膵臓がんは、膵臓が体の奥深くにある「隠れた臓器」であることや、初期の症状がほとんど見られないことから、「がんの王」とも呼ばれています。そのため、早期発見が非常に難しく、診断される頃にはほとんどの場合、すでに進行してしまっています。専門家は、早めに医療機関を受診するためにも、わずかなサインを見逃さないことが重要だと呼びかけています。
膵臓は腹部にある臓器で、2つの大切な役割を果たしています。1つは、食べ物を消化するために必要な膵液を出すこと。これによって、タンパク質、炭水化物、脂肪を分解します。もう1つは、血液中にホルモンを分泌して血糖値を調整することです。具体的には、血糖値を下げるインスリンや、上げるグルカゴンを分泌することで、体のバランスを保っています。
アメリカがん協会の報告によると、膵臓がんはアメリカ全体のがんの約3%にあたりますが、がんによる死亡原因の約7%を占めています。今年は約6万6440人が膵臓がんと診断され、約5万1750人が亡くなると予測されています。また、診断から5年以上生存できる患者はわずか12.8%という厳しい状況が続いています。
膵臓がんの主な症状
「健康1+1」という番組で、ニューヨーク大学グロスマン医科大学院(NYU)医学部の助教授であるトン・ジン医師が、膵臓がんの主な症状やリスク要因、治療法について解説しました。彼によると、膵臓がんの初期症状は特異的ではありませんが、注意すべきいくつかのサインがあります。これらの症状が必ずしも膵臓がんを示すわけではありませんが、他の一般的な疾患が除外された場合には膵臓がんの可能性を考えることが重要です。
腹痛と背中の痛み
膵臓がんによる痛みは個人差がありますが、多くの患者が上腹部、背中の中央部、または上部の鈍い痛みを訴えます。これは膵臓の腫瘍が脊椎を圧迫することで生じることがあります。また、痛みが腹部の中心から始まり背中に広がると表現する患者もいます。この痛みは仰向けに寝ると悪化し、前かがみになると和らぐことが多いです。特に、高齢者で胃の治療を受けても治らない慢性的な腹痛が続く場合は、膵臓の病気を疑うべきです。
・黄疸:膵臓の腫瘍が胆管を塞ぐことで、胆汁が十二指腸に流れなくなります。その結果、皮膚や目が黄色くなる、尿が濃くなる、便が白っぽく脂っこい感じになる、皮膚がかゆくなるといった症状が現れることがあります。
・原因不明の体重減少:膵臓がんは食欲を減退させたり、完全になくしてしまったりすることがあります。そのため、意図的なダイエットをしていないのに突然体重が減少した場合は、原因を特定するために医師の診察を受けることが重要です。
・消化器系の問題:膵臓の腫瘍が広がると、胃や他の消化器官を圧迫することがあります。その結果、食欲不振、消化不良、吐き気、嘔吐、お腹の膨張や腫れといった症状が起こることがあります。
・原因不明の疲労感:膵臓がんの多くの患者が、慢性的なエネルギー不足を感じると報告しています。ただし、疲労感は睡眠不足やストレスなど他の要因による場合もあります。
・糖尿病:膵臓がんはインスリンを作る細胞にダメージを与え、血糖値を上昇させることがあります。その結果、喉の渇き、空腹感、頻尿といった症状が現れることがあります。肥満ではなく中年で糖尿病の家族歴がない人が突然高血糖になった場合、膵臓の腫瘍の可能性が考えられます。
膵臓がんのリスク要因
膵臓がんは比較的まれな疾患ですが、その死亡率は非常に高いとトン・ジン医師は指摘しています。以下は、膵臓がんのリスクを高める要因です。
喫煙
元アメリカ大統領のジミー・カーター氏は昨年100歳で亡くなりましたが、彼の家族には膵臓がんの病歴があります。父親、兄弟、姉妹が膵臓がんで亡くなった一方で、カーター氏本人はタバコを吸わなかったと語っています。
ジン医師によると、タバコや葉巻、電子タバコには発がん性のあるニコチンが含まれています。
欧州の研究では、喫煙者は非喫煙者に比べて膵臓がんのリスクが71%高いことがわかっています。しかし、喫煙を5年以上やめると、そのリスクは非喫煙者とほぼ同じになります。また、子どもの頃に受動喫煙にさらされていた人は、膵臓がんのリスクが2倍以上になることも示されています。
肥満
肥満は膵臓がんや他の消化器系腫瘍のリスクを高めます。特にウエスト周囲径が大きいほど、膵臓がんのリスクが高くなるとジン医師は述べています。
2009年に「JAMA」に発表された研究によると、肥満や過体重の人は、若い年齢で膵臓がんを発症しやすいことがわかっています。また、膵臓がん患者の中でも肥満の人は、平均的な体重の人に比べて生存率が低い傾向があります。
糖尿病
