甲状腺治療の思わぬ副作用? 骨密度低下の可能性を検証

米国のジョンズ・ホプキンス大学(JHU)医学部の最近の研究によると、高齢者に最も頻繁に処方されるの一つである低甲状腺機能症(甲状腺ホルモン不足)の治療薬「レボチロキシン」が、密度低下のリスクを高める可能性があることが明らかになりました。低甲状腺機能症とは、甲状腺が十分なホルモンを産生できない状態を指します。

しかし、慢性疲労症候群の専門家として全国的に知られる認定内科医のジェイコブ・タイテルバウム博士は、この研究結果に異議を唱えています。同氏は「エポックタイムズ」に送ったメールで、この研究は誤解を招くものであり、命を危険にさらす可能性があると主張しました。

タイテルバウム博士は、がんやその他の理由で甲状腺を摘出した人々は、生涯にわたって甲状腺ホルモンの処方薬を服用する必要があると説明しています。一方で、甲状腺ホルモンを改善するための自然療法も、多くの人々にとって合理的な選択肢になり得ると述べています。

誤解を招く研究結果?

レボチロキシンと骨密度低下の関連を指摘した今回の研究結果は、多くの人にとって衝撃的でした。北米放射線学会(Radiological Society of North America)のプレスリリースによれば、米国では約7%の人が毎日この薬を服用しているからです。しかし、タイテルバウム博士はこの研究結果を完全に否定し、心配する必要はないと強調しています。

「この研究の概要を見る限り、医師や一般の人々に危険な誤解を与えている可能性があると感じています」とタイテルバウム博士は述べています。

同氏が最も懸念しているのは、この研究結果が必要な治療を受けられない人を生む可能性があるという点です。

ジョンズ・ホプキンス大学放射線科教授で研究者のシャドプール・デメリ博士は、「エポックタイムズ」に送ったメールで、研究結果の誤解による影響が起こり得ることを認めています。

「特に顕著な低甲状腺機能症や甲状腺を摘出した患者など、明らかに甲状腺ホルモン補充が必要な人々に対して、私たちの研究結果が一般の人々に誤解される可能性がある点は、私も完全に同意します」とデメリ博士は述べました。

デメリ博士によれば、この研究結果は観察データに基づくものであり、因果関係ではなく関連性を示すものに過ぎません。また、このデータは高齢者を対象としていることを明確にし、加齢が潜在的な低甲状腺機能症の発生率を高めることや、未治療の潜在的低甲状腺機能症が自然に正常値に戻ることも少なくないと指摘しています。これらの要因から、特に疲労感や虚弱を抱える高齢者に対して過剰に甲状腺スクリーニングを行うと、過剰治療を招く可能性があると説明しました。

 

誤った推論?

「JHUの研究概要では、甲状腺ホルモンを服用している人は骨密度の低下が起こりやすいと述べられています」とタイテルバウム博士は言います。「しかし、これは当然の結果です。というのも、甲状腺機能低下症の主な原因である自己免疫疾患『橋本病(慢性甲状腺炎)』は、甲状腺治療とは関係なく骨密度の低下と関連しているからです」

タイテルバウム博士は、この主張を裏付けるために『Reviews in Endocrine & Metabolic Disorders』誌に掲載された研究を引用しています。

また、誤った推論がどのようなものかを示すため、次のような例を挙げています。「高血圧の人は心臓発作を起こしやすい。しかし、高血圧の薬を服用している人が服用していない人よりも心臓発作を起こしやすいというデータを見た研究者が、それを理由に薬が心臓発作を引き起こしていると結論づけるのは誤りです。高血圧そのものが心臓発作の原因である可能性を無視しているからです。同様に、JHUの研究は甲状腺機能低下症の主な原因そのものが骨密度低下を引き起こすという事実を無視しているため、結論にはほとんど意味がありません」

デメリ博士は、タイテルバウム博士の血圧と心臓発作の関連性に関するコメントについて議論しました。観察データを解釈する際に存在する可能性のある交絡因子について触れたのです。研究における交絡因子とは、研究結果に影響を及ぼす可能性のある別の要因を指します。

「彼の指摘は一般的には正当であり、私たちも結果の中でこれらの変数を考慮に入れています」とデメリ博士は述べました。「しかし、私たちの研究が観察的な性質を持つ以上、未知の交絡因子が結果に影響を与える可能性を排除することはできません」

そのため、研究チームはこの結果から因果関係を特定することはできず、さらなる研究が必要であると結論づけています。

 

誤った投薬量?

さらに、タイテルバウム博士は、今回の研究結果が投薬量の違いを考慮していない点を指摘しました。甲状腺ホルモンの通常の投与量が骨密度に大きな影響を与えるのでしょうか?

