最新の研究により、現代の加工食品を多く摂取することで、大腸がんの進行を助長することが示されました。この研究では、食事の選択が体内の炎症プロセスに与える影響を明らかにし、炎症が腫瘍の発生を促す一因になると指摘しています。
医学誌『Gut』で発表された研究では、大腸がん(CRC)における慢性的な炎症が、腫瘍内に多く含まれる「炎症を促進するオメガ6脂肪酸」と、それを中和する「抗炎症作用を持つオメガ3脂肪酸」の不足によって引き起こされました。このバランスの乱れが体の自然な回復を妨げ、大腸がんの進行を促すと考えられています。
オメガ6脂肪酸(炎症促進性)とオメガ3脂肪酸(抗炎症性)は、どちらも食事から摂取する必要があります。しかし、超加工食品にはオメガ6脂肪酸が多く含まれており、現代の食生活では摂取量が偏る傾向があります。
「現時点では因果関係が証明されたわけではなく、関連性に過ぎませんが、オメガ6を多く含む食事が、体内や腫瘍内の酵素によって炎症を引き起こす脂肪酸を多く作り出しています」と述べたのは、今回の研究の共同執筆者であるティモシー・イートマン博士(南フロリダ大学モルサニ医学部外科教授、タンパ総合病院がん研究所のトランスレーショナル研究とイノベーション副所長)です。
食事ががんリスクを左右する
南フロリダ大学(USF)とタンパ総合病院がん研究所(TGH)の科学者たちが行った今回の研究では、大腸がん(CRC)における脂肪や脂肪代謝に関連する遺伝子の役割を調査しました。研究チームは、大腸がんの腫瘍組織と健康な組織の81組を比較し、脂肪が体内でどのように生成・分解され、それが炎症やがんの進行にどのように影響するかを分析しました。
その結果、リノール酸(LA)やアラキドン酸(AA)といった炎症を促進するオメガ6脂肪酸の高濃度が、大腸がんの進行を助長していることが分かりました。この研究は、オメガ6脂肪酸を多く含む食事が体内の炎症を強め、それががんの成長を促す可能性を示唆しています。
オメガ6脂肪酸の役割
超加工食品や植物油に多く含まれるリノール酸(LA)の過剰摂取は、体内でアラキドン酸(AA)の過剰生成を引き起こします。このアラキドン酸は、炎症を引き起こす分子の前駆体となり、炎症を悪化させ、腫瘍の成長を促進します。イートマン博士は「体内でこれらのオメガ6脂肪酸が分解されると、ロイコトリエンという炎症性分子が生成されます。そして、私たちは腫瘍内でこれを確認しました」と述べています。
ロイコトリエンは免疫細胞を活性化し、炎症を増幅させることで組織を損傷させ、大腸がんの腫瘍が成長しやすい環境を作り出します。さらに、超加工食品には以下のような食品が含まれており、これらがオメガ6脂肪酸の主要な供給源となります。
- ソーセージやホットドッグ
- ポテトチップス
- 加糖飲料やアルコール飲料
- 大量生産されたパンや調味料
- アイスクリーム
炎症と食事の強い関係性
健康な組織では、体は「リピッドクラススイッチング」と呼ばれるプロセスを通じて、炎症から回復へと移行します。このプロセスでは、炎症を促進する分子が抗炎症性の脂肪酸(例えばプロスタグランジン)に変換され、組織修復を促す信号を送ります。
しかし、プロスタグランジンの量が不足している、またはその機能が低下している場合、この「クラススイッチング」が正常に行われず、炎症が解消されないまま残ります。さらに、プロスタグランジンはオメガ6脂肪酸の炎症性のロイコトリエン(脂肪酸代謝によって生成される生理活性脂質)の変換を防ぐ働きも担っています。
研究チームは、大腸がん(CRC)の腫瘍が過剰な炎症促進分子を生成する一方で、炎症を解消するために必要なプロスタグランジンのレベルが70%も低下していることを確認しました。この欠乏により、リピッドクラススイッチングが正常に機能せず、腫瘍の成長と生存を助長する環境が維持されてしまいます。
慢性炎症は、免疫抑制を促す微小環境を作り出します。この環境によって遺伝子変異は解消せずに蓄積し、最終的にがんとして発現するとイートマン博士は述べています。
「1950年代頃から数十年の間に、体脂肪内のオメガ6脂肪酸の量が劇的に増加していることが分かっています」とイートマン博士は語ります。「では、何が変わったのでしょうか? 主に超加工食品の増加と、大規模な農業による安価な食品生産の進展です。その結果、オリーブオイルやアボカドオイルといった炎症を抑える油の代わりに、安価な種子油が使われるようになりました」
問題となる免疫細胞
今回の研究では、腫瘍内で炎症を促進する特殊な白血球を観察しました。この白血球は、大腸がんの主要な要因であることを確認しています。これらの免疫細胞は本来、腫瘍を攻撃してがん細胞を排除する役割を果たしますが、逆に腫瘍の成長を助ける方向へと変化してしまいます。
イートマン博士は、この免疫細胞の行動が他のがんでも観察されると述べています。「同じプロセスが心臓病、糖尿病、アルツハイマー病にも関与している可能性があります」と彼は付け加えました。
どのような対策が可能か?
イートマン博士は、食事に注意を払い、成分ラベルを確認する習慣を持つことの重要性を指摘しています。
「この研究結果は、私たちの食生活の中で何が腫瘍形成リスクを高めているのかをさらに調査する必要性を強調しています」と、ハーバード医科大学の医学講師でマサチューセッツ総合病院の主治医であるラージ・メータ博士(今回の研究には参加していない)は述べています。「予防が鍵です。患者に対して『どの食品を避けるべきか、そしてその理由』をより具体的に伝える方法が求められています」
「これまでの数百の研究は、食事と大腸がんリスクの関連を示しており、この関係には腸内に存在する数兆個の細菌(マイクロバイオーム)が関与していると考えられます」
保存料や人工甘味料が腸内細菌に与える影響については、まだ解明されていない点が多くあります。しかし、イートマン博士は、腸内のマイクロバイオームが脂肪を処理し、それを異なる化合物に変換するため、がんの発生において重要な役割を果たしていると指摘しています。
「現在、私たちの体内にはオメガ6脂肪酸の一種であるアラキドン酸が過剰に蓄積している」と彼は述べます。オメガ6脂肪酸は必須脂肪酸であり、悪い成分というわけではありませんが、「過剰摂取は良くない」と強調しています。彼は、オメガ3脂肪酸との「1対1のバランス」を意識することが重要だと述べています。
今回の研究では、炎症を自然に治療する「解消医学(リゾルブメディスン)」の概念も紹介されています。このアプローチは、自然由来の成分がリピッドクラススイッチングを誘導し、炎症を抑える働きを持つという考えに基づいています。
さらに、従来の治療法に加えて、新たな治療法の可能性も示されています。具体的には、以下のアプローチが含まれます。
- フランキンセンス(乳香)やCBDオイル、セラスロールなどの自然由来の成分を利用して代謝の変化を促す「リゾルビン療法」
- 炎症促進経路を変えるための遺伝子ターゲティング
- 腫瘍微小環境を再プログラムし、抗炎症反応を強化する治療
(翻訳編集 華山律)
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