子どもの喘息が記憶力に影響を与える可能性:研究結果

研究結果

新たな研究によると、子どもの喘息が、認知発達に悪影響を及ぼす可能性があり、特に幼少期に発症した場合、記憶力の低下と関連していることがわかりました。

この研究は『JAMA Network Open』にて発表され、9歳から10歳の子ども約1万1,800人を対象にした「思春期脳認知発達(ABCD)研究」のデータを分析しました。その結果、12歳未満で喘息を発症した子どもは、慢性的な呼吸器疾患を持たない同年代の子どもと比較して、エピソード記憶(体験や出来事を思い出す能力)のテストで低いスコアを示しました。

この研究結果は、喘息が脳に及ぼす影響が、長期的に続く可能性を示唆しており、将来的に認知症やアルツハイマー病のリスクを高める可能性があるとしています。 

 

早期発症の喘息が認知機能低下に与える影響

喘息は慢性疾患で、気道の炎症によって呼吸が困難になる発作を引き起こします。アメリカ疾病予防管理センター(CDC)によると、アメリカでは約460万人の子どもが喘息を抱えています。

新たな研究では、特に幼少期に発症した喘息と子どもの記憶力の低下との間に「顕著な」関連があることが示唆されています。「幼少期に発症する喘息は、神経発達に特に大きな影響を与える可能性があります」と研究者たちは指摘しています。

この研究は、9~10歳の子ども2,062人を対象に、喘息がエピソード記憶やその他の認知機能に与える影響を調査したものです。エピソード記憶とは、体験や出来事、感情を記憶する能力を指し、認知機能の中でも重要な役割を果たします。

結果として、喘息のある子どもは喘息のない同年代の子どもに比べ、エピソード記憶のテストで低いスコアを示しました。また、約500人を対象にした2年間の追跡調査では、早期発症の喘息を持つ子どもは、時間が経つにつれて記憶力の発達が遅れる傾向があることが明らかになりました。

この研究は、2015年に開始された大規模な継続研究「Adolescent Brain Cognitive Development(ABCD)研究」のデータを使用しています。ABCD研究には、9~10歳の約11,800人の子どもが参加しており、保護者から子どもの喘息の有無が報告されています。研究では、喘息を持つ子どもと持たない子どもが年齢、性別、その他の健康状態を考慮して比較され、公平な分析が行われました。

「この研究は、喘息が子どもの認知機能に影響を与える可能性に注目する重要性を示しています」と、カリフォルニア大学デービス校の心理学教授であり研究の主執筆者であるシモーナ・ゲッティ氏は述べています。

 

認知に影響を与える慢性疾患の広がる影響

「喘息だけでなく、糖尿病や心臓病といった慢性疾患が子どもの認知機能に悪影響を及ぼす可能性がますます明らかになっています」と、カリフォルニア大学デービス校の心理学教授シモーナ・ゲッティ氏は述べています。「これらのリスクを悪化させる要因や、それを軽減する要因について理解することが必要です」

子ども時代は認知発達が急速に進む重要な時期ですが、喘息はこのプロセスに悪影響を与える可能性があります。「この時期は、記憶力や認知能力が大きく向上する段階です」と、研究の筆頭著者でカリフォルニア大学デービス校の心理学博士課程の学生ニコラス・クリストファー=ヘイズ氏は述べています。「しかし、喘息のある子どもでは、この発達が遅れることがあります」

研究チームは、喘息に関連する記憶力の低下が、長期的に深刻な影響を及ぼす可能性を指摘しました。過去の研究では、喘息が高齢者における認知症やアルツハイマー病のリスクを増加させる可能性が示唆されています。「喘息は、子どもが成人後に認知症などの深刻な問題を発症するリスクを高める可能性があります」とクリストファー=ヘイズ氏は述べています。

今回の研究では、喘息が記憶力に与える具体的なメカニズムは解明されていませんが、研究者たちはいくつかの可能性に着目しています。それには、喘息発作中に脳への酸素供給が繰り返し中断されることや、長期間続く炎症が含まれます。また、ゲッティ氏は、他の要因が結果に影響している可能性もあると述べています。

彼女は、喘息モデル動物を用いた過去の研究で、喘息治療に一般的に使われるコルチコステロイド(喘息の治療においては、吸入薬のような局所的に作用)海馬など記憶をつかさどる脳の部分に影響を与える可能性が示されていると説明しました。しかし、今回の研究では薬物使用の詳細な記録がなかったため、コルチコステロイドの影響や他の要因による結果かは断定できないと述べています。

ゲッティ氏は研究の結論として、「喘息を持つ子どもは、幼少期から既に記憶の困難を示している場合があり、これらの影響は成人期に突然現れるものではなく、すでに子どもの段階で現れている」と指摘しました。

がん、感染症、神経変性疾患などのトピックを取り上げ、健康と医学の分野をレポート。また、男性の骨粗鬆症のリスクに関する記事で、2020年に米国整形外科医学会が主催するMedia Orthopedic Reporting Excellenceアワードで受賞。