「この研究が示しているのは、私たちが長年知っており、私自身が何十年も議論してきたことです」とタイテルバウム博士は述べています。「いわゆるフリーサイロキシン値を正常範囲の上位15%に維持することは、ほとんどの人にとって高すぎるため、骨密度の低下を引き起こします。一方で、この値を正常範囲内で上位15%未満に維持すれば、そのような影響はありません。そのため、今回の報告と結論は極めて誤解を招くものです」

臨床研究科学者であり、機能医学の著名な医療提供者であるダティス・カラジアン氏も、レボチロキシンが骨密度に与える影響において、投薬量が重要な要素であることに同意しています。

「レボチロキシンが適切に投与され、甲状腺刺激ホルモン(TSH)が基準範囲内に保たれている場合、副作用、特に骨密度の低下リスクは最小限に抑えられます」とカラジアン氏は「エポックタイムズ」に送ったメールで述べています。

さらにカラジアン氏は、特に閉経後の女性において、レボチロキシンの過剰投与が骨密度の低下と関連していると述べています。この年代の女性は、骨の健康を守るために必要な性ホルモンが不足している場合が多いからです。

「JHUの研究も、基礎疾患である橋本病を管理する重要性を強調しています。これにより、自己免疫による甲状腺組織の破壊が進行するたびに投与量を増やす必要性を防ぐことができます」と彼は説明しました。

 

誰がレボチロキシンを必要とするのか?

甲状腺ホルモンの正常なレベルを維持することは重要です。というのも、甲状腺ホルモンはほぼすべての臓器に影響を及ぼすからです(米国国立衛生研究所[NIH])。低甲状腺機能症では体の機能が低下し、甲状腺ホルモンのレベルが十分に低い場合には、臓器機能の低下が深刻な、場合によっては命に関わる合併症を引き起こす可能性があります。

タイテルバウム博士は、甲状腺を摘出した人や、その他の理由で甲状腺ホルモンのレベルが極端に低い人にとって、レボチロキシンや他の処方強度の甲状腺ホルモンを服用することが重要であると述べています。

では、甲状腺ホルモンのレベルが最適ではないものの、危機的なレベルには達していない場合はどうでしょうか? タイテルバウム博士によれば、このカテゴリーに該当する人は多く、自然療法を試みるのも合理的な選択肢だと述べています。ただし、自然療法を試みる人は医師の管理下にあることが重要です。もし自然療法が一定期間内に効果を示さない場合には、甲状腺ホルモン補充療法の処方を受けることが必要です。

 

誤診の問題

タイテルバウム博士によれば、曖昧な診断基準のために、必要な薬を処方されていない人がいる可能性があります。

「甲状腺の治療が必要な人をどう定義するかについて、大きな意見の相違があります」と同博士は述べています。「標準的な医師にとっては、甲状腺刺激ホルモン(TSH)のレベルが高いことが診断の基準になります。しかし、TSHテストは非常に信頼性が低く、『異常』とされるレベルの定義が正確ではない場合があります」

こうした要因により、低甲状腺機能症の症状が深刻であっても、診断や治療を受けられない人がいるとタイテルバウム博士は指摘します。

「多くの内分泌科医にとっては、患者が寝たきりで痛みを抱えている状態から通常の生活を送れるようになる可能性があっても、こうしたケースでの甲状腺治療は不要とされています」と同博士は述べています。「治療が必要な場合、医師は安全性を確保するため、甲状腺ホルモンを中間レベルに保ちながら、最も効果的な最小量の投与を行うべきです」

一方で、特に高齢者の場合、必要がなくなったにもかかわらず、レボチロキシンを長期間服用し続けるケースについても言及しました。

「多くの高齢者は10種類以上の薬を服用していますが、そのほとんどが必要ない場合があります。メディケアは薬の継続的な必要性を評価するための時間をカバーしておらず、何かを中止することは法的にリスクがあるため、不要な薬が中止されることはほとんどありません」と述べています。

 

可能な代替策

米国国立衛生研究所(NIH)によれば、ヨウ素サプリメントの摂取やヨウ素を豊富に含む食品の摂取は、橋本病を持つ一部の人々において低甲状腺機能症を一時的に悪化させる可能性があるとされています。一方で、タイテルバウム博士は、ヨウ素が不足していることの方が低甲状腺機能症を引き起こしたり悪化させたりする可能性がはるかに高いと指摘します。そのため、ヨウ素の摂取を控えるべきか、あるいは増やすべきかについては、ホリスティック医師に相談することを推奨しています。

また、いくつかの自然療法が甲状腺機能の改善に役立つ可能性があります。

「低甲状腺機能症を自然に対処するには、体の本来持つ治癒メカニズムをサポートするための多面的なアプローチが必要です」と、エルサレムの鍼灸師であり専門資格を持つジェイミー・バチャラック氏は「エポックタイムズ」にメールで述べています。

これらには以下の方法が含まれます:

