「食は人を作る」という言葉は、身体だけでなく認知機能にも当てはまります。
新しい研究により、特定の食事法が認知機能低下のリスクを減らす可能性があることが明らかになりました。特に女性に効果があるとされています。研究者は、地中海食と高血圧対策を組み合わせた「MINDダイエット」に最も近い食習慣を持つ女性が、認知機能低下のリスクを低減する可能性を発見しました。この食事法は、「脳機能をサポートする食品を多く摂り、健康に悪影響を与える食品を減らす」ことが特徴です。
シンシナティ大学メディカルセンターに所属するラッセル・P・ソーヤー博士は、「高齢化に伴い認知症を抱える人々が増える中、認知機能の低下を遅らせたり防ぐための変化を見つけることは非常に重要です」と述べています。この研究は、アメリカ神経学会のメンバーであるソーヤー博士が共同著者を務め、認知機能維持における食事の役割に新たな可能性を示しています。
小さな変化が大きな違いを生む
この研究では、平均年齢64歳の1万4145人の食事データを分析し、参加者をMINDダイエットの遵守度に基づいて、低、中、高の3つのグループに分けました。記憶力や思考力は、研究の開始時と10年後に測定されました。
Neurology誌に発表された結果によると、高い遵守度のグループは、低い遵守度のグループに比べて認知機能障害のリスクが4%低いことが示されました。
「この4%の減少が何を意味するのか?」について、ソーヤー博士は次のように述べています。「個人レベルでは小さな変化に見えるかもしれませんが、集団レベルでは大きな違いになります。例えば、アメリカで55歳以上の1千万人が認知機能障害を発症する可能性があるとすると、4%のリスク減少は40万人が発症を避けられることを意味します」
さらに、研究者たちはMINDダイエットが「認知機能低下の速度にも影響を与える」ことを発見しました。MINDダイエットを続ける人は、認知機能の低下が緩やかであることが分かりました。この効果は、特に黒人の参加者において顕著でした。
性別の違いと相反する結果
今回の研究では、データを性別ごとに分析した結果、女性において認知機能障害のリスクが6%低下していることが確認されました。しかし、男性については統計的に有意なリスク低下は見られませんでした。
今回の研究では、男性に対するMINDダイエットの有益性は示されませんでしたが、過去の研究では異なる結果が報告されています。例えば、1306人を対象とした以前の研究では、MINDダイエットの遵守度が高い人は、「男女ともに認知機能の低下が遅い」ことが確認されています。
今回の研究と過去の研究で性別に関する結果が異なった理由については、使用されたデータソースや研究方法の違いが影響している可能性があります。
MINDダイエットと類似した食事法の比較
MINDダイエットは、「地中海食と高血圧対策ダイエット(DASH)の要素を取り入れた」食事法です。運動生理学の博士号を持ち、Fortune Recommends Healthでフィットネスおよび栄養アドバイザーを務めるクリス・モーア氏が、その違いについて説明しています。
「MINDダイエットは地中海食とDASHダイエットの要素を融合しています」とモーア氏は述べています。「地中海食のように全粒穀物、果物、野菜を多く含み、DASHダイエットと同様に飽和脂肪を制限しています」
MINDダイエットの特徴は、脳に良いとされる食品、「特に葉物野菜とベリー類に重点を置いている」点です。モーア氏は、「これらの食品は、他の食事法ではそれほど強調されていません」と指摘しています。
さらに、他の2つの食事法と同様に、MINDダイエットでは以下の5つの食品を制限することが推奨されています。
- 赤身肉
- バターとマーガリン
- チーズ
- スイーツ
- 揚げ物やファストフード
脳に栄養を与える食事
MINDダイエットは、「脳の健康をサポートする食事法」です。抗酸化物質や健康的な脂肪、抗炎症効果のある食品を取り入れつつ、「砂糖とアルコール」を控えるのが特徴です。これが脳にどんな良い影響をもたらすのか、見ていきましょう。
