心の持ち方が体重を左右する? 驚きの研究結果

私たちが食べ物についてどのように感じ、考えるかは、体の反応を大きく左右します。

例えば、実際には低カロリーの食事をとっているにもかかわらず、それを「高カロリー」と知らされると、体があたかも高カロリーの食事を摂ったかのように反応する場合があります。これが「の力」です。

こうした認識は、私たちの代謝にも影響を与える可能性があります。

ミルクセーキの研究

2011年、イェール大学の研究者アリア・J・クラム氏らが、健康心理学の一環として興味深い実験を行いました。この研究では、46人の参加者に同じ380カロリーのミルクセーキを提供しましたが、そのラベルには意図的に異なる情報が記載されていました。

1つのグループには、「贅沢な一品」として620カロリーと表示されたミルクセーキを提供しました。一方、もう1つのグループには「健康的」として140カロリーと表示されたミルクセーキを提供しました。

参加者はミルクセーキを飲む前後に、血液中の「空腹ホルモン」であるグレリンの量を測定されました。また、飲み物の健康度に対する認識も記録されました。

結果として、「贅沢な一品」とラベル付けされたグループは、そのミルクセーキを飲んだ後、グレリンのレベルが急激に低下しました。一方、「健康的」とラベル付けされたグループでは、グレリンの変化はほとんど見られませんでした。この違いは、両グループが同じミルクセーキを飲んでいたにもかかわらず生じたものです。

さらに、「贅沢な一品」と記載されたグループは、飲み物を健康的でないと評価したのに対し、「健康的」と記載されたグループは、飲み物をより健康的だと認識しました。

2つのグループが、同じ材料で作られたミルクシェイクを飲みましたが、ラベルに記載されたカロリー情報が異なっていました。「620カロリー」と記載されたグループは、グレリン(空腹感を表すホルモン)の減少がより急激でした。一方、「140カロリー」と記載されたグループでは、グレリンの減少が比較的緩やかでした(満腹感が少ない状態を示す)(大紀元)

 

グレリンは空腹を感じるときにから血流中に放出されるホルモンです。一方で、満腹感を伝えるホルモンであるレプチンは脂肪細胞から放出されます。これら2つのホルモンが視床下部に働きかけることで、空腹と満腹の感覚を調節し、エネルギーバランスや体調を維持する仕組みが成り立っています。

グレリンは腸から血流に放出され、空腹を伝えるホルモンです。一方、レプチンは脂肪細胞から放出され、満腹感を伝えるホルモンです(大紀元)

 

コミュニケーションの乱れ

肥満の人では、食事後にグレリンのレベルが十分に下がらず、さらにレプチン抵抗性が生じるため、が満腹感の信号を正しく受け取れなくなります。

過食が続くと、レプチンの高いレベルが持続し、脳が体の本当の必要に適切に反応しなくなる「抵抗性」の状態を引き起こします。その結果、肥満の状態ではレプチンの働きが効果を失い、エネルギーバランスの調整が困難になるのです。

つまり、食事や満腹感に関して、腸と脳の間の重要なつながりが損なわれている可能性があります。

 

ホルモンを使った試み

グレリンが発見されて以来、科学者たちはこのホルモンの経路をターゲットにした治療法の開発に取り組んできました。しかし、脳の報酬系に悪影響を及ぼす可能性があるため、これまで大きな成功には至っていません

一方、体重減少を目指した研究では「グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)」という別のホルモンが注目されています。GLP-1は食事後に放出され、食欲の抑制や体重の調節に関与する重要な役割を果たします。

GLP-1受容体作動薬(GLP-1 RA)を使った治療法、例えば「Wegovy」のような薬剤は、体重を5~10%減らしたいと考える人々に効果的であるとされています。しかし、副作用が報告されており、特に妊娠中の人、重度の胃運動障害(胃排出遅延)のある人、炎症性腸疾患を抱える人には使用が禁忌とされています。また、長期使用における甲状腺がんのリスクが懸念され、アメリカ食品医薬品局(FDA)は「ブラックボックス警告」を発しています。

薬以外で、腸と脳の間の問題を解決する方法はあるのでしょうか? さらなる研究が期待されています。

 

マインドフルネスが全体的な改善をもたらす

2020年、メキシコの研究者たちは、肥満と不安を抱える45人の学童を対象に、8週間にわたるマインドフルネスに基づく介入が体重、食欲調整ホルモン、ストレスに与える影響を調査しました。

研究では、参加者を2つのグループに分けました。1つのグループには従来型の栄養指導(食事療法)が行われ、もう1つのグループにはマインドフルネスを取り入れた介入が行われました。マインドフルネス介入では、体への気づきを高め、食事に対する意識を深め、感情を理解することを重視しました。

