伝説がいくつも残る料理

栃木県佐野市の「耳うどん」は神のお告げから生まれた料理

寒さが厳しくなる季節、温かいスープと麺料理は体を芯から温める定番料理として、日本各地で親しまれています。そんな中、栃木県佐野市の伝統料理「耳うどん」は、地域の文化と深く結びついた一品です。

耳うどんは、そのユニークな形状だけでなく、正月に神々を祀る際に用いられる特別な料理としても大切にされています。この料理は、古代から伝わる神のお告げによって生まれたとされ、食べることで神との対話を通じて疫病を防ぎ、災厄を祓い、健康を祈るという意味が込められています。
 

耳うどんの伝説
神のお告げによる誕生

耳うどんには神秘的な伝説があり、佐野市周辺の地域で今なお語り継がれています。

 

疫病を鎮めるための料理

昔、佐野市の村で大きな疫病が発生し、多くの村人が病に倒れてしまいました。村人たちは疫病退散のために、神に祈りを捧げ続け、そんな中、村の年老いた女性が夢の中で神のお告げを受けます。神は彼女に「耳の形をしたうどんを作り、それを村人に配れば、良い知らせが聞こえ、疫病の拡散を防ぐことができる」と伝えたのです。

そのお告げを信じた村人たちは、小麦粉を使って耳の形をした麺を作り、「耳うどん」と名付け、村中に配りました。すると不思議なことに、疫病は徐々に治まり、村には再び平和が訪れました。この出来事以来、耳うどんは佐野市のの風物詩として親しまれるようになり、特に寒い季節には、疫病や病気を防ぎ、幸運と健康をもたらす料理として食べられるようになりました。

この伝説により、耳うどんは神聖な意味を持つ料理として、佐野市の文化的遺産の一部となり、今でも大切に受け継がれています。

 

洪水と飢饉の平息

もう一つの伝説では、佐野市周辺が洪水と飢饉に襲われた時のことが語られています。村人たちは苦しい生活を余儀なくされていましたが、ある日、村の年老いた人物が提案しました。「耳の形をしたうどんを作り、神に捧げ、神の教えに耳を傾ける姿勢を示しましょう。そして、平穏と災害の終息を祈りましょう」と。村人たちはその提案に従い、耳の形をしたうどんを作り、神に捧げました。不思議なことに、その後、洪水は徐々に引き、飢饉も解消され始めたのです。それ以来、耳うどんは災害を防ぐ神聖な料理として伝えられるようになりました。

 

神官が授かった神の啓示

別の伝説では、栃木県佐野市の村で災害が発生し、村人たちは収穫がなく、病気が広まる厳しい状況に直面していました。対策を講じても効果がなく、村人たちは絶望している時、そんな中、若い神官が神社で神に祈りを捧げ、災害の終息を求めることを提案します。

神官は真剣に神に祈り続け、ある夜、祭祀の中で神秘的な声を耳にしました。神の啓示はこう告げていました。「耳の形をした食べ物を作り、それを神に捧げなさい。耳は神の声を聞く器であり、それを食べることで心が敏感になり、宇宙の真理を聞き取ることができる」と。神官はこれを神の教えとして信じ、村人たちに伝えたのです。

村人たちは耳の形をしたうどんを作り、神社に供え、また食べる際にも、自らが神の教えを聞き入れ、災いを避けられるよう祈りました。不思議なことに、耳うどんを食べた後、村は次第に回復し、病気が減り、作物も再び育ち始めたといいます。村人たちはこれが神の庇護のおかげだと信じ、神官の啓示に感謝しました。

 

伝説の意味

これらの古い伝説は、長い年月をかけて語り継がれています。内容には多少の違いがあるものの、根本的なメッセージは一つです。それは、耳うどんの形が人々に「神の教えに耳を傾けることの大切さ」を思い起こさせるということです。耳うどんを食べることで、謙虚に神の教えを受け入れ、正しい道を歩むことで、神は福を授け、災いを取り除いてくれると信じられています。

このように、耳うどんは、災いが訪れた時に心を開き、神の教えに耳を傾けることの重要性を伝える料理として、人々に救いをもたらす象徴とされているのです。

 

