。もし砂糖の錠剤を飲んで体調が良くなるなら、それはあなたの「心が健康をコントロールしていること」を意味します。

大紀元記者:病気になったとき、私たちはたいてい自分の体をコントロールできないと感じます。私たちは医者に行き、問題を解決して病気を取り除き、体が回復してくれることを期待します。私たちは、自分の心が積極的な役割を担っているとは考えないのです。

ランガー氏:自分の健康をコントロールすることができると信じていないということは、そのコントロールを経験するために意図的に何もしないということです。もし誰かにできないと言われ、できないと信じているなら、何が起きても何もしようとしないでしょう。

私が行っている心身統一に関する一連の研究の背景には、私たちが一般に考える以上に、「自分の健康と幸福をコントロールする力があるということ」を示す意図があります。しかし、そのことに気づくのは非常に難しいのです。

大紀元記者:医者でさえ対処法を知らない病気はたくさんあります。

ランガー氏:私たちがある病気を、対処できない病気だと確信するとき、実は私たちはその病気に間違ったレッテルを貼っているのです。私たちが知っているのは、これまで病気をコントロールしようとした方法が失敗したということだけです。「病気をコントロールできないものとみなすのではなく、『永久的なものではない』とみなすことができればいいのです」私たちは病気について十分にわかっていません。

学校や新聞、そして親でさえ、絶対的なことを伝えるからです。何かを絶対的に知っているとき、何かを確信しているとき、あなたはそれに注意を払いません。しかし、この確信は無頓着につながるのです。

大紀元記者:「マインドフルネス」とはどういう意味ですか?

ランガー氏:病気になったときに医者に行き、治るまでどれくらいかかるか聞いたとします。医師が6週間かかると言った場合、2週間と言われた場合と比べると、回復にはかなり時間がかかるでしょう。その理由のひとつは、「すぐに治ると信じると、気分が良くなる段階に気づき始めるから」です。マインドフルネスとは、新しいことに積極的に気づくことです。

私たちは、慢性疼痛、パーキンソン病、多発性硬化症などの患者を対象に、マインドフルネスに関する多くの研究を行いました。そうすると、いくつかのことが起きました。

まず、自分の体調が良くなることもあれば、悪くなることもあることに気づくと、以前は変わらないか悪くなるかのどちらかだと思っていたのに、今は良くなることもあることに気づき、少し気分が良くなります。なぜ良くなったのかを自問自答することで、マインドフルネスな探求ができるのです。

第二に、病気を治す方法があると信じていれば、そのような方法を見つける可能性が高くなります。第三に、例えば慢性病にかかると、人はしばしば無力感を感じ、自分にはどうすることもできないと考えます。慢性病の定義は、何もできないことだと考えているからです。

しかし、「慢性的ということは、医学界がまだ解決策を見出していないということ」に他なりません。そのため、解決策がないという意味ではありません。だから、この一連のプロセスの中で、マインドフルネスであり続けることで、自分が役に立っている、何かをしているという実感が得られ、それが自分の人生をコントロールしているという感覚を与えてくれます。

大紀元記者:「治す方法があると信じれば、そのような方法を見つける可能性が高くなる」という考え方は、あまりありきたりではありません。

ランガー氏:私が過去45年間やってきた仕事の中には、一般的に考えられていることのほとんどすべてに矛盾するようなことがたくさんあります。人々は不変の事実があると信じていますが、自分自身に注意を向ければ、風邪が5日続くこともあれば、1週間、あるいは2日しか続かないこともあることを思い出すと思います。ある人は一貫して回復が早く、なぜかを問うと、私たちの研究がたどり着いたのと同じところに行き着きます。

些細なことに聞こえるかもしれませんが、重要なことだと思います。人生はさまざまな瞬間から成り立っていて、「必要なのはその瞬間を大切にすること」です。後年のことを心配するのではなく、物事を「変化」として捉え、今日を楽しむことが重要です。

たとえ厳しい医学的診断を受けたとしても、自分は永遠に生きられないのだから、と落ち込んで惨めな気持ちになることもできるし、生きている限りは充実した人生を送ろうとすることもできます。人は人生の年数を増やそうと多くの時間を費やしますが、それよりも「今生きている年数に命を加えることの方が、価値がある」と思います。私たちの研究によれば、そうすることで、より長く健康でいることができるのです。

(おわり)

 

(翻訳編集 呉安誠)