質の良い睡眠を得るためには、さまざまな要因が関係しています。その中でも「栄養」は重要なポイントの1つです。台湾統合機能医学教育センターの創設者で栄養士の何翰怡(ホー・ハンイー)氏は、NTDTVの番組「健康1+1」のインタビューで、日常の食事を通じてメラトニンの分泌を促進し、睡眠の質を向上させる方法について解説しました。
メラトニンは「睡眠ホルモン」として知られ、私たちの睡眠と覚醒のリズムを調整する重要な役割を果たします。このホルモンの分泌は、環境の光の強さと密接に関連しています。夜間に光が少なくなると、脳の松果体からメラトニンが分泌され、眠りにつきやすくなります。一方で、朝になると光が強まり、メラトニンの分泌が減少して目覚めやすくなる仕組みです。
メラトニンを増やす方法
質の良い睡眠を得るために、メラトニンの分泌を促進する2つの方法をご紹介します。
1. 日光浴
日中に日光を浴びることは、ビタミンDの合成を助けるだけでなく、メラトニンの合成にも重要です。目が太陽光を感じると、その情報が脳に伝わり、生体リズム(サーカディアンリズム)が調整されます。日中に脳でセロトニンが合成され、夜間にはこれがメラトニンへと変換される仕組みです。
栄養士の何翰怡氏によれば、日光浴では屋外で直接日光を浴びることが重要です。室内の光や窓越しの日光では強度が不十分なため、できるだけ外に出るよう心がけましょう。また、長い昼寝(30分以上)を避け、昼寝をする場合は午後2時までに済ませるのが理想的とされています。
2. 栄養
何氏は、毎日同じ時間に食事をとり、一定の量を守ることで生体リズムが整いやすくなると指摘しています。この習慣により日中のエネルギーが保たれ、夜には自然に疲れて眠りにつきやすくなります。
以下の栄養素がメラトニンの合成をサポートします。
トリプトファン
トリプトファンは、セロトニンの合成とメラトニンへの変換に必要なアミノ酸です。七面鳥の肉、豚肉、魚、かぼちゃの種、牛乳、大豆、穀物など、タンパク質を多く含む食品に含まれています。
ビタミンB群
ビタミンB群(葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12)は、セロトニンとメラトニンの合成に関与します。
ビタミンD
ビタミンDは、メラトニンの合成を助けるだけでなく、気分調整や免疫機能、睡眠の質にも関連しています。研究では、ビタミンDが不足すると睡眠の質が低下する可能性があることが示されています。何氏は、ビタミンDの状態を確認するために検査を受けることを勧めています。
メラトニンと腸の深い関係
かつては、メラトニンは主に脳の松果体から分泌されると考えられていました。しかし、近年の研究によると、腸でも大量のメラトニンが合成されていることが明らかになりました。腸内で生成されるメラトニンの量は、松果体の400倍にも達するのです。
メラトニンは、腸の蠕動運動(ぜんどううんどう)や消化機能を調整する重要な役割を果たしています。また、腸と脳は「腸脳軸」と呼ばれる密接なつながりを持っています。体内のメラトニンが不足すると、気分や睡眠だけでなく、腸の運動や消化機能にも影響を及ぼす可能性があります。
GABA(ギャバ) 睡眠をサポートする栄養素
メラトニンに加えて、栄養士の何翰怡氏は「γ-アミノ酪酸(GABA)」という睡眠を助ける栄養素にも注目しています。GABAは抑制性の神経伝達物質で、神経の興奮を抑えることで身体と心をリラックスさせる効果があります。
GABAは味噌、キムチ、ピクルスといった発酵食品のほか、大豆、トマト、緑茶にも含まれています。特に、冷水で抽出した緑茶はカフェインの含有量が少なく、GABAやテアニンの抽出量が多いため、リラックス効果が高いとされています。
GABAとメラトニンの比較
睡眠に問題がある場合、GABAとメラトニンのどちらを補充するのが良いのでしょうか? 栄養士の何翰怡氏によると、これらはそれぞれ異なるタイプの不眠症に適しており、状況に応じて選ぶことが大切です。
1. メラトニン
メラトニンサプリメントは、主に時差ぼけの解消や入眠をサポートするために使用されます。例えば、旅行による時差ぼけや、仕事や勉強で睡眠・覚醒サイクルが乱れ、通常の時間に眠るのが難しい場合に効果が期待できます。メラトニンを補充することで、スムーズな入眠を助けます。
また、自閉症や注意欠陥・多動性障害(ADHD)の子供は、入眠に困難を抱えることがよくあります。このような場合には、精神科医の評価を受けた上で、医師の指導のもとメラトニンや他の薬の使用が推奨されます。
2. GABA
GABAの補充は、リラックスできないことが原因で不眠に悩む人に向いています。特に、自律神経のバランスが崩れ、交感神経が過剰に活発で副交感神経が低下している場合に効果的です。
神経質で考えすぎてリラックスできない人や、以下のような睡眠の悩みを持つ人におすすめです。
- 入眠が難しい
- 眠りが浅い
- 夜中に目が覚めやすい
- 夢を見ることが多い
これらの症状がある場合、GABAの補充が睡眠の質を改善する手助けとなる可能性があります。
牛乳とバナナで睡眠をサポート
寝る前に牛乳を飲む習慣がある人も多いですが、牛乳はトリプトファンを豊富に含む食品です。研究では、トリプトファンが豊富な乳製品を夜に摂取すると、翌朝の目覚めが良くなる可能性が示されています。
ただし、栄養士の何翰怡氏によれば、睡眠促進効果を得るには約2カップの牛乳が必要です。しかし、多量の水分を摂取すると夜間頻尿を引き起こし、睡眠の質が低下することがあります。
一方で、バナナはトリプトファンの量は少ないものの、リラックスを促す糖分が豊富に含まれています。多くの人が寝る前にバナナを食べることで、心身ともに落ち着き、眠りにつきやすくなると感じています。
カルシウムとマグネシウムも睡眠を促進
カルシウム不足は不眠の一因とされており、牛乳はカルシウムの優れた供給源です。しかし、夜間頻尿が気になる場合は、他のカルシウムサプリメントや食品を活用するのもおすすめです。
マグネシウムもまた神経や筋肉をリラックスさせる効果があり、睡眠の質を向上させます。マグネシウムは、ナッツ、チョコレート、豆類、アボカドなどの食品から摂取することができます。
夕食の炭水化物が眠りを助ける
夕食は睡眠の質に大きく影響します。夕食、入浴、就寝のスケジュールを整え、夕食では適度な炭水化物を摂取するように心がけましょう。研究によると、寝る4時間前に高GI値(血糖指数)の炭水化物を摂取すると、眠りにつくまでの時間が短くなることが分かっています。これは、炭水化物の摂取がトリプトファンを脳に届け、セロトニン生成を助けるためとされています。
就寝前に空腹を感じる場合は、おにぎり、パン、シリアルなど消化しやすい炭水化物を少量摂るのがおすすめです。ただし、肉や揚げ物、焼き物などの消化に時間がかかる食品は避けるべきです。これらは胃腸に負担をかけ、睡眠の質を低下させる可能性があります。
(翻訳編集 華山律)
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