昔ながらの牛脂が今注目されるワケ

最近、ビーフタロー(牛脂・ウシまたはヒツジの脂肪組織からレンダリング法、加熱して脂肪を融出させたもの)の健康効果をうたう広告やインフルエンサーの投稿が、ソーシャルメディアで話題になっています。肌の改善やの健康回復など、さまざまな効果が期待できるとされています。

この話題がさらに注目されたのは、ドナルド・トランプ氏が選挙活動中にペンシルベニア州のマクドナルドを訪問したことです。マクドナルドはかつて、フライドポテトの調理にビーフタローを使用していたことで知られており、この出来事を機にビーフタローが再び注目を集めました。

一方で、この行動はトランプ氏が掲げた「アメリカを再び健康に」というスローガンと矛盾していると批判されました。このスローガンは、ロバート・F・ケネディ・ジュニア氏がトランプ氏の選挙活動に参加した際に採用されたものです。

ケネディ氏はX(旧Twitter)の投稿で、「アメリカ人が外食を楽しむ際、健康を害する心配をせずに済む社会を目指すべきだ」と述べ、ビーフタローへの注目を促しました。

「夜にハンバーガーやフライを楽しむことは悪いことではありません。補助金に支えられた植物油が原因で健康を害するのではなく、より安全な揚げ油としてビーフタローを選ぶべき時が来ています」と彼は投稿しています。

では、ビーフタローとは一体何なのか? なぜ一時的に姿を消し、今再び注目されているのでしょうか?

ビーフタローとは?

ビーフタローとは、牛の脂肪を加熱して精製したものです。同じ動物性脂肪としては、豚の脂肪で作られる「ラード」がありますが、ラードは柔らかくてマイルドな風味で、主に焼き菓子などに使われることが多いです。一方、ビーフタローは肉の風味がやや強く、揚げ物や石鹸、キャンドルの材料として広く利用されています。また、鹿や羊、バイソンの脂肪から作られることもあります。

かつて、ビーフタローは植物油やショートニング(例:クリスコ)が普及する前の主流の油脂でした。しかし、これらの手軽で安価な代用品が市場に出回るようになると、ビーフタローの利用は減少していきました。

ビーフタローの特徴のひとつは、高い発煙点です。ビーフタローの発煙点は約232℃(華氏450度)と高く、この特性から、1990年頃までマクドナルドなど多くのファストフードチェーンでフライドポテトなどの揚げ物に使われていました。これはシカゴ・トリビューンの報道でも指摘されています。

さらに、ビーフタローには保存性が高いという利点があります。また、牛一頭を無駄なく使える方法としても評価されています。こうした実践は、廃棄物を減らし、家畜の命を尊重する取り組みの一環とも言えます。数世代前までは、農家にとってビーフタローを活用することは一般的でしたが、工業化が進むにつれて次第に減少していきました。
 

飽和脂肪酸への懸念

ビーフタローは主にトリグリセリド(中性脂肪)で構成されており、そのおよそ半分が飽和脂肪酸です。このため、1950年代には飽和脂肪酸が心臓病の原因と見なされ、ビーフタローは家庭から姿を消しました。

加工食品や包装食品が広く普及すると、動物性脂肪の使用が減少し、代わりに大量生産と流通に適した植物油が主流になりました。この時期、心臓病の発症率が増加し、1960年代半ばにピークを迎えました。医師たちは、トリグリセリド値の上昇が心臓発作の原因であると警告していました。

しかし近年、多くの健康専門家は、飽和脂肪酸そのものが健康に悪いわけではないと主張しています。むしろ、高度に加工された食品や包装食品がトリグリセリド値を上昇させ、代謝異常や心臓病脂肪肝などの慢性疾患を引き起こす一因だと考えられています。

ロチェスター大学メディカルセンターによれば、「炭水化物を多く摂取すると、肝臓がトリグリセリドを生成する量が増える」とされています。

また、ニューヨークタイムズのベストセラー『The Big Fat Surprise』の著者ニーナ・タイショルズ氏は、低脂肪ダイエットが広まった背景として、アメリカ食品医薬品局(FDA)が乳製品や卵、赤身肉などの高脂肪食品を制限するよう推奨したことを挙げています。その結果、人々の炭水化物摂取量が増え、食品メーカーは脂肪を減らした食品を美味しくするために砂糖を多く使用するようになりました。タイショルズ氏は、こうした食生活の変化にもかかわらず、心臓病の発症率がほとんど変わらなかったことを指摘しています。それでもなお、FDAのガイドラインは修正されず、現在も赤身肉の摂取を減らすよう推奨されています。

さらに、飽和脂肪酸は他の脂肪よりも善玉コレステロール(HDL)を増加させ、悪玉コレステロール(LDL)の有害な影響を和らげる可能性があるとされています。

一方で、飽和脂肪酸の代替として使われるようになったトランス脂肪酸には注意が必要です。トランス脂肪酸は、植物油に水素を加えて固体にする工業的プロセスで作られます。この「部分水素化油」は安価で腐りにくい特徴があるため、長持ちする食品の製造に広く使用されてきました。しかし、トランス脂肪酸はLDLコレステロールを飽和脂肪酸以上に増加させ、HDLコレステロールを減少させるため、健康への悪影響が大きいとされています。

 

