霜降(そうこう)は秋の最後の節気で、冬が始まる前の時期です。気温が急に下がり湿度も高くなるため、肝のエネルギーが滞りやすく、気分も落ち込みがちになります。また、やる気が出ない、胃腸が重い、体がだるいなど、さまざまな不調が現れやすい時期でもあります。
秋の終わりと気分の変化
秋は、昔から「心の愁(うれい)」、つまり物悲しさを感じやすい季節とされています。木々が枯れて生命力が内側にこもるこの時期は、人生の晩年を象徴し、自然と寂しさや気分の落ち込みが出やすくなるとも言われています。
さらに、古代の中医学では、季節の最後の18日間は「脾胃(消化機能)」のエネルギーが強まる時期とされます。特に今年は湿度が高く霧も多いため、消化機能が落ち込みやすい傾向があります。また、季節の変わり目である霜降期には「土のエネルギー」が一層強まるため、胃腸への影響が増し、肝のエネルギーの流れも滞りがちになります。
エネルギーバランスの変化
中医学の五行説によると、脾(消化器系)と肝(エネルギー)はお互いを補い合う関係にあり、脾に湿気が溜まると肝のエネルギーも停滞しやすくなると考えられています。また、脾は肺のエネルギーも養うため、肺が強まると肝のエネルギーが圧迫され、暮秋には気分の落ち込みを引き起こしやすくなります。こうして、気分がふさがったり、イライラや不眠といった症状が出やすくなるとしています。
五味で五臓を整え、ストレスを和らげる方法
日々の食事で「五味」を活用して健康を保つことは、古代中医学の食養生の基本的な方法です。
中医学では食材の「性味」を重視し、「性」とは寒・熱・温・涼といった体を温めたり冷やしたりする性質を指し、「味」とは酸味・苦味・甘味・辛味・塩味の「五味」を意味します。それぞれの五味は肝・心・脾・肺・腎の臓器に作用し、体のバランスを整え、臓器の機能をサポートします。
この「五味の調整法」は普段の食事で実践しやすいため、古くから食文化に取り入れられてきました。医師は食材の効能を理解し、必要に応じて五味を使い分けましたが、一般の人々も酸味や甘味、塩味などを調味料として用い、日常的に五味を摂り入れることで健康管理を行っていました。
秋に五味を取り入れて肺と肝の健康を守る方法
秋が深まり季節が移り変わるこの時期には、「酸味」と「辛味」を意識的に取り入れることが効果的です。
辛味は体のエネルギーの流れを促し、特に肺に働きかけて気を巡らせます。
酸味は肝に作用して、そのエネルギーを落ち着かせ、不安感を和らげる効果があります。
酸味と辛味を組み合わせることで、気血の流れが良くなり、ストレスを解消しやすくなることが期待できます。また、辛味が酸味の滋養効果を肺に運ぶため、乾燥しがちな肺を潤す効果もあります。
中医学の五行説では「肺(金)は肝(木)を抑える」とされますが、実際には互いに助け合う働きもあり、こうした五味のバランスは臓器を補い、体のバランスを整える助けになります。
五味のバランスで心身を調和
肺は「気」を司り、肝は「血」を蓄えるとされます。血のスムーズな流れは肺が管理する気の流れを左右するため、酸味と辛味を上手に組み合わせることで気と血の流れが整い、五行のバランスも維持されます。こうして心身の調和が保たれると、病気のリスクも低くなり、健康的な日々をサポートします。
以下は、霜降の時期に取り入れたい五味を活かした食養生の提案です。
1. 酸味で肝を整え、肺を潤し、消化を助ける
酸味は、肝の働きを助け、そのエネルギーを穏やかに整える役割があります。特に秋の終わり、霜降(そうこう)の時期には、酸味のある食材を取り入れることで肝のエネルギーがスムーズに流れ、心身のバランスを保ちやすくなります。例えば、レモン、山楂(サンザシ)、りんご酢などの酸味食品は、肝をサポートする効果が期待できます。
サンザシとりんご酢ドリンク
サンザシとりんご酢をぬるま湯で薄め、朝の空腹時に飲むと、肝臓のデトックスを促し、気分をリフレッシュする効果が期待できます。冷え性や胃腸が弱い方には、サンザシやりんごに数個のなつめと生姜の薄切りを加えて温かいドリンクにすると良いでしょう。食後に飲むと、胃腸を温め、気血を補う効果もあります。
また、生姜は辛味があるため、酸味と一緒に摂ることで肝臓に届きやすくなり、肝のエネルギーを整え、滞りを解消する助けとなります。サンザシの酸味は消化を助け、肝の気と血を滋養し、血流を良くする作用もあり、これらの食材を組み合わせることで相乗効果が期待できます。
レモンとはちみつドリンク