葉物野菜
ケールやほうれん草、カラードグリーンなどには、ビタミンEやK、葉酸、ルテインがたっぷり含まれています。これらは、脳の健康に悪影響を及ぼすホモシステインというアミノ酸のレベルを抑える効果が期待できます。毎日葉物野菜を摂ると、脳が最大で11歳も若々しく保たれるかもしれないという研究結果もあります。
ベリー類
ブルーベリーなどのベリー類は、フラボノイドという成分が豊富で、炎症を抑えたり酸化ストレスを軽減する効果があります。これが、脳の老化を遅らせたり、神経変性疾患の予防に役立つ可能性があるのです。さらに、記憶力や注意力の向上にも効果があると言われています。
ナッツ
ナッツには、タンパク質や健康的な脂肪、ビタミンEがバランスよく含まれています。これらの栄養素は、加齢による認知機能の低下を防ぐのに効果的です。特にクルミには、植物性のオメガ3脂肪酸が豊富で、脳にとても良い影響を与えると言われています。
全粒穀物
オート麦や玄米、全粒粉のパンなどは、脳に持続的なエネルギーを供給してくれます。全粒穀物を多く摂ることで、認知機能の低下を遅らせる効果があるとされています。
魚
DHAなどのオメガ3脂肪酸が豊富な魚は、脳の健康を保つために欠かせません。週に2回以上魚を食べることで、記憶力が向上し、脳の健全性を促進する効果が期待されています。
オリーブオイル
オリーブオイルには、ポリフェノールと一価不飽和脂肪がたっぷり含まれており、炎症や酸化ストレスを軽減する効果があります。これが認知機能の維持や向上につながると言われています。
鶏肉
鶏肉は、神経や脳の働きに欠かせないビタミンB群、特にビタミンB12が豊富です。ビタミンB12の不足は記憶力や認知機能の低下につながるため、日常的に摂りたい食品です。
これらの食品を意識的に取り入れることで、脳の健康をしっかりサポートしていきましょう。
MINDダイエットの隠れたメリット
MINDダイエットは脳の健康をサポートするだけではありません。他にもたくさんの「健康効果」があることがわかっています。
・がん予防
MINDダイエットが乳がん予防に効果的である可能性が、Clinical Breast Cancer誌に掲載された研究で報告されました。研究では、MINDダイエットに近い食事をしている女性は、そうでない女性に比べて乳がんのリスクが60%も低いことが分かっています。
・神経変性疾患の予防
MINDダイエットは神経の健康も守ります。Movement Disorders誌に掲載された研究によれば、MINDダイエットや地中海式の食事を続けることで、「パーキンソン病の発症を遅らせる」ことができるかもしれません。例えば、MINDダイエットを忠実に守っていた女性は、そうでない女性に比べてパーキンソン病の発症が最大17.4年遅らせたそうです。一方で、男性には地中海式の食事が効果的であり、パーキンソン病の発症を最大8.4年遅らせることができるという結果が出ています。
・長寿効果
MINDダイエットは長生きにもつながるかもしれません。Nutrition & Diabetes誌に発表された研究では、MINDダイエットを続けることで、心血管疾患による死亡リスクや2型糖尿病の人の死亡リスクが減ることが示されています。具体的には、2型糖尿病のある人では、MINDダイエットのスコアが高い人が全ての原因による死亡リスクを25%、心血管疾患による死亡リスクを50%低減したそうです。糖尿病のない人でも、全ての原因による死亡リスクを17%低減する効果が見られました。
まとめ
高齢化が進む中で、認知機能の低下が増えてきているのは不安な点ですが、食事の改善がそのリスクを減らす手助けになるというのは心強い話です。
ソーヤー博士もプレスリリースで述べている通り、「食事にほんの少し工夫を加えるだけで、認知機能の問題のリスクを減らしたり遅らせたりできるかもしれないと思うと、とてもワクワクします」
(翻訳編集 華山律)
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。