新年の習慣としての耳うどん

栃木県佐野市では、毎年正月になると「耳うどん」を作る習慣が続いています。耳の形をしたこの特別なうどんは、人々に「神の声を耳で聞く」ことの重要性を思い出させ、新しい年に神の導きと庇護を得るための象徴となっています。耳の形は、神とのコミュニケーションの橋渡しを意味し、神が人々の祈りを聞き届けた時には、次の一年が無事で平和に過ごせると信じられています。

耳うどんはやがて新年の祭祀儀式の一部となり、特に元日の朝には家族が集まってこの料理を囲み、神への敬意と祈りを込めて食べるのが恒例となりました。耳うどんは単なる食事ではなく、神と人とのつながりを象徴し、家族の健康と幸せを願う深い意味を持っています。

 

秋冬の養生耳うどん
肺を養い、脾を強化し、腎を補う

秋冬の季節は、特に肺を養い、脾(ひ:消化器系)と腎(じん)を強化し、全身の気血の巡りを良くすることが大切です。栃木県佐野市は関東地方に位置し、海から遠く、秋冬は乾燥して寒さが厳しい地域です。こうした気候に適した伝統料理である「耳うどん」は、元々薬膳効果を持ち、寒い季節に体を温め、健康を守るのに適しています。

今年の秋冬は湿気が多く、気温も高めのため、特に脾胃(ひい:消化器系)と腎のケアが必要です。元々の耳うどんのレシピに少しアレンジを加えることで、養生効果をさらに高めることができます。今回のレシピでは、伝統的な中医学に基づき、肺や脾、腎を温め、潤す食材を組み合わせています。

 

耳うどんの材料と作り方

材料(4人分)

小麦粉:200g

そば粉:100g

水:適量

塩:少々

里芋:150g(ブロック状に切る)

山芋:100g(薄切り)

にんじん:50g(薄切り、脾胃を健やかにし、血を養う)

しいたけ:3枚(薄切り)

鶏胸肉:100g(薄切り、他のたんぱく質でも代用可)

生姜:3片

長ねぎ:適量(小口切り)

日式出汁(昆布と干ししいたけを使用):適量

作り方

生地作り
小麦粉、そば粉、塩を混ぜ、水を少しずつ加えて滑らかな生地を作ります。湿らせた布で覆い、30分間休ませます。

耳の形を作る
生地を2mmほどの厚さに伸ばし、小さく切って耳の形に成形します。

うどんを茹でる
耳の形にした生地を沸騰したお湯で茹で、浮き上がった後さらに1〜2分茹でて水を切ります。

スープ作り
鍋に出汁を入れ、里芋、山芋、にんじん、しいたけ、生姜を加えて、里芋と山芋が柔らかくなるまで煮ます。

鶏肉を調理する
別の鍋で鶏胸肉をさっと茹でておき、柔らかさを保ちます。

仕上げ
スープに耳うどんと鶏肉を加え、さらに数分煮て味をなじませます。お好みで醤油や塩で調味し、長ねぎを振りかけて完成です。

 

養生効果

里芋:脾と腎を健やかにし、消化を助けます。また、肺を潤し、咳を和らげ、血液循環を改善します。

山芋:脾、肺、腎を滋養し、免疫力を高めます。特に腎を補い、精力を高める効果が期待できます。

そば粉:腎を強化し、脾胃を温め、肺のこもった熱を取り除きます。

そば粉(Shutterstock)

 

しいたけ:気を補い、肺を養い、免疫力を高めます。脾胃の機能も調整します。

生姜と長ねぎ:脾胃を温め、寒さを取り除き、湿気を排出します。体を温めて陽気を高め、血行を促進します。

 

この「秋冬の養生耳うどん」は、体を温め、脾、肺、腎、そして肝臓の働きをサポートする一品です。寒さと乾燥が厳しい季節にぴったりの料理で、体を内側からケアし、健康を保ちながら新しい年を迎えるのに最適です。健康と幸運を祈りつつ、この伝統料理を楽しんでみてはいかがでしょうか。

(翻訳編集 華山律)

白玉煕
文化面担当の編集者。中国の古典的な医療や漢方に深い見識があり、『黄帝内経』や『傷寒論』、『神農本草経』などの古文書を研究している。人体は小さな宇宙であるという中国古来の理論に基づき、漢方の奥深さをわかりやすく伝えている。