健康なアメリカ人成人を対象とした包括的な研究により、毎日のマルチビタミンの使用が寿命を延ばさず、むしろ死亡リスクを4％高めることが明らかになりました。

この研究は、国立がん研究所の研究者によって行われ、6月26日、JAMA Network Openにて発表されました。研究結果は、マルチビタミンが健康と長寿を向上させるという一般的な認識に対する挑戦となっています。この研究は、人々が慢性疾患の予防や寿命の延長を期待して定期的にマルチビタミンを摂取している現状を背景にしています。

★日本でも、マルチビタミンのサプリメントは人気があります。特に忙しい現代人や健康志向の高まりから、手軽にビタミンを補給できる手段として広く利用されています。日本人の約4人に1人が何らかのサプリメントを日常的に摂取しており、その中にはマルチビタミンも含まれています。今回の研究結果は、日本人にとってもマルチビタミンの効果について再考する機会となるかもしれません。

研究について

エリッカ・ロフトフィールド博士が率いるこの研究は、マルチビタミンの使用が寿命に与える影響に焦点を当て、これらの人気サプリメントの効果に疑問を投げかけています。3つの大規模なコホート研究からデータを収集し、アメリカ全土で39万124人の成人を最大27年間追跡調査しました。これは、この種の研究としては最も包括的な分析の一つです。

参加者は全員、がんや慢性疾患の既往歴がなく、アメリカ国立衛生研究所（NIH）とアメリカ退職者協会（AARP）が共同で行った大規模な健康研究、前立腺・肺・結腸直腸・卵巣がんスクリーニング試験、および農業健康研究に参加しました。彼らは研究開始時とフォローアップの期間中にマルチビタミンの使用を報告しました。

結果として、マルチビタミンを使っている人の寿命が延びるという証拠は見つかりませんでした。むしろ、マルチビタミンを毎日摂取している人は、摂取していない人に比べて死亡リスクが4％増加するという結果が出ました。このリスクは小さいものの、マルチビタミンが期待されたような健康効果を提供していないことを示唆しています。

研究者たちは、食事、運動、喫煙などの他の健康習慣も考慮に入れました。マルチビタミンを使っている人たちは一般的に健康志向が強く、健康的な食事を取り、運動もしています。しかし、この「健康志向効果」は長寿にはつながりませんでした。

長期間の追跡調査により、マルチビタミンの長期的な影響について詳しく分析できました。結果、研究期間中に16万4762人の参加者が死亡し、異なるグループとフォローアップ期間にわたる一貫した結果により、マルチビタミンの使用が死亡率に大きな影響を与えないことが確認されました。

研究結果の背後にある潜在的な理由

毎日のマルチビタミン摂取が死亡リスクの増加に関連しているという研究結果は、専門家の間で議論を引き起こしています。この結果を説明するには、栄養科学の複雑さと研究の制限の両方を反映したいくつかの理由が考えられます。

マルチビタミン摂取と栄養バランスの乱れ

マルチビタミンを摂取する人々は、栄養のバランスをうまく取れていないかもしれません。Deeper Healing Medical Wellnessの創設者であるマイケル・バウアシュミット博士は、この問題について洞察に富んだ見解を示しています。

「どのサプリメントが必要か？それは、あなたが一番不足しているものです」とバウアシュミット博士はエポックタイムズに語りました。

彼は、個々の栄養ニーズは大きく異なり、時間とともに変わることもあると強調しています。しかし、この研究ではその点が考慮されていませんでした。つまり、ある人には必要な栄養素が、別の人には必要ではないことがあるのです。

「この研究に参加した人々の基礎的な栄養状態や、そもそもマルチビタミンが必要だったかどうかはわかりません」この点がわからないと、マルチビタミンの本当の影響を判断するのは難しいのです。

また、多くのマルチビタミンに必要なミネラルが不足していることも懸念されています。神経科学者のロバート・ラブ氏は動画で、「マルチビタミンには、私たちが不足しがちなマグネシウムや亜鉛が十分に含まれていません」と述べました。

★日本人の食事摂取基準（2020年版）では、1日のマグネシウムの推奨量を、男性の場合、30～64歳では370mg、65～74歳では350mg、女性の場合、30～64歳では290mg、65～74歳では280mg、であるのに対し、「令和元年国民健康・栄養調査報告」によれば、ほとんどが推奨量に達していません。また、マルチビタミンには脳の健康と免疫に重要な亜鉛も十分に含まれていないことを指摘しています。

