閉経期のホルモン補充療法(HRT)には慎重なアプローチが必要

閉経を迎えた女性がホルモン補充療法(HRT)を受けるべきかどうかについての意見は、この20年ほどで大きく変わってきました。

かつては、医師たちはほてりや寝汗、睡眠時無呼吸、膣の乾燥、記憶力の低下などの症状に悩む多くの女性に、ほぼ自動的にHRTを勧めていました。しかし、2002年に発表された女性健康イニシアティブ(WHI)の研究で、一部の女性に乳がんリスクの増加が見られたため、HRTの推奨が急速に控えられるようになりました。

この研究結果がメディアで大きく取り上げられたことで、HRTに対する不安が広まり、女性たちや医師はHRTは危険で、利点よりも害が大きいと考えるようになりました。しかし、最近では、医師たちがより詳細な情報をもとに、HRTが適している女性と適していない女性を区別できるようになってきています。

「こうした情報を女性にきちんと伝えることが重要です。多くの女性は、非常に辛い症状に対してどうすればいいのか、答えを探しています」と、栄養士で体重管理コーチでもあるカレン・マーテルさんは「エポックタイムズ」の取材で語っています。「彼女たちはあらゆるサプリメントを試し、運動もして、食事も完璧にしているのに、それでもまだ苦しんでいるのです」

現在は認定ホルモン専門家でもあるマーテルさん自身も、かつて「完璧な食生活」をしていたにもかかわらず、閉経期に入ると急激に7キログラムほど体重が増えたと話します。

「私はほてりや寝汗、性欲の低下、膣の乾燥など、あらゆる症状を経験しました。そして、ホルモンを補充するまでその状態から抜け出すことができませんでした」と彼女は振り返ります。「一部の女性にとって、ホルモン補充は非常に重要な解決策になることがあります」

 

ホルモン補充療法(HRT)の注意点

WHI(女性健康イニシアティブ)の研究以降、ホルモン補充療法(HRT)に対するアプローチは、より慎重でバランスの取れたものになってきたと、産婦人科医であり、機能医学センターの創設者でディレクターを務めるジョエル・エバンス医師は述べています。HRTは誰にでも適用できる治療法ではないといいます。

「たとえば、HRTを全く受けない方がいい女性もいますし、HRTを行う場合は、適切なホルモンを、適切な方法で、そして適切なタイミングで使用することが非常に重要です」とエバンス医師は説明します。

「HRTをシンプルに説明しようとしてきましたが、非常に難しい問題です」と彼は「エポックタイムズ」のインタビューで語っています。「結論としては、その中間が真実です……とはいえ、HRTは全体的には良いものであるという傾向があります。一般的な推奨として、乳がんのリスクが平均的な女性にとっては、ホルモン療法は安全です」

更年期協会によると、HRTには主に2つの種類があります。

エストロゲン/プロゲストーゲン療法 この組み合わせ療法は、まだ子宮がある女性向けです。プロゲストーゲンは、子宮内膜の細胞増殖を抑え、がんのリスクを減らします。

更年期協会のガイドラインでは、この組み合わせ療法を4~5年以上続けると、乳がんのリスクがわずかに増加する可能性があるとされています。プロゲストーゲン(またはプロゲスチン)は合成ホルモンですが、エバンス医師や他の医師は、体内で自然に作られるプロゲステロンと同じバイオアイデンティカルプロゲステロン(植物由来のものが多い)を推奨することがあります。

エストロゲンのみの療法 子宮を摘出した女性には、エストロゲンのみの療法が用いられます。

どちらの場合も、更年期協会はほてりなどの症状を緩和するために、最小限のエストロゲン量を使用することを推奨しています。

 

ホルモン補充療法(HRT)に関する最新の見解

更年期を迎える女性にとって、ホルモン補充療法(HRT)は長らく「危険」と言われてきました。以前の世代の女性たちは、HRTの使用を中止されたり、安全ではないと助言されたりした経験があるかもしれません。

しかし、最近ではメディアやセレブリティ、SNSなどによって、HRTに対する関心が高まっており、そのメッセージは一部で矛盾していることを指摘しています。『ニューヨーク科学学会誌』の最新のレビューによれば、HRTに関する新しい情報は混乱を招くことがあり、注意が必要です。

