食べ物を燃料に変える、細胞を作る、DNAを修復する、解毒する、栄養素をリサイクルする、酸化ストレスから身を守るなど、ナイアシンはこれらすべてをスムーズに機能させるためのエネルギーを提供します。ナイアシンがなければ、細胞はバッテリー残量が1%しかない携帯電話のようになり、電力がひどく不足し、機能を維持できません。
しかし、ナイアシンは身体にエネルギーを与えるだけではありません。肌の健康をサポートするなど、特定の機能においても重要な役割を果たします。この発見は、この素晴らしいビタミンの発見にまで遡ります。
1910 年代、米国公衆衛生局の医療官ジョセフ・ゴールドバーガー博士はペラグラ（ナイアシンの不足による病気）の謎を調査していました。この衰弱性疾患はサウスカロライナ州や世界各地で猛威を振るい、皮膚の荒れや鱗状の皮膚、消化器系の問題、精神障害といった重篤な症状を引き起こし、死亡率は 40 パーセントでした。数万人が罹患しましたが、原因は謎でした。ほとんどの人が感染症だと思っていました。
ゴールドバーガーは、ペラグラの原因は細菌ではなく、人々の食事から何かが欠けていることにあると考えました。トウモロコシを制限し、新鮮な牛乳、バターミルク、卵、豆、エンドウ豆などの食品をペラグラ患者の食事に加えることで、症状を逆転できることを示しました。しかし、これらの食品に含まれる魔法の成分とは何だったのでしょうか?
数年後、ある生化学者が、この食事療法の背後にある特定の要因としてナイアシンを特定しました。ナイアシンがペラグラを予防し、健康を回復する鍵であることが判明しました。
特別な才能
ナイアシンには多くの才能と役割がありますが、主なもののいくつかを以下に紹介します。
1. エネルギー源
ナイアシンは、体内のエネルギー生産チームのスター選手です。脂肪、炭水化物、特定のタンパク質は、食事を摂るとエネルギーに分解されます。これらの食品をエネルギーに変えるのが、ナイアシンの真価です。酸素の存在下で、これらの栄養素は一連の経路を通って、食べた食品をアデノシン三リン酸 (ATP) と呼ばれるエネルギーに変換します。ATP は、思考から運動まで、ほとんどすべての活動の原動力となります。
ATP は常に需要がありますが、少量しか存在せず、すぐに枯渇します。私たちが生き続けるためには、細胞が ATP を継続的に再生する必要があります。そこで、ナイアシンが真の「エネルギー源」として登場します。ニコチンアミド アデニン ジヌクレオチド (NAD) の形態をとるナイアシンは、栄養素を ATP に変換する経路で重要なエネルギー キャリアとして機能し、ATP の貯蔵量が限られているにもかかわらず、常に新鮮な供給が確保され、心拍、呼吸、思考のすべてにエネルギーを供給します。
ナイアシンがなければ、体のエネルギー生成は停止し、この栄養素は生命そのものの維持に不可欠なものとなります。
2. 神経保護剤
ナイアシンは、神経系を保護し、神経疾患と闘う可能性を示しています。前臨床試験では、 多発性硬化症 (MS)、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症 (ALS)、神経膠芽腫などの症状に効果がある可能性が示唆されています。
ナイアシンは、神経を保護し、脳の炎症を軽減するミエリンの修復を助けます。2004 年の前向き研究では、ナイアシンの摂取量が多いほど、アルツハイマー病や認知機能低下のリスクが低くなるという関連性が見つかりました。ナイアシンはまた、幹細胞から神経細胞への変化を加速し、酸化ストレス下でもこれらの細胞が生き残るのを助けます。
3. ガンと闘う
ナイアシンは、細胞のエネルギーレベルを維持し、ATP の枯渇を防ぎ、癌リスクの低減に不可欠な切除修復を増加させることで、 DNA修復を強化します。臨床試験では、ナイアシンによって皮膚癌の発生率が低下しました。癌患者の場合、ナイアシンの摂取量が多いほど生存率が高まりました。ナイアシン欠乏により DNA 修復が損なわれ、ラットモデルではゲノム不安定性や腫瘍の発達増加 (化学的に誘発された白血病のリスク増加を含む) につながる可能性があるため、ナイアシンは特定の癌の予防にも役立つ可能性があります。
また、12か月の試験の後、ナイアシンはプラセボと比較して、がん患者における前癌性日光角化症の発症率を11パーセント、扁平上皮がんの発症率を30パーセント、基底細胞がんの発症率を20パーセント効果的に減らすことが示されています。さらに、カルチノイドなどの特定のがんを患っている場合は、ナイアシンをさらに摂取する必要がある場合もあります。
