IBS治療には食事療法が薬に勝る? その可能性とは

過敏性症候群(IBS・特に消化器の疾患がないにも関わらず、腹痛と便秘、または下痢を慢性的に繰り返す病気)と呼ばれる病気ならば、特効薬は台所にあるかもしれません。

 

食事療法とIBS治療薬の比較

IBS患者に対する典型的な食事療法のアドバイスには、3食の代わりに少量の食事を頻繁に摂り、コーヒーや牛乳などの一般的な誘因を制限することが含まれます。薬物療法は通常、便秘、腹部膨満感、下痢などの症状を緩和することを目的としています。

The Lancet-Gastroenterology & Hepatology誌に発表されたこの研究では、中等度から重度のIBS患者294人(女性241人、男性53人)を対象に、4週間にわたって3つの治療法(2つの食事療法と薬物療法)を比較検討しました。食事療法の中には、発酵性炭水化物(FODMAPs・小腸で吸収されにくく、大腸で発酵しやすい短鎖炭水化物の一群)-キャンディーなどの糖類やジャガイモなどのでんぷん質-を減らすという伝統的なIBSの食事療法と、低炭水化物食(スパゲッティ、日本そば、ライ麦パン、玄米、オールブラン、春雨、さつまいも)です。

2024年4月に発表されたこの研究によると、IBSの症状を管理する上で、単純な食事の変化は薬物療法を凌駕することがあり、その緩和効果は持続する可能性があるとしています。根拠として、研究開始より6か月後に、新しい食習慣を守った患者のほとんどは、依然として大きな効果を享受していたことが挙げられます。

IBSの症状を管理する上で、食事の変化は薬物療法よりも効果があるとされた(Shutterstock)

 

一方で、薬物療法群では、便秘にはステルクリア(カラヤガム)のような下剤性の食物繊維サプリメント、あるいはロペラミド(イモジウム)のような下痢止め薬を使った主症状に応じた治療が行われました。

これらすべての群でQOLの改善、身体症状の軽減、不安や抑うつの軽減が報告されました。しかし、食事介入はより顕著な改善を示しました。具体的には、低炭水化物食群では71%が症状の軽減を経験したのに対し、薬物療法群では58%でした。6か月後の追跡調査でも、従来の助言に従った群では68%、低炭水化物食群では60%と、依然として、食事療法群では多くの参加者が有意な症状の軽減を維持していました。

「この研究によって、食事療法がIBSの治療において中心的な役割を果たすが、有効な代替療法がいくつかあることを示すことができる。今後、IBSの治療をどのように個別化するのがベストなのか、より多くの知識が必要だ」と、スウェーデンのヨーテボリ大学の管理栄養士兼准教授で主任研究者のSanna Nybacka氏は声明で述べました。

 

食事療法だけでは不十分な場合

ニューヨークを拠点とするノースウェル・ヘルス社の東部地区消化器内視鏡部長であり、この研究には関与していないデービッド・プロー博士(Dr. David Purow)は、彼のチームでは長い間IBS患者に低FODMAP食を勧めてきたと述べました。

人間の腸はFODMAP食品(パン、ラーメン、うどん、パスタ、ピザ、牛乳、ケーキ)をうまく消化できないと、ワイル・コーネル医学部の消化器内科医で、クリスティン・フリソラ博士(Dr. Christine Frissora)はエポックタイムズに別の機会で語っています。

「未消化の食品は腸内細菌に食べられ、ガスを発生させます。これが腸の運動障害、食物を動かす腸の筋肉の障害、胃腸の苦痛につながります。慢性的なIBS症状を持つ数百人の患者を検査したところ、20%にスクロース(食卓糖)の吸収不良がありました」と彼女は、IBS患者の約70%が炭水化物を適切に消化できないことを示す自身の2022年の研究を引用し、この研究結果は一般的であると指摘しました。

ここで重要なことは、食生活の改善はIBS治療において重要な役割を果たしますが、すべての人に効果があるわけではないということです。低FODMAP食で改善する人も多いですが、今回の研究で明らかになったように、全員ではないとプロー氏は言います。

低FODMAP食や低炭水化物食に反応しないIBS患者には、薬物を使わない他の選択肢として以下のような手法も考えられます。

プロバイオティクス: 有益な腸内細菌はマイクロバイオームを調整し、IBSの症状を緩和します。ヨーグルト、ケフィア、キムチ、ザウアークラウト、発酵野菜などに含まれるこの物質は、サプリメントとしても入手可能です。

サイリウム: この水溶性食物繊維は便通を整え、IBSの症状を軽減します。サプリメントとして摂取することも、食品に加えることもできます。

ペパーミントオイル抗痙攣薬で、腸の筋肉を弛緩させ、IBSの症状を軽減する可能性があります。

ペパーミントオイル(Shutterstock)

 

認知行動療法: この対話療法は、IBSの症状の原因となる否定的な思考パターンや行動を特定し、それを変えるのに役立ちます。

鍼治療: 鍼治療は、消化器系の調整を助ける特定のツボを刺激することで、IBSの症状を緩和する可能性があることが研究で示唆されています。

それぞれの症状の経過を観察し、生活の質を向上させるための最善の治療計画を決定するためには、医療従事者に相談することが重要です。

(翻訳編集 呉安誠)

 

がん、感染症、神経変性疾患などのトピックを取り上げ、健康と医学の分野をレポート。また、男性の骨粗鬆症のリスクに関する記事で、2020年に米国整形外科医学会が主催するMedia Orthopedic Reporting Excellenceアワードで受賞。