レモンは酸味と辛味を持ち、そこに蜂蜜を加えることで、肺の乾燥を和らげ、肌を潤す効果が期待されます。また、レモンの爽やかな香りは胃腸の働きを整え、湿気を追い出し、食欲を増進させる助けにもなります。朝と夜に飲むことでリラックス効果が得られ、良質な睡眠をサポートします。
※蜂蜜は糖分が高いため、糖尿病の方は使用量に注意が必要です。また、2歳以下の幼児には蜂蜜は適さないため、医師の指示に従うようにしてください。
2. 辛味で肺を整え、気の巡りをサポートする
辛味は、肺に働きかけ、気の流れを整え、体を温める効果が期待できます。特に秋の終わりである霜降(そうこう)の時期には、辛味のある食材を取り入れることで、寒さから体を守り、肺を潤し、気分も落ち着きやすくなります。生姜、ネギ、ニンニク、大根などの辛味食材は、酸味のある食材と組み合わせると、肝と肺のバランスがよりスムーズに整えられるとされています。
生姜とネギの大根スープ
大根を一口大に切り、生姜の薄切りとネギの白い部分を一緒に煮て、少量の塩で味を整えます。このスープは肺を潤し、肝の気の流れを整える効果があり、昼食のスープとしておすすめです。仕上げに細かく刻んだパクチーやしその葉を加えると、胃腸を整え湿気を取り除き、リフレッシュ効果も期待できます。こうして、肝の気が整い、気分の落ち込みも和らぎます。
酸味と辛味のキュウリマリネ
キュウリを細切りにして塩を少量ふり、水分を絞り出した後、米酢、砂糖、唐辛子粉、ニンニクのすりおろしを合わせて和えます。塩加減はお好みで調整し、少し漬けてから食べると、肝の気を整え、肺を潤し、食欲も増進します。霜降の時期に食欲不振や気分の落ち込みが気になる際に最適です。胃が敏感な場合は、唐辛子を控えたり、代わりにパプリカやパクチーを加えると、胃にやさしく美味しく仕上がります。
3. 酸味と辛味の相乗効果で、肝と肺のバランスを整える
酸味と辛味は互いに引き立て合うため、適度に取り入れることで肝と肺のバランスを整える助けになります。これにより肺の働きがスムーズになり、肝のエネルギーの流れも促進され、気分のリフレッシュや咳の軽減が期待できます。
酸味と辛味のかぼちゃピューレ
蒸したかぼちゃをピューレ状にし、米酢、塩、白胡椒を少量加えて味を整えます。かぼちゃの甘みは胃腸に優しく、米酢の酸味と白胡椒の辛味が合わさることで、胃腸を整えながら肺を元気にします。夕食の一品としておすすめです。
柚子と生姜のホットドリンク
柚子の皮には酸味と辛味があり、気の流れを整える作用があります。そこに生姜の温かい辛味を加えることで、肺を潤し、気分も落ち着きやすくなります。柚子の果肉と生姜の薄切りを煮て、少量の蜂蜜を加えると、気分の落ち込みを和らげ、肺を潤し、咳を和らげるホットドリンクが完成します。午後のリラックスタイムにぴったりです。
※蜂蜜は糖分が高いため、糖尿病の方は量を控え、また2歳以下の幼児には避けるようにしましょう。
4. 穏やかな甘味で胃腸を整える
霜降を過ぎると、肝のエネルギーが抑えられ、情緒を安定させるためにも胃腸のケアが大切です。甘味のある食材、例えばなつめ、長いも、かぼちゃなどは、乾燥を和らげ、胃腸の気を整え、体を潤す効果が期待できます。さらに、胃腸が活性化すると四肢の力も安定し、疲れやだるさの改善にも役立ちます。
長いもとなつめの滋養粥
長いもは胃腸を整え、腎を補い、体内の余分な湿気を取り除く働きがあります。なつめやクコの実と組み合わせると、胃腸をサポートし、気血を補う効果が増します。長いもは皮をむいて小さく切り、種を取ったなつめと少量のクコの実、大米またはもち米と共に煮てお粥にします。朝食に摂ることで、気血を補い、肺を潤し、肝を養い、目の健康もサポートし、穏やかな気分に導きます。
かぼちゃとアワの滋養粥
かぼちゃとアワは胃腸を助け、腎を強化する食材です。これらを一緒に煮込み、少量の蜂蜜で甘みを加えることで、乾燥を和らげ、胃腸を温かく保つ効果が期待できます。また、腎を補うことで肝の健康も保たれ、イライラなどの情緒不安定にも役立ちます。朝食や夕食に取り入れるのがおすすめです。
まとめと注意点
霜降の季節には、酸味と辛味をバランスよく取り入れて、肝と肺の健康を保ちましょう。酸味は肝を潤し、辛味は肺を整え、気血の流れを促進します。さらに、穏やかな甘味で胃腸をサポートし、湿気を取り除き、腎のケアをすることで、五臓のバランスが整い、秋の終わりに起こりやすい感情の変動や、肺の乾燥、肝のストレスが和らぎます。
※胃酸が多い方や胃腸が弱い方は、辛味や酸味を取りすぎないようにしましょう。体調に合わせて五味のバランスを調整してください。
(翻訳編集 華山律)
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