その他の才能
ナイアシンは生殖ホルモンやストレス関連ホルモンの生成を助け、循環を改善し、炎症誘発性サイトカインの分泌を調節し、炎症を抑制します。
興味深い事実
厳密に言えば、ナイアシンは必須ビタミンではありません。肝臓や腸内の特定の微生物がトリプトファン（感謝祭の七面鳥を食べたの後に眠くなるアミノ酸）を使ってナイアシンを作ることができるからです。
一部の組織は第一選択療法としてナイアシンの使用を推奨していませんが、米国食品医薬品局 (FDA) は高コレステロールおよび高トリグリセリドの治療薬としてナイアシンを承認しています。ナイアシンは スタチンが発見される前の最初のコレステロール低下薬でした。
他のビタミン B とは異なり、ナイアシンは熱や光にさらされても安定しています。ほとんどの調理法に耐えられるため、調理中に食品に含まれるナイアシンが破壊される可能性は低いです。
400 種類以上の酵素がナイアシンに依存しており、ナイアシンは体の正常な機能に不可欠です。
気分、睡眠、食欲の調節を助ける神経伝達物質であるセロトニンの生成におけるナイアシンの役割に対する関心が高まっています。
ナイアシンが豊富な食べ物
ナイアシンは、鶏肉、七面鳥、牛肉、羊肉、鮭、マグロ、エビ、イワシなどのレバーや肉類に含まれています。ベジタリアンの方は、強化されていない栄養酵母、キノコ、アスパラガス、サツマイモ、ピーマン、アーモンド、ヒマワリの種、ゴマ、ナッツ、レンズ豆、エンドウ豆、豆類にナイアシンを摂取できます。ナイアシンは主に補酵素 NAD の形をしているため、肉類の方が植物よりも生物学的利用能が高くなります。
ナイアシンを豊富に含む食品の一部を以下に挙げます。これらの食品の1日の摂取量は、食品栄養委員会のナイアシンの推奨摂取量（RDA）に基づいて計算されており、成人男性では1日あたり16ミリグラム、成人女性では1日あたり14ミリグラムです。
食品の量とそれが満たす1日の摂取量の割合は次のとおりです。
- 牛レバーの煮込み（85g）：93%
- 鶏胸肉のグリル（85g）：64%
- マリナーラソース（1カップ／約240ml）：64%
- 七面鳥のロースト（85g）：63%
- 調理済み紅鮭（85g）：54%
- ツナ缶（85g）：54%
- 豚ヒレ肉のロースト（85g）：39%
- フライパンで焼いた牛ひき肉（85g）：36%
- 炊いた玄米（1膳／約180g）：33%
- ドライローストピーナッツ（28g）：26%
元気が出るチキンサラダのレシピ
時間がない？心配無用！オーガニックのロティサリーチキンを用意すれば、この食事は5分以内に完成します。ナイアシンとその補助栄養素、ビタミン B6、リボフラビン、ビタミン B1、鉄分、トリプトファン（後述）を素早く簡単に摂取できます。
材料：
- 調理済みの鶏胸肉 1カップ
- ほうれん草 2カップ
- アボカド 1/2個
- オリーブオイル大さじ1杯
- レモン汁大さじ1杯
- ひまわりの種とアーモンドスライスを一掴み
手順：
- 調理した鶏の胸肉を細かく切り、大きなボウルに入れます。
- ほうれん草と角切りアボカドを加えます。
- オリーブオイルとレモン汁をかけます。
- 上にアーモンドを散らします。
- よく混ぜて冷やしてお召し上がりください。爽やかでナイアシンたっぷりの食事になります。
吸収を最適化する方法
コーヒー、穀物、種子などの食品に含まれるナイアシンの一部は結合しているため、放出するには焙煎、発芽、発酵、アルカリ処理などの特別な処理が必要です。
コーヒー愛好家にとって、焙煎は重要です。焙煎がしっかりしているほど、ナイアシンの含有量が多くなり、カフェイン抜きのコーヒーには含有量が少なくなります。
穀物はナイアシンの優れた供給源としてよく宣伝されていますが、ここにひねりがあります。これは、穀物が発芽、発酵、アルカリ処理、または強化されている場合にのみ当てはまります。自然の状態の全粒穀物に含まれるナイアシンの約 70 パーセントは、私たちの体が簡単に吸収できない形で結合しています。
18 世紀に南アフリカ、インド、南ヨーロッパで、そして後に南北戦争後のアメリカでペラグラが大流行した原因は、トウモロコシやモロコシなどの穀物に大きく依存した食生活でした。戦後の南部では、トウモロコシ、小麦、グリッツなどの穀物に頼った食生活が主流で、ナイアシンが危険なほど不足していました。ゴールドバーガーを含む医師たちがすぐに点と点を結び付けました。ナイアシン欠乏がこれらの健康危機の中心であり、ナイアシンを豊富に含む食品を摂取することで無数の命を救える可能性があるのです。
