消化器疾患の背後に潜むニッケルアレルギー

ローラ・デュゼットさんは、手にできた小さな湿疹が急速に悪化し、全身に痛みと痒みを伴う激しい発疹となったとき、自分で解決策を探し始めました。

皮膚科医の診察を受けるまで3か月も待たなければならず、彼女はオンラインのサポートグループでアドバイスを受けました。1つは化学洗剤や石鹸を排除すること、もう1つは低ニッケル食を試すことでした。

デュゼットさんはまず化学製品の排除を試しましたが、効果はありませんでした。「どんどん悪化して、本当にひどい状態でした」と彼女は思い出します。

次に、半信半疑で低ニッケル食を始めたところ、数日後には体全体の症状が落ち着き始めました。原因は彼女のにあったのです。

研究によると、アメリカ人の約20%がニッケルアレルギーの影響を受ける可能性があり、過敏性腸症候群(IBS)や炎症性腸疾患(IBD)とも関連しています。

デュゼットさんは最終的にニッケルパッチテストでアレルギーを確認しました。このテストでは、少量のアレルゲンを皮膚に貼り、48時間パッチで覆います。

 

影響要因

デュゼットさんは、湿疹が現れる少し前に、自転車で車に衝突され、外傷性脳損傷からの回復中でした。彼女は幼少期からニッケルに対する皮膚の敏感さがあり、10代の頃からIBS(過敏性腸症候群)を患っていたため、これらの要因が免疫反応を引き起こす完璧な条件を作り出した可能性があります。

「体がニッケルに反応すればするほど、ニッケルを探すために作られたT細胞がどんどん増えます」と、認定栄養療法士であり、オステオパシー医学の学生でもあるデュゼットさんはエポック・タイムズに語りました。

「体は『この新しいものを排除しなければならない』と判断し、T細胞が体を守ろうと戦うために活発に働き始めます」

T細胞は、感染や病原体を撃退する免疫システムの一部で、侵入を検知すると「軍隊」のように増殖します。

T細胞(Shutterstock)

 

反応の重症度は、ニッケルへの暴露量、接触の期間、吸収率など、複雑な要因が関係すると、アカデミー・オブ・ニュートリション・アンド・ダイエティクスは述べています。

また、鉄欠乏も一因となる可能性があります。鉄とニッケルは、腸の粘膜(腸の最内層)を通過する際に同じ輸送メカニズムを共有しています。「鉄が輸送されるとき、ニッケルはされません」と、この団体はウェブサイトに記載しています。「食事中のニッケルの吸収率は低いですが、鉄欠乏のある人はニッケルの吸収量が増えるリスクがあります」

さらに、腸内細菌のバランスが崩れる腸内フローラの乱れも要因となる可能性があります。この状態は、腸のバリアを越えてニッケルが体内に入り込み、全身的な反応を引き起こす可能性があります。ストレスは腸内フローラの乱れの原因として知られ、デュゼットさんの場合にも影響を与えていました。

 

腸とニッケルの関連性

さまざまな研究で行われたパッチテストでは、ニッケルアレルギーが消化器系の問題と共に発生する割合が高く、消化器系の問題を抱える患者において、一般の人々よりもニッケルアレルギーの発症率が高いことが示されています。

消化器系の問題を抱える患者において、一般の人々よりもニッケルアレルギーの発症率が高いことがわかった(Shutterstock)

 

2024年に『Nutrients』誌に掲載されたレビューでは、クローン病や潰瘍性大腸炎といったIBD(炎症性腸疾患)に関する研究が紹介されており、IBD患者では健康な対照群に比べてニッケル過敏症の割合が高いことが示されています。クローン病に影響を受けた組織の粘膜下層でニッケル粒子が観察され、IBDにかかりやすいマウスでは、ニッケルが大腸炎を誘発したことが確認されています。

これらの発見は、少なくとも一部のIBD患者において、ニッケルがIBDを悪化させる可能性があることを示唆していると、著者らは述べています。

また、2023年に『ProQuest』誌で発表された研究では、50人のIBS(過敏性腸症候群)患者のうち40%がニッケル過敏症を示したのに対し、40人の健康な対照群では17.5%に留まっていました。著者らは、ニッケル過敏症が「IBSの病因において重要である」と結論付けています。

さらに、いくつかの他の研究でもニッケルと消化器疾患との関連が示されており、ある研究では、低ニッケル食を実践した患者の症状が改善されたと報告されています。

 

注意すべきサイン

自然の力を最大限に活用して、人間の本来持つ自然治癒力を高め、健康を取り戻すことを目指す代替医療のひとつナチュロパシー、その医者であり、機能医学研究所の教員でもあるカーラ・フィッツジェラルド博士によると、特に標準的な機能医学治療に反応しない持続的な湿疹を抱える患者において、ニッケルアレルギーを考慮すべきだと指摘しています。

