カロリー制限だけでは減量は続かない? 鍵はホルモンにあり

・エネルギーバランスと栄養素の重要性
・ホルモンが脂肪燃焼と蓄積に及ぼす影響
・意思だけでは解決できない食生活の難しさ
・食の選択に関わる科学的要因
・心と体に優しい、持続可能な減量アプローチ
・自然な食品とバランスの良い食生活の心がけ

「カロリーを減らして運動も増やしているのに、なぜか体重が減らない……」

栄養士として、この悩みをよく聞きます。カロリーをしっかり計算しているのに体重が減らないと感じているなら、それはあなた一人の問題ではありませんし、決して失敗でもありません。実は、体重管理の仕組みは単なる計算式以上に複雑なのです。

ここで重要なのが、ホルモンの影響です。エネルギーのバランスを保つ上で、ホルモンは大きな役割を果たしています。減量を成功させるには、カロリー制限だけでなく、ホルモンと食事の関係も理解することが欠かせません。

エネルギーバランスと栄養素について

カロリーは食品に含まれるエネルギーの単位ですが、単にカロリーだけに注目するのではなく、栄養素とのバランスも大切です。

食品には3つの主な栄養素(マクロ栄養素)があり、体にとって重要な役割を果たしています。

脂質 1グラムあたり9キロカロリーで、ホルモンの生成や細胞膜の形成に必要です。また、満腹感を促し、持続的なエネルギーも提供します。

タンパク質 1グラムあたり4キロカロリーで、体の成長や組織の修復に役立ちます。

炭水化物 1グラムあたり4キロカロリーで、速やかにエネルギーとして消費されます。

「脂質はカロリーが高いから減らせば痩せる」と考えるかもしれませんが、実際は栄養素によるホルモン反応が異なるため、単純ではありません。どの栄養素を食べるかによって、ホルモンが食欲や代謝に与える影響が異なり、これが体重管理に大きく関係しています。

例えば、炭水化物(特に精製されたもの)はインスリンの分泌を増やし、体内の糖をエネルギーとして使います。一方で、食物繊維を多く含む炭水化物を選ぶと、インスリン反応が緩やかになり、体に優しい消化ができます。

また、グレリンやレプチンなどのホルモンは、空腹感や満腹感を脳に伝え、バランスの取れた栄養価の高い食品は「満足した」と脳に伝えます。逆に、栄養が偏った食品では、満腹感を感じにくく、つい食べ過ぎてしまうことがあります。

さらに、野菜には肝機能をサポートする働きがあり、体内の余分なホルモンの排出を助けます。タンパク質や必須脂肪酸も、細胞やホルモン、神経、皮膚に不可欠な成分で、体にとって欠かせません。

脂質とタンパク質は体を作る基本となり、野菜はそれらを効率的に使うための栄養素を提供します。このように、修復と成長のためには、様々な栄養素をバランス良く摂取することが理想的です。

 

ホルモンが脂肪の燃焼と蓄積を左右する理由

体重が増えたり減ったりする背景には、ホルモンの働きが深く関係しています。ホルモンがバランスよく働くと、体はまるで調和のとれた交響曲のように機能します。ここでは、脂肪の蓄積と燃焼に関わる重要なホルモンを紹介します。

インスリン

インスリンは、血中の糖を細胞に取り込みエネルギーとして蓄えるホルモンです。しかし、インスリンに対する反応が鈍くなると(インスリン抵抗性)、余分な糖が体脂肪として蓄積されやすくなります。

コルチゾール

コルチゾールは、朝起きたり、日中の活力を保つために必要なホルモンです。ただし、ストレスで過剰に分泌されると、食欲が増し、つい過食しがちになります。研究では、私たちは1千キロカロリー以上も摂取量を過小評価していることがあるとされています。

ドーパミン

ドーパミンは、やる気や目標に向かう行動に関わるホルモンで、食欲や「快楽による食事」にも影響します。時に満足感を求めるあまり、必要以上に食べてしまうことがあります。

グレリン

グレリンは、空腹感を促すホルモンで、「小さな悪魔」とも言われます。栄養豊富な食事(タンパク質や健康的な脂質、植物性食品など)を摂ることで、脳に「エネルギーが十分に満たされている」と伝わり、空腹感を抑えることができます。逆に、栄養が不足している食品はグレリンの分泌を促し、空腹感が続くことが多くなります。

レプチン

レプチンは、食後に満腹感を脳に伝えるホルモンで、自然の食欲抑制剤です。しかし、インスリンと同様に、レプチンも抵抗性が生じる場合があり、その結果、満腹感が感じにくくなることがあります。レプチン抵抗性は肥満と関係して研究が進められている分野です。