現代科学がナイアシンの重要性を理解するずっと前から、多くの古代文化ではナイアシンを食事でより摂取する方法がすでに開発されていました。たとえば、アステカ人はトウモロコシを煮て、石灰や水酸化カルシウムを加えた水などのアルカリ溶液に浸していました。これはニシュタマライゼーションと呼ばれる方法です。他の文化では、ジュニパーアッシュや広葉樹の灰から作った灰汁などのアルカリ性物質を加えていました。
このアルカリ化処理により、結合していたナイアシンが解放され、ナイアシンの生体利用性が向上し、この技術が実践されていた南米や中米などの地域ではペラグラの予防に役立ったと考えられます。残念ながら、トウモロコシを加工するこれらの伝統的な方法が廃止されたときに、ナイアシン欠乏症がさらに広まり、ペラグラの発生につながった可能性があると考えられています。
現在、このような欠乏症を防ぐために、FDA は小麦粉やパンにナイアシンを添加し、「強化」と表示することを義務付けています。そのため、食料品店で販売されている多くのパンのラベルには、添加されたナイアシンが記載されています。
自宅で料理をしていて、全粒穀物からより多くのナイアシンを摂取したい場合は、次のコツを試してみてください。
- 生の穀物を発芽させる（または芽を出させる）。
- トウモロコシのホールフード（加工せずに利用すること）があなたの食生活の主食である場合は、ライム水で調理することを検討してください。
- パンを作るときは、膨らませるためにイースト菌や重曹を使います。
- 3 日間の発芽と 8 時間のサワードウ発酵を組み合わせます。
栄養素の補助
アミノ酸のトリプトファンは、肝臓や腸内の特定の微生物によってナイアシンに変換され、食事中のナイアシン源となります。七面鳥、卵、チーズなど、トリプトファンを豊富に含む食品を食事に取り入れることで、ナイアシンの濃度を高めることができます。
しかし、この変換プロセスは効率が悪く、ナイアシン 1 部を作るためには、約 60 部のトリプトファンが必要です。このため、ナイアシン摂取量は「ナイアシン当量（NE）」で表されます。1 ミリグラムのNEは、1 ミリグラムのナイアシン、または 60 ミリグラムのトリプトファンに相当します。
そのため、ナイアシンはビタミンB6、リボフラビン（ビタミンB2）、ビタミンB1、鉄分を含む食品と一緒に摂取することが大切です。これらの栄養素は、トリプトファンをナイアシンに変換するのを助けます。
また、ナイアシンは不飽和脂肪酸を含む食品と組み合わせるとさらに効果的です。食事に不飽和脂肪酸を加えると、トリプトファンからのナイアシン合成が促進されます。具体的には、アボカド、オリーブ、ナッツ、脂肪分の多い魚、ダークチョコレートなどが挙げられます。
このように、トリプトファンをナイアシンに変換するためには、特定の栄養素と食品を組み合わせて摂取することが重要です。
ナイアシン欠乏症
ナイアシン欠乏症は先進国ではまれですが、これは主に食事から十分な量を摂取していることと、多くの食品やマルチビタミンサプリメントにナイアシンが添加されているためです。
推奨食事摂取量
現在の RDA (男性は1日16ミリグラム、女性は1日14ミリグラム) は、欠乏症の予防に基づいています。それでも、アスリートや慢性疾患を持つ人など、高レベルの酸化ストレスに対処している人には、より多くの量を摂取することが有益である可能性があると示唆する専門家もいます。
症状と徴候
一般的なナイアシン欠乏症の症状は次のとおりです。
- うつ
- 頭痛
- 倦怠感
- 記憶喪失
- 幻覚
- 消化不良
- 口内炎
- 嘔吐
- 血行不良
- ペラグラ関連の症状
ペラグラは、皮膚炎（皮膚の炎症斑）、認知症（認知機能の低下）、下痢の「3つのD」でよく知られています。最も重篤な症状には、4つ目のD、つまり死があります。これらの症状は、通常、ナイアシン欠乏症の末期に現れます。
ペラグラ前の症状は次のとおりです。
- 脱力感と疲労感（多くの場合、最も初期に現れる症状）
- 運動不耐性
- 脱毛
- 舌の炎症と口内炎（ビタミンB2、B6、鉄分不足が原因となることがあります）
- 不安、うつ病、気分の変動
- ガス、膨満感、消化不良（これらは下痢に先行します）
- 神経障害、または手足のしびれやチクチク感（ビタミン B1、B2、B6、B12 および葉酸の欠乏はすべて神経障害を引き起こす可能性があります）
- 片頭痛のような頭痛と光過敏症
誰が危険にさらされているのか?
