スマホが賢くなると、人間が愚かになるのか?(下)

(続き)
 

人間知性を取り戻す

専門家は、テクノロジーを排除する「スクリーン断食」が、集中力と意図的な生活を育むのに役立つと提案しています。

ある研究では、自然キャンプで5日間モバイルデバイスなしで過ごした6年生の生徒が、それを使用していた同年代の生徒と比べ、顔の表情から感情を読み取る非言語的な感情認知能力が大幅な改善を示しました。

さらに、合理的な制限を設けるだけでも、悪影響を軽減することができます。

たとえば、ソーシャルメディアの使用を1日30分に制限した若年成人は、2週間後にはスマホ依存が低下し、睡眠、生活満足度、ストレス、対人関係が改善しました。ハーシュ=パセック氏によると、重要なのはバランスを取ることです。

また、最近の研究では、不要な通知を無効にする、電話をサイレントモードにする、Touch IDやFace IDを無効にする、ソーシャルメディアアプリを非表示にする、画面をグレースケールに設定するなどの簡単な設定が、スクリーンタイムを減少させるのに役立つことが判明しています。

もしデジタルデトックスが難しい場合でも、他の方法で対策を講じることができます。

 

睡眠

良質な睡眠は、学習記憶の定着に不可欠です。たった一晩の睡眠不足でも、記憶に情報を留める能力が著しく低下することがあります。

睡眠中、は重要なクリーニング・プロセスを行います。神経毒性の老廃物が一日中蓄積し、それが洗い流されることで、脳細胞の健康な機能が維持されます。

 

スピリチュアリティ

現代のデジタル技術は、終わりのない刺激と同義であり、心の平穏など人生の重要な側面から私たちを遠ざけています。

ルッソ氏は「私たちが忙しく過ごしているとき、精神性を持つ余裕はほとんどない」と指摘しています。彼女は、この文化は、絶え間ない電子メール、通知、ニュース速報など、気を散らすもので満ち溢れていると指摘しました。これにより、私たちの身体はドーパミンに溺れることになります。

この継続的な刺激により、私たちはストレス反応が高まり、「闘争・逃走」反応に陥り、体内にコルチゾールとアドレナリンが溢れ出します。時間が経つにつれて、私たちの心身は疲れ果て、より深い思考や人間関係の構築能力が損なわれます。

ルッソ氏は、スピリチュアリティとは「spirit(霊)」の意味を再発見することであり、これはラテン語の「spiritus(息)」に由来すると説明しています。スピリチュアリティは、ゆっくりと深呼吸し、今この瞬間に完全に集中することを意味します。

スピリチュアルな実践は、共感や感情知能を含む、意味のある人間関係を促進します。また、創造性注意力意味の理解目的意識など、認知能力を向上させる可能性もあります。これらの実践は、テクノロジー中心の世界で一般的な情報検索とは異なり、またそれを補完する形で、私たちの心を活性化させます。
 

私たちに迫る選択

ヒルシュ=パセック氏は、「私たちは今、技術革新の重要な局面に立たされている」と述べ、AIやメタバースなどの技術が日々進化していることを指摘しました。その上で、技術が人間性を損なうことなく、むしろそれを高める方向へ活用することが、我々にとっての課題であり、同時に大きなチャンスであると強調しました。

同氏は技術は多大な恩恵をもたらす可能性があり、将来には「素晴らしいことがたくさんあるでしょう」と述べています。

しかし、「人間は本来、社会的な生き物です。その社会性が失われると、私たちの可能性もまた削がれてしまうのです」とも付け加えました。

一方で、リュー氏は、AIを含むデジタル技術に対する過度な信頼に警鐘を鳴らしています。

「私たちが理解しているのは、宇宙の無限の知性のほんの一部に過ぎません。デジタル技術に依存しすぎると、より深い知識や直感的な理解を追求する力が制限されるリスクがあります」と指摘しています。

リュー氏はさらに、人間には独自の精神、道徳、そして心が備わっていると述べ、技術への依存がこれらの重要な側面を衰退させる危険性があると警告しました。

また、「人間の道徳が失われれば、AIにも悪い影響を与え、技術を悪用することにつながりかねない」と指摘し、「何よりも重要なのは、人間が自身の人間性を高める努力をすることです」と述べました。

「何よりも、人間にとって最も重要なことは、自らの修養、つまり人間性の向上に集中することです」

「愛、思いやり、相互理解、そして許し」を育むこともその一部だとしています。

リュー氏は、これらの価値観こそが人類の真の強さであり、テクノロジーが私たちの運命を支配するのではなく、運命に奉仕する未来を切り開く鍵であると信じていると語りました。その選択権は、いつものように、私たちにあります。

(完)

(翻訳編集 清川茜)