彼女は『エポック・タイムズ』に対し、全身反応を見ることはあまりないが、ニッケル製の宝飾品によって接触皮膚炎を引き起こす人が非常に多い事実は、慢性的な腸の問題や全身的な問題を抱える患者にとって、警告サインであるべきだと述べました。

「ニッケルは非常に広く存在しています。多くの人が対応できないのです」とフィッツジェラルド博士はニッケルについて語り、「もし宝飾品に反応するなら、私の懸念リストでニッケルの順位が上がります」と述べています。

彼女は、消化管に限定されたニッケル反応が見逃されている可能性もあると指摘しました。例えば、ニッケルを多く含むチョコレートバーを食べた後に、消化器系の痛みを感じるケースが挙げられます。

 

低ニッケル食

消化器系の疾患を抱える一部の人にとって、ニッケルを含む食品の摂取を減らすことは有効な戦略となるかもしれません。しかし、アカデミー・オブ・ニュートリション・アンド・ダイエティクスは、この食事法は子供には適しておらず、成人に関する研究も限られているため、注意が必要だと指摘しています。

デュゼットさんは、1日のニッケル摂取量を150ミリグラム以下に抑えることを推奨しています。そのための方法として、「Nickel Navigator」という計算アプリを使用するか、ニッケルを含む食品をすべて除外する除去食を実践する2つのアプローチがあります。

安全な食品には、肉やチーズなどの動物性食品が含まれます。しかし、多くの野菜や果物、穀物、飲み物、ハーブ、スパイスもニッケル含有量が低いため、厳格な除去食を行う必要はなく、ニッケルが原因かどうかを判断するためには、摂取量を十分に減らすだけで十分です。

水もニッケルを含むことがあります。フィルターを使用していない場合、特に一晩中パイプに水が残っていた場合は、使用前に30秒間水を流すことでニッケルの蓄積を減らすことができます。

水もニッケルを含むことがある(Shutterstock)

 

「最初の2週間は、ニッケルをほとんど含まない食品を摂取していることがわかっていれば、ニッケルの量を計算するストレスを感じる必要はありません」とデュゼットさんは述べています。「初めのうちは、症状に悩んでいる人たちはすでに負担が大きいので、できるだけシンプルにすることが重要です」

 

食品中のニッケル含有量に関する課題

食品中のニッケル含有量を正確に把握することは難しいです。

パッケージ食品の場合、ラベルにニッケル含有量が記載されていないため問題が生じます。その理由の1つは、植物にどれだけのニッケルが含まれているかを測定するのが困難であるからです。例えば、火山土壌で育ったジャガイモはニッケル含有量が高くなることがありますが、他の土壌で育てられたジャガイモでは、ニッケルの量が中程度かもしれません。

アカデミー・オブ・ニュートリション・アンド・ダイエティクスによると、「いくつかの研究で、穀物、ナッツ、豆類、チョコレートが最も高いニッケル源の1つであるとされています。しかし、食品中のニッケルの含有量は、植物を栽培する際に使用された土壌や、シーフードの場合は水源によって異なります」

 

追加の考慮事項

世界のニッケル使用用途の生産の3分の2を占めるステンレス鋼は、ニッケル暴露の原因となる可能性があります。

例えば、小麦粉は製粉所で使用される金属製のグラインダーの種類によって、ニッケル含有量が高くなることがあります。また、ステンレス製の調理器具や食器を使用することで、ニッケル暴露が増加する可能性があると、アカデミー・オブ・ニュートリション・アンド・ダイエティクスは指摘しています。

ステンレス製の調理器具(Shutterstock)

 

さらに、ニッケルは歯科や医療のインプラント、タトゥーインクにも含まれています。

また、パッチテストは時折、検査で「陰性」という結果が出たにも関わらず、実際にはその状態(病気など)であることを指す偽陰性の結果を示すことがあるとフィッツジェラルド博士は述べています。

彼女は、ニッケル過敏症が一部の人にとって問題である可能性がある一方で、消化器系の問題全般の中では「非常に小さな要因」であると注意を促しており、急激な食事の変化は栄養不足、摂食障害、食事への不安につながる可能性があると警告しています。

しかし、認識を高めることで、影響を受けている人々が原因に気づきやすくなります。『The Low Nickel Diet Cookbook and Guide』という本を執筆したデュゼットさんは、ニッケルアレルギーについて、教育するためのYouTubeチャンネルを運営しています。

「IBS(過敏性腸症候群)はこの国で大きな問題です。ニッケルを減らした食事を実践することで、40%の人々が症状を改善または完全に取り除くことができる可能性があるというのは驚くべきことです」と彼女は述べています。

「この情報を広めることが非常に重要です」

 

(翻訳編集 華山律)

イリノイ大学スプリングフィールド校で広報報道の修士号を取得。調査報道と健康報道でいくつかの賞を受賞。現在は大紀元の記者として主にマイクロバイオーム、新しい治療法、統合的な健康についてレポート。