効率的かつ環境に優しいリチウム回収法—米大学が新技術開発

近年、リチウムの需要が急速に増加していますが、その採掘、精錬、リサイクルは環境に対して大きな負荷をかけています。環境に優しいリサイクル方法は存在しますが、効果が低いという課題があります。最近、アメリカの大学が、環境負荷を抑えつつ高効率なリチウム回収方法を開発しました。これにより、化学リサイクルによる汚染を減らすことが可能になります。

リチウム電池の中で最も重要なのがリチウム金属です。リチウム電池は、電子機器やEV、さらには電力網のエネルギー貯蔵システムに使用されています。2023年の統計によれば、世界のリチウム電池市場の価値は500億〜600億ドルに達し、10年後には1千億ドル(約14兆5365億円)を超えると予測されています。

しかし、リチウム電池市場の拡大に伴い、リチウム(Li)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)といった金属の供給不足が懸念されています。そのため、一部の人々は、廃棄されたリチウム電池から金属を回収して再利用することを期待しています。

従来のリチウム電池のリサイクル方法は経済的には実行可能ですが、使用される浸出剤は濃酸や強力な還元剤、腐食剤であり、これらは環境汚染の原因となります。環境への影響を抑えるために深共晶溶媒(DES)を使用する湿式冶金法もありますが、リチウムの回収率が5%未満であり、経済的に見合いません。そのため、多くのリサイクル業者はコバルトやニッケルなどの金属の回収に注力しています。

2023年6月末に学術誌 「Advanced Functional Materials」に発表された研究によれば、アメリカのライス大学の研究チームは、新しいリチウム金属のリサイクル方法を開発しました。これは、特製のDES溶媒に廃棄されたリチウム電池を浸し、マイクロ波を照射して加熱することで、溶媒がリチウム金属を迅速かつ選択的に回収する方法です。

研究チームは、DES溶媒として塩化コリン(ChCl)とエチレングリコール(EG)を3対2の比率で混合したものを使用しました。この溶媒を使用し、マイクロ波で加熱することで、わずか30秒でリチウム金属を50%回収でき、30分以内で回収率がほぼ100%に達しました。

塩化コリン (ChCl) とエチレングリコール(EG) を選んだ理由は、エチレングリコールがコバルトやニッケル酸化物と水素結合を形成し、塩化コリンの塩素イオンと結合して可溶性の塩金属酸塩化合物を形成するからです。

また、塩化コリンはマイクロ波を効率的に吸収する特性があるため、電池廃棄物を溶媒に浸すと、反応時間を短縮し、30秒以内にリチウムを迅速に回収できます。このプロセスでは追加の還元剤も不要です。

さらに、マイクロ波の熱効果により、粒子の集まりが減少し、亀裂や大きな孔が形成され、電池廃材とDES溶媒との接触面積が増え、金属の回収が加速されます。

研究結果によると、マイクロ波を利用したプロセスは、従来のオイルバス加熱法と比較して、15分で87%の回収率を達成し、オイルバス加熱では同様の回収率を得るのに16〜18時間かかります。

また、マイクロ波法を使用すると、リチウム、コバルト、ニッケルの浸出率がそれぞれ96.6%、37.2%、31.5%に達しました。160°C〜180°Cの温度でもリチウム回収の選択性が保持されますが、220°Cでより良好な結果が得られました。

この迅速なマイクロ波方法は、時間とエネルギー消費を減らすだけでなく、DESの長時間加熱による劣化を防ぎ、サイクル寿命を延ばします。これにより、リチウム電池リサイクルの経済性と環境影響が改善され、持続可能な解決策が提供されます。

この方法は、他の金属の迅速なリサイクルを試みるために、異なる成分を持つDESシステムにも適用できます。

論文の主執筆者であるライス大学の博士課程の学生、サルマ・アルハシム氏は、「現在、リチウム電池の回収率が低い理由は、電池廃棄物中の他の金属が先に沈殿し、リチウム金属が最後に沈殿するからです。私たちは、塩化コリンとエチレングリコールを混合したDES溶媒を使用し、リチウム金属が塩化コリンの塩素イオンに囲まれた後、迅速に抽出できるようにしました」と述べています。

 

翻訳編集 清川茜

呉瑞昌