心臓病との関連

これまで、医師たちは悪玉コレステロール(LDL)が血管壁に蓄積してプラーク(動脈硬化の原因物質)を形成し、それが心臓病や脳卒中などの健康問題を引き起こすと説明してきました。

しかし、一部の医師はこの従来の考え方に異議を唱えています。

「LDLは冠動脈疾患の主な原因ではありません」と、糖尿病や高血圧などの慢性疾患を専門とする腎臓専門医、リチャード・アマーリング医師は エポックタイムズに語っています。

冠動脈疾患を引き起こす最大の要因はインスリン抵抗性であるとされています。インスリンは膵臓から分泌されるホルモンで、細胞がエネルギーとしてグルコースを利用できるようにする役割を果たします。しかし、細胞がインスリンを効率よく取り込めなくなると、膵臓はさらに多くのインスリンを分泌しようとします。これが続くと膵臓が対応しきれなくなり、結果として血糖値が上昇します。インスリン抵抗性の正確な原因は明らかではありませんが、過体重や運動不足との関連が指摘されています。

また、ある研究では、ビーフタローを与えられたラットの肝臓では、植物油(大豆油)を与えられたラットよりも脂肪の蓄積が少なかったことが確認されています。さらに、血清脂質(血中の脂肪)の構成は、食事中の脂肪の種類に大きく影響されないことも示されました。この結果は、食事で摂取した脂肪が必ずしも体脂肪の増加につながるわけではないことを示唆しています。

 

ビーフタローと他の調理油の違い

アマーリング医師は、ビーフタローが万能薬ではないことを強調し、健康的な食事計画の一環として取り入れるべきだと述べています。また、植物油を排除し、ビーフタローやベーコン脂、ラードなどに置き換えることを推奨しています。これらの脂肪は風味を加える効果もあり、マクドナルドのフライドポテトを再びビーフタローで調理するべきだというケネディ氏の意見に共感を示しました。

化学的観点から見ると、ビーフタローに含まれる飽和脂肪酸は、植物油に多く含まれる不飽和脂肪酸よりも安定しています。不飽和脂肪酸は二重結合を多く持つため、酸化しやすく、特に加熱時には有害な化合物に変わりやすいとアマーリング医師は説明しています。

植物油はフライヤー内で数日間使用されることが一般的ですが、アマーリング医師はこれについて「非常に有害な物質です」と警告しています。

さらに、彼はエネルギー源として炭水化物ではなく脂肪を使用する方が効率的であると主張しています。

「脂肪は非常に効率的なエネルギー源です。ATP(細胞のエネルギー源となる分子)をより多く得られ、二酸化炭素の排出量も大幅に少なくなります」と述べています。

また、炭水化物ではなく脂肪を燃料とすることで、体内の酸塩基バランスが整い、体が酸性になりにくくなるとも説明しています。

 

動物性脂肪のその他の利点

CNY Fertilityの創設者兼ディレクターであるロバート・キルツ医師は、肉食中心の食事を取り入れ、自身のがんの診断を克服したと考えています。

「タロー、ラード、ギー、バターを食事に取り入れることは、人間の健康にとって非常に重要です。そして、食事の回数を減らすことで、より良い体調を実感できるでしょう」と彼は エポックタイムズに語っています。

食事の回数を減らすことは、高脂肪の食事と特に相性が良いようです。腸の健康や慢性疾患、体重管理を専門とする管理栄養士のレナ・バコビッチ氏によれば、脂肪は満腹感を促進し、過食を防ぐ助けとなるとされています。

ビーフタローが満腹感を与える理由として、脂溶性ビタミン(ビタミンA、D、K、B1)が豊富に含まれている点が挙げられます。これらのビタミンは免疫機能のサポート、血液凝固、視力、骨の健康など、全体的な健康を支える役割を果たしますと、バコビッチ氏は述べています。

アマーリング医師とキルツ医師は、動物由来の食品が何世紀にもわたって健康的な食事の一部であり、現在の健康問題の原因ではないと指摘しています。

「人類は牛肉、あるいは少なくとも赤身の脂肪が豊富な肉を食べることで進化してきた可能性があります。このような食品は抗炎症作用を持ち、腸内の有害な微生物を排除します」とキルツ医師は述べています。

さらに、ビーフタローには不飽和脂肪酸の一種である共役リノール酸(CLA)が含まれており、動脈硬化性疾患の進行を予防する効果があることが研究されています。

ただし、バコビッチ氏は、ビーフタローの過剰摂取には注意が必要であると警告しています。ビーフタローは飽和脂肪酸を多く含むため、特に高脂血症、高血圧、糖尿病、心血管疾患を抱える人は注意が必要です。

飽和脂肪酸の過剰摂取が炎症を引き起こし、心血管疾患のリスクを高めるという見解については議論が続いていますが、科学界では依然として広く受け入れられています。また、吸収不良症炎症性腸疾患などの特定の病状を持つ人には、低脂肪の食事が必要な場合もあります。

 

ビーフタローのその他の用途

ビーフタローは料理以外にもスキンケア製品の成分として利用されています。高い保湿効果があり、ビタミンEが豊富で、細胞をフリーラジカルによるダメージから保護する働きがあります。また、炎症を軽減し、抗菌作用によって感染のリスクを低下させる可能性もあります。

(翻訳編集 華山律)