  • 栄養:セレンは甲状腺ホルモンの代謝を助けるため、ブラジルナッツなどセレンを多く含む食品を食事に取り入れることが有益です。橋本病を持つ人には、炎症を減らし甲状腺の健康に貢献する可能性のあるグルテンフリーの食事が推奨される場合があります。
  • サプリメント:ビタミンDやB12の欠乏を定期的に確認し、必要に応じて補充することが甲状腺の健康維持に重要です。
  • ライフスタイルの改善:慢性的なストレスは甲状腺の機能を阻害する可能性があるため、ストレス管理が役立つことがあります。また、適度な運動を定期的に行うことで、血液循環や代謝率を向上させ、甲状腺の健康を促進します。十分な睡眠は、ホルモンバランスや全体的な健康に欠かせません。
  • 消化器の健康:腸-甲状腺軸という新しい概念に基づき、腸の健康を改善することで甲状腺機能に良い影響を与える可能性があります。プロバイオティクス(適正な量を摂取したときに有用な効果をもたらす生きた微生物)や高繊維の食事(豆類のほか、きのこ類やいも類、ごぼう、アボカドなど)が推奨されます。

「これらの方法は症状の管理を支援するものですが、医師に相談せずに薬を中止してこれらに置き換えるべきではありません」とバチャラック氏は述べています。「甲状腺ホルモンのレベルを継続的に監視し、医療チームと相談することで、安全で効果的なプランを確立できます」

 

甲状腺機能低下の原因

米国国立衛生研究所(NIH)は、甲状腺機能低下症の原因として以下を挙げています。

橋本病
橋本病は、甲状腺を免疫系が攻撃する自己免疫疾患です。この病気は炎症を引き起こし、甲状腺が十分なホルモンを生産できなくなる状態を招きます。

甲状腺炎
甲状腺炎は甲状腺の炎症であり、甲状腺内に蓄積されたホルモンが漏れ出す状態を引き起こします。これにより甲状腺中毒症(甲状腺ホルモンの高レベル)が生じることがあります。この状態が数か月続くと甲状腺機能低下症に進行し、最終的には永久的な状態になる可能性があります。

外科的摘出
甲状腺の一部を摘出する手術が行われた場合、時折、甲状腺機能低下症が発生します。一方、甲状腺を完全に摘出すると必ず甲状腺機能低下症が起こります。これらの手術は、甲状腺ホルモン過剰(甲状腺機能亢進症)や大きな甲状腺腫、がん性または非がん性の甲状腺腫瘍などの治療のために行われることがあります。

先天性の原因
赤ちゃんが未発達の甲状腺や正常に機能しない甲状腺を持って生まれることがあります。これにより甲状腺機能低下症が引き起こされます。この状態が治療されない場合、知的障害を伴う可能性がありますが、早期の治療によって防ぐことが可能です。

薬剤の影響
一部の薬剤は甲状腺ホルモンの生成を抑制する可能性があります。例えば、双極性障害(そううつ病)や心臓病の治療薬の中にはこうした影響を持つものがあります。また、一部のがん治療薬は甲状腺自体に直接的な悪影響を及ぼすか、下垂体を損傷することで間接的な悪影響を及ぼす可能性があります。

甲状腺の放射線治療
甲状腺機能亢進症の一般的な治療法である放射性ヨウ素は、甲状腺細胞を徐々に破壊し、最終的に甲状腺機能低下症を引き起こします。また、頭頸部がんに対する放射線治療でも同様のことが起こる場合があります。

 

骨密度低下を最小限に抑える方法

レボチロキシンを服用しているか、低甲状腺機能症であるかに関係なく、骨の健康を促進するライフスタイルを実践することは有益です。

例えば、定期的な運動は骨密度を維持するのに役立ちます。運動は骨の新陳代謝を活発にし、骨を強化することで骨密度の低下を防ぐ効果があります。速歩などは骨に力を加え、骨の働きを活性化させます。また、ウェイトを使った抵抗運動は筋力と骨の強度を高めます。専門家は、中強度の身体活動を週に150分行うことを推奨しています。

もう一つの重要な戦略は、十分なビタミンDを摂取することです。ビタミンDの主な供給源は日光ですが、強化牛乳や強化オレンジジュース、サーモンなどの脂肪分の多い魚を食べることでも摂取できます。

橋本病やその他の骨密度低下リスクが高い状態の人は、特定の栄養素の摂取を補完することが望ましい場合があります。タイテルバウム博士は、マグネシウム、ホウ素、ビタミンKおよびビタミンDの摂取を推奨しています。また、カルシウムの摂取も提案していますが、骨の健康への役割は比較的小さいと述べています。

 

重要なポイント

タイテルバウム博士とカラジアン氏は、レボチロキシンが必要な場合にはためらわずに服用することを勧めています。

タイテルバウム博士は、JHUの研究が人々に低甲状腺機能症の治療を避けさせてしまうのではないかと懸念しています。治療を受けないことで深刻な影響が生じる可能性があり、そのリスクに比べれば治療の利点ははるかに大きいと述べています。

一方で、カラジアン氏はレボチロキシンの高用量使用には注意が必要だと警告しましたが、研究結果自体を否定することはなく、「この研究は重要な懸念を提起しています」と述べています。

さらに、彼はこう説明しています。「骨密度の低下リスクと、治療されない低甲状腺機能症のリスクを比較することが大切です。低甲状腺機能症を放置すると、心臓病、記憶力や判断力の低下、そして健康全体の悪化につながる可能性があります」

(翻訳編集 華山律)

Mary West
フリーランスライター。ルイジアナ大学モンロー校で2つの理学士号を取得。