年齢を重ねると、体の変化に伴って必要な栄養素も変わってきます。健康を維持し、慢性疾患を予防するためには、こうした変化に対応したバランスの良い食事が大切です。
高齢になると、食事の量が減ってしまうことがよくあります。これは、咀嚼や飲み込みの力が弱まったり、味覚や消化機能が衰えたりすることが原因です。そのため、食事の量や質が十分でない場合が増えてきます。
不足しやすい栄養素
台湾の栄養士、黄依伶(イーリン・ホアン)氏によると、高齢者に不足しやすい栄養素として以下の4つが挙げられます。
- カルシウム
骨を強くするために必要な栄養素。牛乳や乳製品で補うのがおすすめです。
- 鉄分
貧血を防ぐために欠かせません。赤身の肉やほうれん草などが効果的です。
- 葉酸
細胞の生成を助け、健康な血液を作るために必要です。緑黄色野菜を積極的に摂ることが大切です。
- ビタミンB12
神経や血液の健康を保つために重要で、牛乳や卵に多く含まれています。
毎日の食事に取り入れたい6つの食品グループ
黄氏は、バランスの良い食事を実現するために以下の6つの食品グループを毎日摂ることを提案しています。
- 全粒穀物(玄米、全粒パンなど)
エネルギーをしっかり補給します。
- 野菜
ビタミンやミネラル、食物繊維を豊富に含みます。
- 果物
甘さだけでなく、抗酸化物質や食物繊維を摂取できます。
- タンパク質(豆類、魚、卵、肉など)
筋肉や細胞を作るのに必要不可欠です。
- 乳製品(牛乳、ヨーグルト、チーズなど)
骨や歯の健康を保つカルシウムを供給します。
- 健康的な脂肪(オリーブオイル、ナッツ、種子など)
良質な脂肪は体のエネルギー源となり、細胞を健康に保ちます。
これらを3食に分けてバランス良く摂取することが理想的です。
バランスの良い食事は、体に必要な栄養素をしっかり補うだけでなく、消化器官への負担を軽くします。また、十分な栄養を摂ることで、サルコペニア(筋肉減少症)や骨粗しょう症といった加齢に伴う病気を予防することができます。
タンパク質摂取量を増やすためのヒント
サルコペニア(筋肉減少症)を防ぐために
筋肉量や筋力の低下を引き起こすサルコペニアは、高齢者の生活の質を低下させるだけでなく、死亡リスクを高めることが研究で示されています。この主な原因は栄養不足や運動不足です。
黄依伶氏は、以下の食品をタンパク質源として勧めています。
- 豆類
- 魚
- 肉
- 卵
- 乳製品
体重1キログラムあたり1~1.5グラム(体重1ポンドあたり0.5~0.7グラム)のタンパク質摂取が目安とされており、1日で次のような量に相当します:
- 卵1個
- 牛乳1杯
- 各食事に手のひらサイズ程度の豆類、魚、または肉を追加
これらを取り入れることでサルコペニアの予防が期待でき、筋力トレーニングと併用することで筋肉増強にも効果があります。
動物性タンパク質を大量に摂ることに抵抗がある場合は、オーガニック大豆や黒豆などの植物性タンパク質が良い代替食品になります。植物性タンパク質は腎臓の健康を守り、心血管疾患のリスクを減らす可能性があるとされています。
食欲や噛む力への対応策
高齢者の中には、食欲の減退や噛む力の低下により十分なカロリーやタンパク質を摂取できない人もいます。その場合は次の方法が効果的です。
- カロリー密度の高いレシピを採用
- 水の代わりに牛乳や豆乳で卵を蒸す
- 牛乳と卵を使ったカスタードをデザートに加える
- 柔らかい食材を選ぶ
- パイナップル、パパイヤ、キウイなどの酵素を使い、肉を柔らかくする
- 鶏肉、魚介類、豆腐、枝豆、ほうれん草、さつまいもの葉、玉ねぎ、大根、ナス、トマトなど、柔らかい食感の食材を利用
噛む力が弱い場合は、義歯の使用が推奨されます。噛むことは食事を楽しむだけでなく、記憶や学習に関わる脳の海馬を刺激し、認知機能を維持する役割があるとされています。噛む力を保つことが、栄養摂取と認知機能の両方にとって重要です。
朝食のおすすめメニュー
朝食は、1日のエネルギーと栄養をしっかり補うために欠かせない食事です。2019年の研究によれば、朝食を抜くことは心血管疾患による死亡リスクの増加と関連していることが示されています。黄依伶氏は、栄養バランスの取れた朝食をとることで健康を維持できるとし、次の3つのメニューを提案しています。