 

食生活の難しさは意思だけの問題ではない

不健康な食品を避け、健康的な食事を続けるのが難しいのは、単なる意思の強さだけが理由ではありません。ホルモンや腸内環境、遺伝も密接に関わっています。

体の細胞が必要としているのは、単なるカロリーではなく、特定の栄養素です。脳は常に体内のシグナルを感知し、ホルモンバランスを整えるように働きます。そのため、ホルモンの自然なリズムを意識した食生活が、より効果的な解決策になるのです。

健康的な食事のための1日の食品摂取基準(Shutterstock)

 

食の選択に隠された科学

美味しい食べ物をひと口食べると、つい「もっと食べたい」と感じることがあります。

2019年に発表された研究(Cell Metabolism誌)によると、超加工食品は未加工食品よりも多くのカロリーを摂取させやすい傾向があることがわかりました。この研究では、20人の参加者が2つのグループに分かれ、未加工食品または超加工食品をそれぞれ2週間食べました。その後、グループを入れ替えて、再び2週間の食事を行いました。どちらの食事もカロリーと栄養素が同程度になるよう調整されていましたが、超加工食品の食事ではエネルギー摂取が多くなり、体重が増えやすいことを確認しました。

超加工食品は脳内のホルモンを刺激し、食欲を増進させるため、食べるのをやめるのが難しくなります。そのため、持続的な減量を目指すには、環境から変えることが大切です。たとえば、つい手が伸びてしまうスナック菓子を家に置かないなどが有効です。

また、最近のレビュー(Appetite誌)では、レプチン、グレリン、コルチゾール、ドーパミンといったホルモンが食物依存に関係していると指摘されており、今後の研究でさらに解明が進むことが期待されています。

 

心と体に優しい、持続可能な減量アプローチ

減量を無理なく続け、健康的な体重を維持するためには、ホルモンに優しい食品を選び、ポジティブな思考を育てることが大切です。ホルモンと食事は、遺伝や腸内環境にも影響を及ぼします。心と体の両面からアプローチすることで、長続きする効果が期待できます。

ホルモンを整える食事のポイント

自然な食品を取り入れ、十分なタンパク質、健康的な脂質、食物繊維を摂ることが、ホルモンバランスの安定に役立ちます。脳は、ホルモンのバランスを指揮する「指揮者」のような役割を果たしています。

栄養豊富な食品は、食欲を抑え、満腹感を伝え、ストレスを和らげることで、明確な判断と健康的な選択をサポートします。

1食あたり30グラムのタンパク質を目指しましょう。これに加えて、健康的な脂質や食物繊維を含む野菜を取り入れると、体に必要なエネルギーが補給されます。

水分補給も心がけましょう。目安としては、体重の半分のオンス(1オンス=約30ミリリットル)を毎日飲むこと。または、尿が薄い黄色か透明になるまで飲むようにすると良いです。

ポジティブな思考習慣

生活習慣を変えるには、セルフケアや自己慈愛を意識することが重要です。次のポイントを心がけてみてください。

毎日ポジティブな行動を 挫折しても、自分に優しく、再び取り組む気持ちを大切に。

睡眠を大切に 質の良い睡眠は、空腹を抑えるホルモンの調整にも効果的です。

食事に集中する 食事中はゆっくりと味わい、特に食欲が強いときには雑念を払うようにしましょう。

できるだけ作業はせず、食事に集中する(Shutterstock)

 

ストレスを軽減する タイミングが悪いと感じるときは、少し待ってから食べるのも良いです。

食事に集中できないときは、水を飲んで気分をリフレッシュしたり、食事前に深呼吸で心を整えると効果的です。リラックスしたペースで、食べ物の見た目や香りも楽しんでください。
 

自然な食品とバランスの良い食生活を心がけて

自然に近い形の食品を中心に、極端な「全てか無か」の考え方は避け、少しずつ着実に変えていきましょう。これにより、食欲の管理や健康的な生活習慣の維持がしやすくなります。

 

この記事で述べられている意見は著者の意見であり、必ずしもエポックタイムズの意見を反映するものではありません。エポックヘルスは、専門的な議論や友好的な討論を歓迎します。

(翻訳編集 華山律)

臨床栄養士および自然療法士として、2009年より消化不良、依存症、睡眠障害、気分障害に悩む方々を支援するコンサルティングを実施。大学で補完医療を学ぶ中で、行動神経科学や腸・脳の不均衡に強い関心を抱く。それ以来、栄養ゲノミクス、トラウマにおけるポリヴェーガル理論、および栄養療法アプローチに関する大学院レベルの認定資格を取得。