寒い季節に体が震えることには、思わぬ健康効果があるかもしれません。最新の研究によると、寒冷環境で体が震えることで、インスリン感受性が高まり、肥満に関係する代謝の問題を改善できる可能性があることが分かりました。
研究の内容
この研究はオランダのマーストリヒト大学メディカルセンターで行われ、2024年に発表されました。研究対象は、40~75歳の過体重または肥満の成人15人で、その中には血糖値を調整しづらい「耐糖能異常」を持つ9人が含まれていました。
研究は10日間にわたり行われ、参加者は寒冷環境に定期的にさらされて体が震える状態を経験しました。研究中は、アルコールやカフェインを摂取せず、空腹の状態で参加しました。参加者には2型糖尿病や心血管疾患がなく、全体的に健康と判断されていました。
参加者は、体温を上下させる水が循環するスーツを着用し、寒冷環境を整えました。摂氏10度の環境で1時間過ごすことで、体の震えが誘発されました。その結果、参加者の代謝機能が明らかに改善しました。
主な成果
空腹時血糖値の改善 寒冷環境に適応した結果、空腹時血糖値が3%低下。
血糖値の安定化 食後2時間後の血糖値が11%減少。耐糖能異常の改善 耐糖能異常と診断されていた参加者が、9人から5人に減少。
この研究は2021年に行われた研究の続編です。前回の研究では、寒冷環境で震えを防ぐと代謝の改善が見られなかったことが分かっています。今回は、震えを伴う寒冷適応が代謝改善に重要な役割を果たしていることを確認しました。
寒冷刺激が脂質代謝を改善
この研究では、糖代謝の改善だけでなく、脂質代謝の改善も確認しました。特に、血清トリグリセリド(中性脂肪)の濃度が大きく減少しました。1回の寒冷刺激後に17%、さらに10日間の寒冷適応後には32%も減少する結果が得られました。研究者たちは、「空腹時の血清トリグリセリド濃度の減少は臨床的に重要な意味を持つ可能性がある」と述べ、この効果に震えが関与している点を指摘しています。
また、参加者の血圧にも大きな変化が見られました。安静時の収縮期血圧が平均10 mmHg、拡張期血圧が平均7 mmHg低下しました。この血圧の低下はすべての参加者で確認され、寒冷刺激の一貫した効果を示しました。
2型糖尿病や心疾患を予防する可能性
この研究は有望な結果を示しましたが、いくつかの課題も指摘されています。例えば、対照群を設けなかった点や、寒冷刺激期間中に参加者の生活習慣を完全に管理できなかった点です。研究者たちは、「震えを伴う寒冷適応の最適な頻度、期間、強度を明らかにするためにさらなる研究が必要である」と結論づけています。
研究結果は、震えを伴う寒冷適応が過体重や肥満の成人の血糖値コントロールや心代謝リスク指標の改善に寄与する可能性を示唆しています。このことは、繰り返し行う寒冷刺激が、2型糖尿病や心血管疾患を予防する生活習慣戦略として活用できる可能性を示しています。
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