研究開始時点では、両グループの子供たちは、体脂肪率、グレリンやレプチンのレベル、その他の健康指標においてほぼ同じ状態でした。

8週間後、マインドフルネスグループの子供たちは、不安と体脂肪が減少し、グレリンやストレスホルモンのレベルも低下しました。さらに、16週間後にはBMI(体格指数)の持続的な減少が確認されました。

8週間のマインドフルネス訓練の後、マインドフルネスグループの子供たちは、通常の栄養指導を受けた子供たちと比べて、グレリンやストレスホルモンが大幅に減少しました(大紀元)

 

一方、従来型の栄養指導を受けたグループでは、グレリンのレベルが上昇し、BMIの減少もより緩やかなものでした。

この研究結果は、マインドフルネスが腸と脳をつなぐ正常な仕組みを回復させる可能性を示しています。特に、グレリンとレプチンという2つの重要なホルモンを介して、体重減少や全体的な健康改善を促進する助けとなることが明らかになりました。

 

食べるものが好みを変える

私たちの心が体内の分子反応に影響を与えるように、私たちの体の行動も心を再構築することがあります。特に、特定の刺激を繰り返すことで、味や香りに対する好みが変わることが多くの研究で示されています。食品やフレーバーの分野では、この効果が特に顕著です。

イェール大学の研究者たちは、高脂肪・高糖分のヨーグルトを食べるよう指示された人々が、低脂肪のプリンや低糖のリンゴジュースを以前ほど好まなくなる現象を観察しました。この結果から、食べ物の好みは「接触経験」に基づいて形成されることが分かっています。この経験効果を活用すれば、食べ物との関係を改善できる可能性があります。

2012年の研究では、塩を加えないニンジンとコリアンダーのスープを定期的に摂取することで、最終的には塩味の強いバージョンと同じくらい塩を加えないスープが好まれるようになることが示されました。

この研究では、塩分濃度が異なる6種類のスープ(0~337ミリグラムのナトリウム/ミリリットル)を使用し、参加者はスープの味の好み、塩辛さ、親しみやすさについて初期評価を行いました。その後、37人の参加者が3つのグループに分けられました。

塩を加えないスープを少量(20ミリリットル)試食するグループと、同じ無塩スープを大きなボウル(280ミリリットル)で提供されるグループ。そして、塩が280ミリグラム/100グラム加えられたスープを少量(20ミリリットル)試食するグループです。

すべてのグループは、8日間毎日スープを1回食べ、その後再び無塩スープの評価を行いました。

結果として、無塩スープを20mlずつ3日間食べた参加者は、スープの好みが27%増加しました。一方、280mlずつ5日間食べた参加者は好みが50%増加しました。また、無塩スープに対する「親しみやすさ」も同様に向上しました。

これらの結果は、無塩スープを繰り返し味わうだけで、塩味のあるスープと同じくらい楽しめるようになり、親しみも感じられるようになることを示しています。

2012年の研究によると、塩を加えていないスープが嫌いだった人々も、何度も食べるうちに好むようになったことが示されました(大紀元)

 

もし加工食品に慣れてしまっている場合でも、自然食品を楽しむために自分を訓練することが可能です。このような食品を食べれば食べるほど、さらに好きになっていくのです。

 

食と心のつながり

私たちの体の仕組みは、単なる個々の好みにとどまりません。それは、体内の数百万の細胞や腸、脳が複雑に連携し、私たちの食の選択や食べ物に対する考え方、心構えまでも統合した総合的なシステムです。

例えるなら、それは交響楽団のようなものです。各楽器がそれぞれ重要な役割を果たしながらも、指揮者の指示のもとで調和し、美しいハーモニーを奏でます。同じように、心と体が細胞や分子レベルで統合されることで、最適な健康という「ハーモニー」が生まれるのです。

効果的な解決策は、必ずしも複雑である必要はありません。むしろ、シンプルで身近な方法がしばしば答えとなります。柔軟な思考を持ち、自分自身の健康という「失われた指揮者」と再びつながる準備を整えることが大切です。

 

この記事で述べられている意見は著者の意見であり、必ずしもエポックタイムズの意見を反映するものではありません。エポックヘルスは、専門的な議論や友好的な討論を歓迎します。

(翻訳編集 華山律)

エポックタイムズのシニアメディカルコラムニスト。中国の北京大学で感染症を専攻し、医学博士と感染症学の博士号を取得。2010年から2017年まで、スイスの製薬大手ノバルティスファーマで上級医科学専門家および医薬品安全性監視のトップを務めた。その間4度の企業賞を受賞している。ウイルス学、免疫学、腫瘍学、神経学、眼科学での前臨床研究の経験を持ち、感染症や内科での臨床経験を持つ。