肥満は2型糖尿病のリスクを高め、2型糖尿病患者では膵臓がんの発症率も高くなります。ある系統的レビューでは、糖尿病前症または糖尿病の患者の場合、空腹時血糖値が0.56mmol/L増加するごとに膵臓がんのリスクが14%上昇することが示されました。
ジン医師によると、特に若い世代では、ストレスの多い生活や不健康なファストフードの摂取、運動不足が原因で膵臓がんの発症率が増加傾向にあります。
慢性膵炎
研究では、アルコール摂取が慢性膵炎の主要なリスク要因であることが示されています。また、慢性膵炎の人は膵臓がんのリスクが高くなることがわかっています。
長期間の化学物質への暴露
発がん性物質を含む化学物質に長期間さらされることで、膵臓がんのリスクが高まります。
加齢
膵臓がんのリスクは年齢とともに上昇し、ほとんどの症例は50歳以降に発症しています。
性別
膵臓がんは女性より男性に多く発症します。アメリカ癌協会によると、男性が生涯で膵臓がんを発症する確率は1/56、女性では1/60とされています。
人種
研究によると、膵臓がんは白人や他の人種に比べて、黒人アメリカ人での発症率が高いことがわかっていますが、その理由はまだ明らかではありません。
食生活
あるメタ分析では、加工肉を頻繁に摂取する人は膵臓がんのリスクが高いことが示されました。赤身肉や加工食品、飽和脂肪酸の多い食品、砂糖を多く含む飲み物もリスクを高める可能性がありますが、まだ決定的な証拠はありません。ジン医師は、ソーセージやベーコン、揚げ物などの加工食品を減らし、できるだけ自然な食品を優先することを推奨しています。
膵臓がんの治療法
膵臓がんの治療は、早期発見された場合には手術が可能です。ただし、多くの場合、診断される時点ですでにがんが広がっているため、手術が難しくなっています。
ジン医師によると、膵臓がんは次の4つのステージに分類されます:
- ステージ1:がんが膵臓の中にとどまっている段階。
- ステージ2:がんが近くのリンパ節に広がり始めた段階。
- ステージ3:がんが血管や十二指腸に侵入している、またはそれらを巻き込んでいる状態。
- ステージ4:がんが肝臓や胃など、体の他の遠くの臓器に転移している状態。
ステージ1とステージ2の膵臓がんは、腫瘍を取り除く手術が可能です。膵臓がんの代表的な手術である「ウィップル手術」では、良性・悪性問わず腫瘍を切除します。この手術では、十二指腸や胆嚢、胃の一部を取り除き、残った部分を再接合します。非常に複雑な手術で、10時間以上かかることもあり、体に大きな負担がかかります。また、術後の合併症のリスクも高いです。
ジン医師は、ジョンズ・ホプキンス大学で開発された新しい低侵襲手術について紹介しました。この方法では、ロボットの助けを借りて、数か所の小さな切開から正確に手術を行います。お腹を大きく切り開かないため、体への負担が少なく、回復も早くなります。
2018年には、家族に膵臓がんの既往歴があり、リスクが高いと判断されたラナ・ブランドさんにこの手術が行われました。膵臓と脾臓を切除し、膵臓の細胞を肝臓に移植することで、インスリンの分泌機能を維持しました。この結果、彼女はインスリン注射が不要となり、膵臓がんの予防に成功しました。
ステージ3とステージ4の膵臓がんでは、最初から手術を行うのは難しいですが、「サンドイッチ療法」と呼ばれる方法で治療する場合があります。この方法では、まず放射線と化学療法で腫瘍を小さくしてステージ2に戻し、その後手術を行います。腫瘍を取り除いた後も、残ったがん細胞を排除するためにさらに放射線と化学療法を行います。
45歳のMs. Liuさんは、ステージ2の膵臓がんと診断されましたが、がんはステージ3へと進行しつつある状態でした。そこで、放射線療法と化学療法を組み合わせた「サンドイッチ療法」を受けることになりました。この治療により腫瘍が縮小し、無事に手術が可能となりました。その後、手術後の治療を経て、8年が経過した現在も元気に過ごしています。
一方、50代の男性はステージ4の膵臓がんと診断され、肝臓への転移が確認されました。ただし、転移は1か所のみであったため、まず化学療法と放射線療法を行い腫瘍を縮小させました。その後、膵臓の大部分と肝臓の一部を切除する手術が実施されました。術後も放射線療法と化学療法を継続した結果、目に見えるがん細胞はすべて除去されました。それから5年が経過した現在も、男性は良好な生活を送り続けています。
この記事で述べられている意見は著者の意見であり、必ずしもエポックタイムズの意見を反映するものではありません。エポックヘルスは、専門的な議論や友好的な討論を歓迎します。
(翻訳編集 華山律)
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