ナイアシン欠乏症の可能性を高める危険因子には、以下のものがあります。
- アルコール依存症（慢性的なアルコール摂取はナイアシンの吸収を妨げる）
- 食事制限（例：摂食障害や食糧不安）
- カルチノイド症候群
- 肝硬変
- 炎症性腸疾患
- ハートナップ病
- リボフラビン、ピリドキシン、鉄分の摂取不足
- 特定の薬剤
パーキンソン病患者がレボドパなどの薬を服用している場合、ナイアシン欠乏症を発症または悪化させるリスクが高くなります。レボドパは、脳内のドーパミン濃度を高めて運動症状を緩和するために、パーキンソン病患者によく処方されます。レボドパが脳に到達する前に血流中で分解されるのを防ぐため、カルビドパと併用されることがよくあります。ただし、カルビドパは、ナイアシンを自然に生成する体の能力を妨げる可能性があります。
パーキンソン病患者は全身性炎症を経験することが多く、ナイアシン濃度が低下する可能性があります。カルビドパ/レボドパなどのドーパミン作動薬を追加すると、体内の自然なナイアシン生成がさらに減少し、潜在的な欠乏が悪化する可能性があります。このため、これらの薬を服用しているパーキンソン病患者は、欠乏を避けるためにナイアシン濃度を監視する必要がある場合があります。
毒性
スタチンが発見されるまで、ナイアシンは高血中脂質レベルによく処方されていました。高用量（通常1 日1 ～ 6 グラム）のナイアシンは高密度リポタンパク質（HDL）を増加させ、低密度リポタンパク質（LDL）とトリグリセリドを低下させます。ただし、高用量は肝障害や肝不全を引き起こす可能性があり、持続放出型ではリスクが高くなります。
ナイアシンを 1 回に 50 ミリグラム以上摂取すると、皮膚への血流が増加する「ほてり」を引き起こすことがあります。ほてりは通常、頭頂部から始まり、顔が真っ赤になってから体全体に広がり、温かくチクチクする感覚を伴うことがよくあります。ほてりを避けたい場合は、ナイアシンの代替としてナイアシンアミドを服用してください。ナイアシンほどの効果はありませんが、ほてりを引き起こすことはありません。
タイミングも重要です。ナイアシンフラッシュの可能性を減らすには、食事と一緒にサプリメントを摂取し、最初は少量から始めて徐々に増やしてください。
ナイアシンをさらに高用量（1日3,000ミリグラム）で摂取すると、黄疸、腹部不快感、視力低下、高血糖（高血糖）の悪化、既存の痛風の誘発につながる可能性があります。その他のリスクとしては、胃潰瘍の形成や尿酸値の上昇があり、痛風のリスクを高める可能性があります。
また、アスピリンにアレルギーがある場合は、ナイアシンの一部に含まれるタートラジンに敏感な可能性があります。肝臓に問題がある場合や消化性潰瘍がある場合は、医療従事者に相談せずにナイアシンを摂取しないでください。妊娠中の場合は、ナイアシンのサプリメントを一切摂取しないでください。
相互作用
ナイアシンは、コレステロールを下げる薬（胆汁酸吸着薬）や痛風を治療する薬、抗生物質テトラサイクリンなどの特定の薬の効果を低下させる可能性があります。特定の抗てんかん薬（フェニトインやバルプロ酸など）や結核治療薬イソニアジドは、人によってはナイアシン欠乏症を引き起こす可能性があります。
ナイアシンのサプリメントは、体内のカルバマゼピンとミソリンのレベルを上昇させる可能性があります。また、ナイアシンは血液凝固阻止剤とアルファ遮断剤（血圧降下剤の一種）の効果を強める可能性があり、それぞれ出血と低血圧のリスクを高めます。
ナイアシンとスタチンを併用すると、心臓病の進行が遅くなる一方で、筋肉の炎症や肝臓障害のリスクが増大する可能性があります。したがって、上記のいずれかの薬を服用している場合や、定期的にアルコールを摂取している場合は、ナイアシンのサプリメントを摂取する前に必ず医療従事者に相談してください。また、ニコチン パッチをナイアシンと一緒に使用すると、ナイアシン フラッシュのリスクや重症度が増大する可能性があります。
（医学的監修：ジミー・アーモンド医学博士）
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