かつて大きな影響を与えたWHI(女性健康イニシアティブ)研究についても、最近では批判的な見解が出ています。この研究では、HRTを始める年齢やホルモンの種類について十分に考慮されていなかった可能性があり、適切に使用すれば、HRTが更年期症状、特にホットフラッシュに対して効果的であることがわかってきました。特に、60歳未満で健康に問題がない女性にとっては、有益である可能性が高いです。

また、WHIの研究では乳がんのリスクが2倍になると報告されましたが、そのリスクは1千人中2例と非常に少ないものであり、過度に心配する必要はないでしょう。さらに、WHIの一部の結果では、HRTを使用した女性の中には、乳がんのリスクがむしろ低下したという報告もあります。

WHI研究が閉経前の女性に十分な配慮をしていなかったという批判もあります。この研究には79歳までの女性が含まれており、参加者の約83%が閉経から5年以上経過していたため、すべての女性に適用できる結果とは限りません。

現在、更年期学会では、HRTの使用について「60歳未満で健康に問題がない女性や、閉経から10年以内の女性にとっては、HRTのメリットがリスクを上回る」としています。適切なタイミングでのHRTは、更年期の症状を軽減し、生活の質を向上させる手助けとなるかもしれません。

 

ホルモン補充療法(HRT)の効果はホットフラッシュだけにとどまらない

ホルモン補充療法(HRT)は、ホットフラッシュ(ほてり)に効果があるだけでなく、心臓病認知症骨粗しょう症といった女性特有の健康リスクにも対抗する力を持っています。エバンス氏によると、「ホットフラッシュは心臓に悪影響を与えることがわかっています。特に、夜間の寝汗は睡眠を妨げ、女性の身体にとって大きな問題です」とのことです。

かつては「我慢して耐えるのが当たり前」という考え方が一般的でしたが、今ではそれが正しくないことが分かっています。「母親世代の更年期とは異なり、今の更年期にはその必要はありません」と彼は続けます。

更年期学会によれば、HRTに伴うリスクは稀であるとされていますが、閉経から長期間が経過した後や、60歳を過ぎてからHRTを開始すると、心臓病のリスクがわずかに増加する可能性があると指摘されています。

また、HRTが体重増加に関連するという誤解もありますが、更年期学会では、HRTは体重増加を引き起こさないとしています。さらに、HRTは女性が2型糖尿病を発症するリスクを低減する可能性もあります。

ホルモン補充療法(Shutterstock)

 

ホルモンは万能ではない

エストロゲンの多くのメリットが強調される一方で、専門家のマーテル氏は「ホルモンはすべての問題を解決する万能薬ではない」と警告しています。特に、人生の後半を健康に過ごすためには、食事において、たんぱく質を優先したり、ウエイトトレーニングや断続的断食を取り入れるなど、基盤となるライフスタイルの改善が欠かせません。

彼女はこう言います。「ホルモンを摂れば、問題がすべて解決するというわけではありません。例えば、ホルモンを摂取しながらも不健康な食生活を続けていれば、2型糖尿病のリスクは避けられません。しかし、ホルモンはこれらの生活習慣の改善だけでは達成できない効果をもたらします」

 

賢い選択をするために
ホルモン補充療法(HRT)の種類と選択肢

WHI(女性健康イニシアティブ)研究では、プレマリンというブランド名で知られる、妊娠中の馬の尿から抽出された結合型エストロゲンが使用されました。この薬には、複数種類のエストロゲンが含まれており、そのうちエストラジオールの量はごくわずかです。

このプレマリンの製造に使用される馬の待遇に疑問を持つ人もいれば、人間のエストロゲンとは一致しないと心配する声もあります。そうした中で、エバンス氏は、女性の生殖年齢に一般的なエストラジオールというバイオアイデンティカルな形のエストロゲンを推奨しています。エストロゲンは、錠剤、パッチ、ジェル、クリームなどさまざまな形で投与することができます。

 

調合ホルモン vs. 一般的なホルモン

HRTには、標準的なホルモンと調合ホルモンという2つの選択肢があります。標準的なホルモンは一定の投与量でのみ提供される一方で、調合ホルモンは医師の処方に応じて量を調整できるため、個別化されたアプローチが可能です。どちらも、すべての成分がアメリカ食品医薬品局(FDA)によって承認されていますが、調合ホルモンはカスタマイズできる点が大きな特徴です。