一方で、マルチビタミンには銅や鉄のようなミネラルが過剰に含まれていることがあります。ラブ氏は、過剰な銅は酸化ストレスや脳の損傷を引き起こす可能性があると説明しました。特に亜鉛とバランスが取れていない場合に問題になります。

同様に、高い鉄分は酸化ダメージを引き起こし、老化を早めることがあります。このバランスの悪さが、マルチビタミンの潜在的なメリットを相殺し、長期的には有害となるかもしれません。著名な科学者であるハーバード大学医学部の終身教授であるデビッド・シンクレア氏も、過剰な鉄分摂取の懸念からマルチビタミンを避けています。

マルチビタミンの品質と種類

バウアシュミット博士は、参加者が摂取していたマルチビタミンの品質や種類にも懸念を示しています。「彼らがどのマルチビタミンを摂取していたかについては言及されていません。正直なところ、ほとんどのものは粗悪品だ」と彼は述べました。「私がマルチビタミンに対して大きな問題を感じるのは、いろいろな栄養素が少しずつ入っていて、どれも十分ではないことです」

また、彼は多くのマルチビタミンにマグネシウムステアレートなどの添加物が含まれており、これがビタミンやミネラルに付着して体内での吸収を妨げ、その効果を減少させると指摘しています。

偽りの安心感

専門家たちはまた、マルチビタミンが提供する偽りの安心感にも警鐘を鳴らしています。スプリングフィールド地域医療センターの心臓外科部長であるスレンダー・R・ネラベトラ博士は、自身のウェブサイトで「役に立たないものを保険として飲むことに意味があるのでしょうか？　お金を無駄にして偽りの安心感を得ているだけだ」と述べています。

ラブ氏は、健康的な食事に代わるものとしてマルチビタミンに依存することは誤りであると警告しています。「マルチビタミンやサプリメントは、基本的に健康な食事の代わりにはなりません。サプリメントを摂取するよりも、健康的な食事を心がけることの方がはるかに重要だ」と彼は言います。

マルチビタミンを摂取すべきか？

専門家たちは、この研究結果を解釈する際には注意が必要だと警告しています。バウアシュミット博士は、この研究が回顧的な性質を持ち、未確認のアンケートに依存していることが不確実性を生み出し、マルチビタミンの使用と死亡リスクの増加との間に明確な因果関係を確立できていないと主張しています。彼はこれを「関連性は因果関係を証明しない」の典型例だと見ています。

同様に、薬科学の博士号を持つモーガン・マクスウィーニー博士は、エポックタイムズに対し、この研究は観察研究であり、パターンを特定するものであって因果関係を証明するものではないと述べました。

「研究者たちは、健康状態が悪い人々が、健康を改善するために特定のサプリメントや薬を使用する傾向があるため、そのサプリメントや薬の使用と健康状態の悪化が関連しているように見える現象をできる限り制御しようとしましたが、データセットに反映されていない他の要因、例えば人々がどれだけ頻繁に医者にかかるかや他の健康習慣の違いなどが結果に影響を与える可能性があります」

研究はマルチビタミンが寿命に利益をもたらさないと述べていますが、それが害を与えると確定するのは難しいと彼は付け加えました。

この研究は主に死亡率に焦点を当てており、ビタミンが他の健康効果やリスクを持つ可能性はこの研究では測定されていません。「研究は死亡率に関して利益がないことを示しましたが、他の種類の利益があるという理論的な可能性を排除するものではない」とマクスウィーニー氏は述べました。

マクスウィーニー氏の個人的な見解は明確です。医療提供者がサプリメントを勧めるなら、そのアドバイスに従うべきです。「しかし、ソーシャルメディアで見た情報に基づいて新しいサプリメントを選ぶ場合、これらの製品に多くのお金を費やすことを正当化する強力な証拠は見当たらない」と彼は指摘しています。

マクスウィーニー氏は、食物繊維や植物栄養素が豊富な健康食品を摂取したほうが良いと考えています。「これらの食品はインフレーションの影響で価格が高騰していますが、健康に非常に良い効果がある」と彼は結論付けています。

（翻訳編集　華山律）