アルツハイマー病
アルツハイマー病に関する最近の研究により、この記憶障害の病気が脳に与える影響について新たな理解が進んでいます。研究では、症状が現れる数十年前から脳内で重要な変化が始まる可能性が示唆されています。
最近の研究成果によれば、アルツハイマー病の進行は2段階に分けられ、症状が現れる前の「サイレントフェーズ」と呼ばれる初期段階が明らかになりました。これは認知機能の低下が始まる前に脳で進行する変化を指します。
アルツハイマー病には長い無症状の期間があることが分かっており、「記憶や思考の症状が現れる10年、15年、さらには20年前から脳内で変化が進んでいる」と、アルツハイマー協会の科学会議プログラムディレクター、イゴール・カマルゴ・フォンタナ氏はエポックタイムズに語っています。
この研究成果により、アルツハイマー病の早期発見や治療法開発に新たな道が開かれることを期待しています。米国国立老化研究所(NIH)のリチャード・J・ホーデス博士は次のように述べています。「アルツハイマー病の診断と治療において最も大きな課題の一つは、症状が出る前に脳への損傷が進行してしまうことです。初期段階で脳の変化を検出できるようになれば、発症前の段階でどのような変化が起こっているかを確認することが初めて可能になります」
アルツハイマー病の初期段階ーー静かに進行する脳の変化
米国国立衛生研究所(NIH)の最新研究により、アルツハイマー病がどのように進行していくかについて新たな発見があり、早期発見や治療法の開発に期待が高まっています。この研究は「ネイチャー・ニューロサイエンス」誌に発表され、アルツハイマー病が脳に「サイレントフェーズ」と「症状フェーズ」という2つの段階で影響を与えることが示唆されています。
最初の「サイレントフェーズ」では、目立たない小さな変化が少しずつ進みます。次の「症状フェーズ」になると、脳に広範囲のダメージが広がり、アルツハイマー病の特徴的なアミロイド斑が脳内に蓄積されます。
研究者たちは、アルツハイマー病は症状が出る前の「静かな」段階でじわじわと進行し始めており、記憶障害が現れるずっと前から脳で変化が起こっていることを確認しました。この初期段階で、アルツハイマー病の兆候であるベータアミロイド斑と神経細胞の変化が少しずつ積み重なっていくのです。
特に、抑制性ニューロンと呼ばれる脳の特定の細胞に微妙な変化が見られることがわかりました。これらの細胞は、記憶や視覚、言語に関わる脳の部分に多く存在し、まず影響を受けやすいとされています。フォンタナ氏は、この抑制性ニューロンが最初にダメージを受けると、脳の神経細胞同士の通信に乱れが生じる可能性があると指摘しています。
また、これまであまり注目されてこなかった「ソマトスタチン抑制性ニューロン」がアルツハイマー病によって影響を受けていることも明らかになりました。この発見は、アルツハイマー病が脳内の興奮性ニューロン(神経細胞のやりとりを活性化させる細胞)に主にダメージを与えるという従来の見解を見直すきっかけとなるかもしれません。
後期段階急速な悪化と症状の出現
アルツハイマー病の第2段階では、初期段階と異なり、アミロイド斑や神経原線維変化が急速に蓄積し、脳に深刻なダメージが進みます。この段階になると、記憶喪失や混乱といった認知機能の低下が顕著になり、炎症や細胞死も増えていきます。研究者たちは、この急激な悪化が神経回路内での複雑な相互作用によって引き起こされるとしています。
高度な遺伝子解析ツールを使って、研究者たちはアルツハイマー病による脳内の変化を包括的にマッピングしました。特に、言語、記憶、視覚処理に重要な中側頭回と呼ばれる脳領域がアルツハイマー病によるダメージを受けやすいことが明らかになりました。
また、アルツハイマー病が進行すると、炎症に関与するミクログリアやアストロサイトといった細胞が、初期の変化に対応しようと分子を放出したり、自身の構造を変化させたりすることがわかっています。
「炎症性細胞や抑制性ニューロンの変化は、アルツハイマー病の特徴的な変化であるアミロイド斑の蓄積やタウたんぱく質の異常形成を引き起こし、最終的には末期段階に至ります」とフォンタナ氏は説明しています。
診断と治療への影響
この研究は、アルツハイマー病の早期診断や、症状に応じた治療の開発において大きな示唆を与えます。
「今回の研究結果は、アルツハイマー病が脳にどのように影響を与えるかについて、科学者の理解を根本的に変え、今後の新しい治療法の開発に貢献するでしょう」と、ホーデス博士は述べています。
アルツハイマー病の段階が明確に区別されることで、研究者たちは各段階の細胞変化に合わせて、診断や治療をより適切に調整できるようになります。この発見は、早期の介入を促し、患者の予後を改善する可能性を秘めています。
「アルツハイマー病には長い無症状の期間があるため、症状が現れる前に早期発見と介入の機会が得られるのです」とフォンタナ氏は説明しています。
フォンタナ氏はさらに、「この研究の結果が他の機関でも確認されれば、最初の『静かな段階』での脳変化に対処することで、次の進行性の段階を遅らせたり防いだりできる可能性が考えられます」と続けました。
また、フォンタナ氏は、アルツハイマー病の初期段階を診断ツールとバイオマーカー(アミロイドやタウなど)を組み合わせて評価することの重要性を強調しています。
将来を見据え、この研究はアルツハイマー病や他の認知症に関する今後の研究の基盤を築くものと期待しています。さまざまな細胞が病気の進行にどう関与するかを調べることで、治療に役立つ保護因子や回復メカニズムの特定を目指しています。フォンタナ氏は、アルツハイマー協会がこうした関連研究に資金を提供していることも述べています。
(翻訳編集 華山律)
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