機能医学の専門家であるウェンディ・ワーナー医師によれば、標準的な投与量の問題点は「一部の人には多すぎたり、または足りなかったりすることがある」という点です。ただし、調合ホルモンの場合、人的ミスや成分の質にばらつきが生じるリスクがあると指摘する声もあります。メイヨー・クリニックでは、調合ホルモンがより効果的で安全だという臨床的証拠はないとしています。

2024年の『Frontiers in Reproductive Health』に掲載された意見記事では、調合ホルモンがHRTに対する過去の不安を悪用している可能性があるとして、FDA承認製品と同じ厳密な研究が必要であると指摘されています。しかし、メイヨー・クリニックは、個別化された調合ホルモンが一部の女性にとっては有益である可能性があるとも述べています。調剤薬局では、医師の処方に基づいてホルモンを調整することができ、ワーナー医師によれば、他のホルモンを追加することも可能です。

HRTではエストロゲンとプロゲステロンが主に使用されますが、他のホルモンも健康全般に効果を与えるとされています。例えば、テストステロンやDHEA(デヒドロエピアンドロステロン)は、更年期に減少するホルモンであり、個別化されたホルモン療法の一環としてこれらを追加することがあるとワーナー医師は説明しています。

 

ストップライトシステムによるHRTの判断基準

ウェンディ・ワーナー医師は、ホルモン補充療法(HRT)の処方において、機能医学の「ストップライト」アプローチを採用しています。これは、患者の状況に応じて、HRTをどの程度推奨するかを「信号」に例えるものです。

グリーンライト HRTが強く推奨される場合

閉経前の40歳未満の女性で、禁忌がない場合は、HRTを強く勧められます。ワーナー医師は「このような女性がホルモン療法を受けないと、骨粗しょう症、心臓病、認知機能の低下のリスクが非常に高くなります。約15年分のホルモンが欠如するため、これらのリスクが大幅に増加します」と強調しています。通常、患者に無理強いすることは少ないものの、このグループの女性にはHRTを非常に強く勧めるとのことです。

レッドライト HRTが禁忌となる場合

診断されていない異常出血や、新たに診断された乳がんを持つ女性には、HRTを考慮しません。特に、エストロゲン受容体を持つ乳がんの場合は慎重です。さらに、エバンス氏はこれを一歩進め、エストロゲンレベルが高く、家族に乳がんの既往歴がある女性には、HRT以外の選択肢を優先的に検討します。また、脳卒中や血栓症、血栓性障害の既往がある女性も、経口のHRTを避けるべきです。

イエローライト 慎重に進める場合

ワーナー医師によれば、ほとんどの女性は「慎重に進める」グループに属します。閉経による症状がある場合、その症状の重さや、求める効果とリスクのバランスを考慮して、HRTを使用するかどうかを検討します。

彼女は、この「イエローライト」の段階におけるHRTの議論が、彼女の医療経験を通じて進化してきたと話します。「ホットフラッシュや夜間の寝汗に対してHRTを使用することはできますが、それ以外にも多くの治療法があります。例えば、ハーブなどを使って血管運動症状(ホットフラッシュなど)に対処することも可能です」と述べています。

その一方で、ワーナー医師は「HRTを利用することで、認知機能の改善、骨の健康、心臓の保護といったメリットも得られることを忘れないでください」と強調しています。

 

ホルモンだけでは足りない場合の対処法

ホルモン補充療法(HRT)がすべての症状を完全に解消しない場合や、HRTを使用できない女性にとって、食事や生活習慣の改善が有効な手段となります。エバンス氏によれば、これらのアプローチはHRTの効果を補完するための重要なツールです。

HRTの投与量は個人差が大きいですが、推奨される基準を超えない範囲で使用されるべきです。しかし、中にはHRTで不快感が残る場合に、エストロゲンの量を増やし続ける医師もいます。エバンス氏は「標準的な投与量を守っている限り、残った症状をホルモン以外のアプローチで解消することを試みることができます。それには、ハーブ、薬、鍼、レイキ(自然治癒力に対する、東洋の信仰)など、さまざまな手段が考えられます」と述べています。

彼はさらに、「HRTの投与量が保護効果をもたらす適正な範囲内にあり、まだ症状が十分に改善されない場合、そういった補完的な手段を取り入れるのが理想的です」と強調しています。

 

(翻訳編集 華山律)

イリノイ大学スプリングフィールド校で広報報道の修士号を取得。調査報道と健康報道でいくつかの賞を受賞。現在は大紀元の記者として主にマイクロバイオーム、新しい治療法、統合的な健康についてレポート。