1. 卵と肉または魚
- 野菜を添えて、栄養バランスをアップ。
- 牛乳1杯をプラスすると、カルシウムとタンパク質も補えます。
- 栄養価をさらに高めたい場合は、オーツ麦や雑穀パウダーを牛乳に混ぜてみましょう。
2. トーストと卵またはポークロイン(豚ロース肉)
- トーストに卵や薄切りの豚ロース肉をのせた簡単なメニュー。
- 牛乳やオーガニック豆乳を添えることで栄養価がさらに向上します。
3. グリーンスムージー
- 野菜や果物を使ったスムージーは、ビタミンやミネラルが豊富。
- 雑穀パウダーを加えると、カロリーとタンパク質をしっかり補うことができます。
これらの朝食メニューは準備も簡単で、栄養バランスを整えながら1日を元気にスタートするのに最適です。
健康を守るために見直したい食習慣
日々の食生活には、それぞれの好みが反映されますが、不健康な食習慣につながる場合があります。これらを早めに改善することで、将来の病気予防に役立ちます。以下は、よく見られる不健康な食習慣とその対策です。
1. 塩分の摂りすぎ
塩分を摂りすぎると高血圧や心臓病のリスクが高まります。実際、世界では毎年約189万人が、塩分の過剰摂取に関連する健康問題で亡くなっているとされています。
対策:
- 減塩しょうゆを使う
- 料理を食べる前に熱湯でさっとすすぐ
- 黒コショウや塩、しょうゆを少量だけ食品の表面に振りかけることで、塩分を抑えつつ風味を楽しむ
2. 揚げ物の食べすぎ
揚げ物を作る際に使用する油は、酸化して健康に悪影響を与える可能性があります。これを避けるために、揚げ物を減らして次のような調理法を試してみましょう。
対策:
- 蒸す、茹でる、焼く、煮込むなどの調理法を活用
- スープやシチューなど、油を使わない料理を選ぶ
3. 菓子類の摂りすぎ
菓子類にはトランス脂肪酸を含む油が使われることがあり、これが心臓病や糖尿病、がんのリスクを高めると言われています。
対策:
- トーストや蒸しパン、サツマイモ、赤豆スープ、緑豆スープなど、栄養価の高い代替食品を取り入れる
- 菓子類は食べ過ぎず、適度な量を心がける
4. 果物の摂りすぎ
果物は健康に良いビタミンCや抗酸化物質が含まれますが、摂りすぎには注意が必要です。果物に含まれる果糖は、摂りすぎると中性脂肪に変わり、脂肪肝や心臓病のリスクを高める可能性があります。また、果糖の代謝が尿酸値を上げ、痛風の原因になる場合もあります。
対策:
- 1日に食べる果物の量を適度に抑える
- 食後すぐに果物を摂りすぎないようにする
カロリー摂取量の管理方法
黄依伶氏は、高齢者が食事の摂取量を適切に管理するためには、体重の変化をチェックすることが重要だとしています。特に、3か月間で1~3キログラム程度の意図しない体重減少が見られた場合は、摂取カロリーが足りているかを確認する必要があります。
BMIを活用した体重管理
もう一つの有効な方法として、体格指数(BMI)の測定が挙げられます。BMIは「体重(キログラム)÷身長(メートル)の二乗」で計算される指標で、理想的な範囲は18.5~24.9とされています。研究によると、BMIがこの範囲を外れると死亡率が高くなる傾向があることが示されています。
- 低すぎるBMI(低体重)は筋肉や栄養不足の可能性があり、健康リスクを高めます。
- 高すぎるBMI(過体重)は心血管疾患などのリスクを増やす原因となります。
高齢者の体重管理のポイント
黄氏は、加齢に伴う体重管理について次のように述べています。
- 筋肉量を増やし、脂肪を減らすことに重点を置く
高齢者の場合、体重が減少している場合は筋肉量や骨密度が低下している可能性が高いです。体重を減らすことを目標にするのではなく、健康的な筋肉を維持することが大切です。
- 低カロリー食や食事制限だけに頼らない
50歳を過ぎたら、単にカロリーを減らす方法ではなく、栄養バランスを考えた食事が必要です。筋肉量を保つために、十分なタンパク質を摂ることも意識する必要があります。
日々の小さな工夫が、健康的な生活につながります。まずはできることから始めてみましょう!
(翻訳編集 華山律)
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