時間に追われない生き方 スローライフが教える人生の本質(上)

1時間じっと座って、誰かが薪を割ったり釣りをしたりする映像を見続けることができますか?

ノルウェーでは、人々はそれをします。それは「スローTV」と呼ばれています。ノルウェーに住んでいた友人がスローTVのことと、伝統的なノルウェーのフォークダンスを習おうとしたときの経験を話してくれました。そこで出会った古参の人たちは、「少し落ち着いて取り組まないと、絶対にうまく踊れない」とアドバイスしてくれたそうです。彼女はダンスをきっちりと急いで覚えようとしましたが、それがかえって踊りを難しくしてしまったのです。ダンスは、人生と同じように、急いで進めることはできません。人生のダンスが時間のリズムに合わせて体を揺らすように求めるのと同じように、リラックスして音楽のビートに乗ることを学ばなければならないのです。

これは「スローリビング」というムーブメント(動き)の理念です。スローリビングとは、量よりも質を優先する生き方と定義できます。より多くのものが必ずしも良いわけではなく、充実した人生を送るためには、今この瞬間を生きる能力、人生の小さなことに感謝する心、そして人間関係、余暇活動、自然とのつながりといった持続的な価値を持つものに時間を割くことが必要です。

2018年にベス・クレイン氏が設立したウェブサイト「Slow Living LDN」では、このライフスタイルを次のように定義しています。

「スローリビングとは、人生で最も大切にしていることに沿って、より有意義で意識的なライフスタイルを構築する考え方です」

私たちはしばしば、お金、生産性効率、達成など、現代社会が最も重視しているものこそが最も重要だと思い込み、競争の激しい社会の流れに身を任せて日々を過ごしています。スローリビングは、私たちに、一度立ち止まり、この競争社会がどこに向かっているのか、そして私たちがその一部になりたいのかどうかを見直すよう促しています。

Slow Living LDNでは、「よりスローな考え方を採用するということは、自動操縦を解除し、反省と自己認識のための時間を作ることです」と書かれています。

そうすることで、次のような疑問が浮かび上がってきます。私はどこへ向かっているのか、そしてその理由は何なのか。家族や人間関係をお金よりも大切にしているはずなのに、なぜ愛する人と過ごす時間よりもキャリアアップに多くの時間を費やしているのか。それらを味わい、楽しむ時間がないのなら、私が所有しているものは一体何のためにあるのでしょうか。

 

スローリビングの起源は?

ヨーロッパ人は、私たちよりもスローリビングの原則を理解しているようです。予想通り、このムーブメントはイタリアで始まりました。

1980年代、カルロ・ペトリーニ氏率いるイタリア人のグループが、ローマのスペイン広場にマクドナルドが開店するのを阻止しようとキャンペーンを展開しました。彼らは、ファストフードが食の健康と品質を低下させ、地域の料理文化の豊かさと多様性を損ない、食事の文化的側面や共同体的側面を無意味にする傾向があるファストフードに代わるものとして、「スローフード」を提案しました。

 

スローフードに携わる活動家たちは、何か新しいものを創り出していたのではなく、古くから大切にされてきたものを守っていたのです。それは、金色に輝くキャンドルの光の下で、良質なワインを楽しみながら、ゆったりとしたペースで複数のコースを味わい、本物の会話や笑い、人間同士のつながりを育むという伝統です。彼らは、食事という神聖な行為が、人間の身体と社会を豊かにするために欠かせないものであり、それを消費主義や産業化、そして効率性の追求から守ることを理解していました。速く食べることは、食事の本来の目的を損なうことにほかならないのです。

スローフード運動の理念は、他の生活領域にも広がっていきました。カール・オノーレ氏は、スローライフの考え方を一般に広めることに貢献しました。2005年に出版した著書『スローネスの賛歌』を通じて、スローライフの考え方を広めるのに貢献しました。この本は、「少なく行うが、より良く行う」という重要性への認識を広げるものです。スローライフ運動は、スロートラベル、スローガーデニング、スローインテリア、スローデザイン、スローファッション、スローペアレンティング、スローニュース、スローワークなど、さまざまな形で運動が広がっていきました。

なぜゆっくりとした生活を送るのか?

2005年のTEDトークで、カール・オノーレ氏は、食事、医療、仕事、学校などさまざまな分野での意識的で計画的な行動の価値について詳述しています。彼は、働く時間を減らすことで生産性が実際に向上すこと合や、生徒が宿題の負担が少ない方が試験で良い成績を取れる場合があるなどを説明しています。

以下、スローライフを実践する人々が証言する他の利点をリストアップしました。

  • ストレスの軽減と健康の改善
  • 自然との深い結びつきを体験すること
  • 創造性の向上
  • 気を散らす要素を排除してより多くの時間を活用すること
  • より強い人間関係を築くこと

スローライフの利点についての全体像は、オノーレ氏の著書『スローネス礼賛』の中で次のようにまとめられています。

「スローライフの大きなメリットは、人々、文化、仕事、自然、そして自分自身の身体や心と有意義なあるつながりを築くための時間と静けさを取り戻すことです」

つづく

(翻訳編集 清川茜)

英語文学と言語学の修士号を取得。ウィスコンシン州の私立アカデミーで文学を教えており、「The Hemingway Review」「Intellectual Takeout」および自身のサブスタックである「TheHazelnut」に執筆記事を掲載。小説『Hologram』『Song of Spheres』を出版。